「秋に鳴く虫の声」を取り上げたいと思っていましたが、
もたもたしているうちにすっかり秋も深まってしまいました。
ある年の秋のはじめに、鈴虫を飼っていたことがあります。
鈴虫は、バッタ目コオロギ科、大型の日本産昆虫です。
日本では古くから鳴き声が好まれていましたが、江戸時代中期より人工飼育が始まり、盛んに販売されるようになりました。
虫の鳴き声を愛でる習慣は西洋にはないものだそうです。
日本には四季があり、コオロギや鈴虫の鳴き声は秋を感じさせてくれるために好まれるのだと思いますが、
私が鈴虫を飼ってみた感想としては、
「リーン、リーン」ではなく「ビィーン」「ビィーン」という、
ちょっと電気的な感じのする音で、
耳の中に無理やり入り込んでくるような感じでした。
うるさくて部屋の中にはおけず、ベランダに置いていましたが、
二重の防音サッシを閉め切っていても、夜になると鳴き声が部屋の中まで聞こえて来て、
家族から「うるさくて眠れない、隣の空き地に逃がして来い」と言われるくらいでした。
このような鈴虫の鳴き声を日本人が好んだのは、
古き良き時代の日本家屋の風通しが良かったところに理由があります。
木と紙でできている日本の家は、障子やふすまななどで仕切られていて
気密性が低くて音を逃がしてしまうので、
今の時代、マンションの室内ではうるさくて仕方がない鈴虫の鳴き声も、
心地よく聞こえていたのでしょう。
調べたところによると、
鈴虫の鳴き声を数字(Hz・ヘルツという単位)で表すと、約4,000Hzとのことです。
コオロギは5000Hz、夏にうるさいセミは4,000~5,000Hz、
キリギリスは9,500Hzと、とても高い声で鳴きます。
人間の声はどうかというと、男性の声は500Hz、女性の声は1000Hz、
ソプラノ歌手の声でも2,000Hzだそうなので、
声に関しては、人間は周波数が低いと言えます。
鈴虫やコオロギ、セミの4,000~5,000Hは、人間の耳が最も敏感に反応する周波数帯だそうです。
言い方を変えれば「人間がうるさいと感じる音域」ということですね。
鈴虫やコオロギ・セミたちは、昆虫でありながら、
わたしたち人間よりも高い波長を使って情報のやり取りを行っています。
波長の荒い「声」というものを使って意思の疎通を図っている私たち人間にはできないやりとりも、
彼らは行っているのかもしれません。
推測なのですが、人間は生まれ持った声と聞き取り能力では、波長の荒い部分しか捉えられないため、
「言葉」というものを創り出し、それをさまざまに組み合わせることで、
波長の高いものを表現する工夫をしてきたのではないでしょうか。
言葉を連ねる試行錯誤を繰り返すことで、人間の頭脳が育っていったのかもしれませんね。
人の聞き取れる範囲は、20Hz~20000Hzだそうです。
これ以上の高周波は、我々が感知できない領域に存在するものの一つで、
言ってみれば、「見えない世界の音」ということになります。
私たちが憧れてやまない「テレパシー」とは、
この領域の音のことでしょうか。
