建築構造物の構造性能最適化とロバスト性に関するセミナー | だから構造家は、楽しい

建築構造物の構造性能最適化とロバスト性に関するセミナー

建築構造物の構造性能最適化とロバスト性に関するセミナー

というタイトルの建築学会主催のセミナーに参加してきました。


ま、難しいです。


建築構造物の設計にあたり、僕ら構造設計者は、たくさんの仮定のもとに計算を行い、その計算結果をもとにして、設計している建物が安全であるかどうかを判定します。

仮定は所詮仮定ですから、正確ではありません

計算結果そのものが不確定性を有しています


ロバスト性というのは「不確定性に対する頑強性」と邦訳されることが多いある種の概念で、制御の世界では随分前から存在しているらしい。建築の構造設計においても、その不確定性を有する仮定を使用している以上、その不確定性に対して影響が少なくなるように設計をしておきましょうというのが、今回のセミナーのテーマ。


鉄骨の強度というものは、信頼おける製鉄所で作られている規格品なわけで、その材料としての性能については、不確定性は非常にわけです。


逆にコンクリートなどは、配合強度を11月からは設計基準強度に対し温度補正で+3ニュートンしなさい、みたいな感じで、えらくいい加減に決められていて、ヤング係数1つとりあげるにしても、不確定性がきいわけです。


また、地盤については、敷地の中でボーリング調査を複数本すればそれぞれの内容がピタリ一致することなどまずありません。限界耐力計算法では、地盤による増幅を検討させていますが、それなんかは、ものすごく不確定性が大きいわけです。


限界耐力計算でなくても、地盤については、一種、二種、三種と3種類に大別されていて、Tcの値もそれらに応じて0.2秒、0.4秒、0.8秒と、なんとも大雑把に定められています。本当は建物の敷地に応じて0.65だったり0.7だったりするハズなんですけどね。


で、まぁ、そうやって大雑把な仮定のもとに行った計算結果に対して、これだったら安全だろうという判断をしています。


今回の偽造事件で、連日報道されている耐震強度というのも、保有水平耐力という増分静的弾塑性解析という計算方法等によって得られる数値をもとにはじき出されるわけですが、それというのは、建物のモデルに対し水平方向の力をゼロの状態から少しずつ増やしながら作用させていって、どこまで力を増やしてやったら建物が壊れるか?ということを計算しているのです。これは、建物の持っている水平方向の力に対する強さの1つの評価方法に過ぎません


当然のことですが、実際の地震力というのは、地面がある時間ガサガサゆすられた場合に、その慣性力としては、右左右左と繰り返しガサガサと作用するわけで、増分解析のようなじわーっと一方向に作用し続けるものとは根本的に内容が違わけです。


でも、内容は違うと言っても、水平方向の力という意味では、地震も増分解析も同じなので、増分解析等で求められる保有水平耐力の値をそこそこのレベルに保っておけば、地震に対してもそこそこ有効だろうという意味で国交省が定めているものなのです。

あくまでも、安全性を判定するための一つの計算方法であり、地震力をダイレクトに反映したものではないということは、僕ら技術者は当然理解しておかねばいけません。

「震度5強で倒壊の可能性アリ」という言葉のもつと言いますか、それこそ不確定性はものすごく大きいのです。

地震なんて、地震波の周波数と建物の固有周期の関係が運悪くあたってしまったりすることもあるわけだし、ヒューザーが使っていた仕上材が偶然に建物の減衰性能を高める材料・工法だったりすれば、ひょっとしたら、震度6でもあのマンションが倒れず、別の建物が倒壊することだってあるわけです。

連日報道しているマスコミさんたちも、その辺のことを少しは理解しておいてくれないと、いたずらに国民の不安を煽り、混乱を引き起こす結果になってしまいます。

世の中に壊れない建物などないのが事実です。

その事実に対し、僕ら建設業に関わる人間はそれぞれの職能の範囲において壊れにくいように作る努力をしなければいけないわけです。


今回のセミナーも「不確定性を考慮することでより壊れにくい建物設計しましょう」という主旨で行われたわけです。

が、まだまだ整理不足というか実務に適用するには早すぎる、というのが率直な僕の印象で、いずれはきちんと研究していただかなくてはいけないことだとは思うのですが、もう少し、実際に行われている設計や施工の現状を知っていただき、足もとを固めてもらいたいと思いました。


僕ら技術者も、設計で用いている数多くの仮定のうち、どれについては不確定性が高く、どれについては不確定性が低い、というものを日頃から意識していくべきだとは思います。


学会も、多くの計算規準類を発刊しているわけだから、その中に登場する設計式において、それらの一つ一つがそれぞれどの程度の不確定性に対し作られたものを明確にすることから始めていくべきなのではないだろうか。


そんな風に感じたセミナーでした。