外面のいい母親のお陰で、一見すれば幸せな家庭だった。

田舎ながらも広大な土地を所有し、父親は加えて地方公務員。
祖父は会計士で一線を退いた後も、お得意様や知人の依頼を受けていた。

田舎あるあるかもしれないが、とりあえずそこら辺の企業に就職するより公務員になれと言う風習がある。
両親も同じで、わたしは高校のうちから公務員試験の勉強をさせられていた。


高校2年の時、医学系の大学に進むことを決めた。

一般的な大学じゃダメだと思ったし、専門的な資格を身につけていれば将来的にきっと何かの役に立つと思ったからだ。


わたしの地元は大きな病院が隣町にしかなく、しかも地元に残る人たちがみんなそこに働くようなところ。患者ももちろん知り合いばかりなのが嫌だったし、事前に調べたところわたしの希望する職種はたまにしか募集をかけていなかった。


きになる国立の大学を調べ上げ、地元から離れた場所を何個かピックアップした。


大学のことを聞かれた時に、自分が調べ上げた情報を伝えた。
反対されたら…
家を出れなかったら…
と言う思いから早口になる。


「いいんじゃない?あんたがやりたいことやれば。」

そう言ったのは母親だった。


一人暮らしも問題無いでしょ。と言っただけで、大学のパンフレットをパラパラらとめくる。

「資格を持つことはいいことだ」

そう言ったのは父親。
だか、父親はそれだけでは終わらなかった。

「この大学だと、東京が含まれてるな。東京で暮らすならゆみと暮らせ。2人で部屋借りれば問題無いだろ」


ゆみとは、父親の妹の娘でわたしの同い年の従姉妹だ。ゆみは軽度の障害を抱えていて、何をするにも時間がかかり、拘りが強い子だった。
ゆみは音楽の大学をいくことを望んでいて、今の調子なら推薦を取れるレベルだと聞いてきた。


家を出れるけど、ゆみと暮らさなければならない…
都会に行きたい憧れはあるけれど、ゆみのお世話をしながら暮らしていくのは無理だと直感が判断した。


ななを相手にするようなもので、絶対自分が疲れることが目に見えていた。


でも父親もおばさんも一緒に住むことに賛成で、おばさんに至っては、


「ゆいちゃんがいるならゆみは音楽に専念できるしちょうどいいわ!」

と最初から家政婦にする気満々だった。


わたしは東京進学を即座に諦め、東京とは真反対の都市に進むことにした。
東京の方より偏差値高いからと言う理由をつけて親を納得させ実家から車で4時間、新幹線で1時間半かかる都市の大学に進学した。


18年間住んだ家を出る時、人様に迷惑をかけるなとだけ散々言われた。

新品の家具、1人きりの部屋、親のご機嫌を伺わなくていい環境。

何もかもが素晴らしく、わたしは絶対に地元に就職しないことを決意した。