前回の話
タクシーに乗ったとき、
私たちは一言も言葉を交わさなかった。
ただ、つないだ手だけが、
この先に待っているものを、無言で語っていた。
「近くのホテル、お願いします」
悠斗くんの声が震えていた。
それが、なんだか愛おしかった。
ホテルの部屋に入ると、
ふたりとも、ぎこちないまま、立ち尽くした。
お互いに、何をするかなんてわかっているのに、
それでも、どうしていいのかわからなかった。
先に動いたのは、悠斗くんだった。
「ミキさん……」
名前を呼びながら、
彼はそっと私の髪に指を滑らせた。
それだけで、
背筋がふるえる。
優しく、慎重に、でもどこか必死に。
彼は、私の頬に手を添えて、
今度は、ためらうことなくキスをした。
そのキスは、さっきの飲み屋とは違って、
深くて、熱かった。
私は目を閉じて、
そのまま彼の腕の中に溶けた。
シャツのボタンをひとつひとつ外されるたびに、
羞恥と、期待と、
いくつもの感情が胸の中で交差した。
「ミキさん、綺麗です……」
耳元で、かすれるような声で囁かれて、
思わず息を呑んだ。
若い彼の体は、眩しいくらいに熱を帯びていて、
その熱が、私の肌にゆっくりと伝わってくる。
優しく抱き寄せられたとき、
私はもう、何も考えられなくなっていた。
欲しかったもの。
失っていたもの。
全部、彼の腕の中にある気がした。
深く、深く、
何度も名前を呼び合いながら、
私たちは、ひとつになった。
終わったあと、
彼は私を抱きしめたまま、ずっと離さなかった。
「ミキさん……好きです」
耳元で聞いたその言葉に、
涙がにじんだ。
私も、心の中でそっと返していた。
――私も、好きだよ。
でも、口には出さなかった。
それを言ってしまったら、
本当に戻れなくなる気がしたから。
『今もまだ思い続けて 第5話』へ続く↓
