札幌ドーム | だから構造家は、楽しい

札幌ドーム

札幌ドーム


って、別に日本シリーズを見に札幌に行ってきたわけじゃありません。


札幌に行ってこの写真を撮ったのは、確か佐々木事務所時代3年目の夏旅行のときだったから、5年前。


札幌ドームが竣工して最初の夏でした。


このドーム、何がすごいかって、新庄の守っているセンターの後ろがガバッと大きく開んですよ。


今回の日本シリーズでは全然話題になりませんでしたが。。。


何のためにかって言うと、サッカーグラウンドを出し入れするために、です。


センターの後ろ側から見ると、こんな感じ。


ボウブリッジ外側

このドーム、元々が、ワールドカップ開催が大きな目的でしたから、サッカーができるよう天然芝に太陽の光を当てつつ、ドーム競技場を作れ、という国際コンペが開催されたわけでして、在り来たりなアイデアとしては、屋根を開閉させて日照時間を確保させる方法が思いつくわけです。


ところが、このコンペの勝者の場合、そうではなく、天然芝のグラウンドを別途用意しておいて、そいつを普段は外に置いといて、試合の時だけ中に入れてやる、という案を出して勝ったのですね。(もちろん、そんな理由だけで勝ったわけではありませんが)


その勝者とは、言わずもがな、原広司さんのチームで、構造は、佐々木さんや竹中・大成の精鋭部隊が入っていたわけです。

で、まぁ、ドームなわけですから、本当は形が閉じていなくちゃいけないわけですが、原さんは、蓑を伏せたみたいに、ズバッとセンターの後ろの部分で、ドームを切って、そして、その下をサッカーグラウンドを通過させる、という提案をしたそうです。


伏せたザルを上から押した場合と、伏せた蓑を上から押した場合では、ザルの方が縁が閉じている分、抵抗力がありそうなのは、直感的にわかると思いますが、力学というのは、そうした実に素直なものでして、蓑の場合はやはり、先端が開いているから、その部分が水平に開いてしまいペチャっとつぶれてしまうのですね。


シェルは境界が命、という言葉の良き例えです。


結局、札幌の場合は、2枚目の写真の部分がまさにそれなのですが、佐々木さんが「ボウブリッジ」というシステムを考え出して、ヨコに開こうとするスラストをブリッジ自重と斜め吊材で拘束しつつ、かつ、プレストレスで鉛直の変形や開口部の縁応力も制御するという離れ技をやってのけて、形の上では開いているけれども力学的には閉じている、という状態を実現しているわけです。


見た目は何気なく存在していますが、これがなくては、このドームはそもそも成立していないわけで、ハツラツとプレーする新庄のすぐその背中には、そういう大きなストーリーがあったのですね。


新庄劇場が日本一という形で完結したわけですが、そういうドラマチックな映像をみながらも、


僕はTV局の意図とは無関係に、

やはり、シェルは境界が命だよなぁ、


と思いニヤニヤしながらテレビを見ているわけです。


このドームから得られる教訓としては、もともとシェル効果を期待して作っていたもの・作らねばならないものを、デザインなどの非構造的な理由で突然恣意的にスパッと切ったりするときは、境界については、それ相応にうまく解き直してやらねばならない、ということです。

それができていなければ、そもそもシェルではなくなるわけですから、シェルとして仮定していたスリムな断面が劇的に変化するのは当然のこととなります。


断面効率のよいシェル(軸力系)をデザイン上の理由で否定し、曲げ系にならざるを得ない状況を作ってしまったからには、シェルとしてであれば30cmでできていたものが100cmになってしまったからといって、それは仕方がないというか当たり前の話なわけです。