後一足遅くなればバスを一本乗り逃す手前で私は額に汗を滲ませてブンブンと手招きする同じクラスの親友、春日部琴里(かすかべことり)と飛び乗った。
彼女の容姿は見るからに私とは真逆のショートボブの髪に細かなパーマをかけて黒髪に白と薄いピンクのメッシュを入れている見るからにバンド向けの派手な髪色だが、これがまた不思議と学年主席・副会長なのだから先生達も何も言えないのだ。
私と琴里の出会いは中学からでその頃から彼女は吹奏楽部、私は合唱部のソロパートだった事もあって前々からベースをしていた彼女からの熱心な誘いで見た事のない世界―――……、バンドへと入ったのだった。
バンド名はEyewink(アイウィンク)。
私の名前から取ったのだと口説き落としされたら断れもしないだろう。
更に「瞬が《琴線》の声って聞いて同じ名前の私は運命感じたの!」と両手を握られ目をキラキラと輝かす姿に思わず長年の親友だが吹き出して笑いながら頷き二度返事でバンド入りを承諾した。
そんな快活な琴里が座った後ろの座席に隣のクラスでギター担当の佐渡悠一(さわたりゆういち)が大股を開き、絶対に弄ってるだろうという制服の着こなしで座っていた。
佐渡は琴里の従弟になる。
学年は同じだが琴里の方が誕生日が早いのだ。
「うお。また同じバスかよ」
あからさまに怪訝そうな顔で私達を見て開口一番がこれだ。
快活な琴里は佐渡と馬が余り合わない。
従弟なのもあるが春日部家の母と佐渡の母は一卵性双生児で家は嫁いだ家は隣町で仲が異様に良く違う高校だった佐渡を両者の母同士が転校を勝手にさせたのだからだ。
音楽という分野ではベースとギターとして一卵性双生児の従姉弟の血が呼ぶのか、両者の母親達も私が推薦枠を貰った音大出だからか最良の技量の持ち主同士なのに顔を付き合わすと睨み合うという…全く世間は狭い。
佐渡は琴里にはきつい態度だが私にはギターと音が良く合うとかで穏やかに接している。
佐渡も私と同じ音大からの声がかかっているのだ。
我が校からはこの二人と琴里位だろう。
所謂、優等生というか特待生。
私の場合は朝のレコード再生機を直してくれたお祖父ちゃん以外は音楽に長けた家系ではなくごく一般家庭なので、この目立つ二人といると如何しても「三角関係なの?」などと噂になるので響きが好きではなかったけれど、一般家庭の両親が特待生として奨学金有りで有名な音大に娘が入るのだからと良い子を通している。
「あんたの顔が見たくて乗ったんじゃないわよ!」
悪態をついた佐渡に琴里も悪態で返す。
毎朝これも日課なんじゃないかとこの光景にだけは溜息が出る。
お願いだからバスの中で位目立たない様にしていて欲しい。
二人とも両者の母に似て美男美女なんだから――なんて声掛けたら巻き込まれるので、高校前のバス停までふたりの歪み合いを視界に入れない程度に相槌を打ち窓の外を見ていた。
バスの経路には地下鉄の駅もありそこへ急ぐサラリーマンや駅から少し進んだ一度行きたい焼き立てのパンを振る舞うカフェテラスのあるパン屋が通り過ぎていく。
何時もの毎日。
そう、何時もの毎日だと今日も思っていたの。



