自分の気持ちに気付いたからといって、
そこから一歩踏み出す勇気は、
その時のオレには、なかった。
このまま、
お兄ちゃんのポジションでいる事が、
まさきにとっても、
オレにとっても、
いちばん良いと、思ってたから。
だけどその夏、
無事に再会を果たせたまさきの様子は、
いつもと少し、違ってた。
一緒にいても、
時々、
いつもの笑顔がふっと消えて、
どこか、思いつめたような眼差しで
オレを見つめる瞳が不安げに揺れるから、
『 どうか、した? 』
何か悩み事でもあるのか心配が先に立って、
訊かずには、いられなかった。
まさきが何か困ってるなら、
どうにか解決に導いてあげたくて
思わず、口に出してしまったけど
まさきから出た言葉は、
あまりに予想外で
────── 言葉に、詰まった。
しょうちゃんには、
好きな人、いる?
遠慮がちに、オレを窺いながらも
でも、
その瞳はひどく真剣、で
まさか、
バレ、た?
オレの気持ちに、気付い、た?
突然の事に動揺をうまく隠せてないオレを、
ジッ、と見つめたまま
不安気に揺れ動くまさきの瞳を見てたら、
やっぱり
ウソは、つきたくなくて。
伝えても、いい?
後悔、しない?
どうか、
どうか、嫌われませんように、と
覚悟を決めて、
口を開いたら
なぜか、
今にも泣き出しそうな顔になったまさきに、
『 待って!!
やっぱり、…… 言わないで。 』
口を、塞がれた。