施主として | だから構造家は、楽しい

施主として

昨日は、リフォームについてゴキブリ対策中心に書きましたが、今日は「施主」を体験したことによって感じたことについて書いてみたい思います。


デザイン全般は大学時代の同級生でもあるスープデザインの土井伸朗君がやってくれました。

「基本的にここをこういう風にしたい。」ということは僕たち夫婦が決めたんですけど、実際に寸法をおこしたり、見積もりがとれる状態に図面を仕上げることまでは仕事をしながらではできないので、お任せしました。


素人の施主ではなく知識も多いので色々と注文や文句が多くて大変だったと思います(笑)。

ありがとう。


施主としては、可能な限り安く納めたいわけですから、見積もりチェックも厳しくなります。結局は人件費が高くつくということで、セルフビルドできる部分は可能な限り自分でやるという方針を決め、そうでないところとの調整をするのに苦心しました。


結局、壁・天井の白ペンキ塗り、軽微なモルタル補修、パテ塗り、天井の聚楽落としは、盆休みを利用して自分でやりました。

自ら塗装中

ので、解体・搬出を盆休み前までに、そして、内装工事スタートを盆休み後となるように調整したわけです。


終盤にくると、当初の設計通りには進んでいない部分の、お金の調整が入りました。ここでも施主としての僕は、可能な限り安くすむように粘るわけですね。土井君もさぞ苦労したことだと思います。


でも本当にいい家になりました。

今、うちの家には、普通に売ってる家具はひとつもないんです。もともとオーダーで書棚とテーブルを作らせていたというのもありますが、リフォームで壁面書棚もうまく作ってくれましたし、昼の子供の遊び場を兼ねた収納ベッドも上手にデザインしてくれました。50㎡をくまなくフルに使いきれてるので随分と広くなりました。

ほぼ完成1  ほぼ完成2


追加でカウンターや子供机も自作しましたし、家具にも拘りが持てるようになりました。


いや、本当に、いい家にしてくれたと思います。


僕は普段、構造がメインの仕事なのですが、巾木や上がりかまちのデザインにも意識がいくようになりましたし、チリひとつにしてもぶさいくなものは許せなくなりましたから(笑)。

フローリングの張り方が横か縦かで随分議論もしましたしね。


で、施主を経験してみて一番よかったことというのは、普段の仕事では見ることのない建築家の側面を見れたということでしょうか。


施主やゼネコン・工務店との調整に奔走し、必死になって建築を良くしようと考えているのに、僕ら構造は「そんなの構造的に全然ダメ」とかあっさりと言っていたのですね。あぁ、ごめんなさい。

僕だって「そんな変更ダメですよ」って言うのは、本当はうれしくないんです。

でも自分の職能ですから守るべきものは守らなければならない。

(そういう意味で、意匠事務所の若いスタッフに対しては最近少し優しくなったかもしれませんけど。)


で、そういう風にお互いに気まずい思いをしなくてすむよう、発生しそうな事件を可能な限り事前予測し回避するのも立派な職務だということで、積極的に建築でモノを考えるようになってきたということでしょうか。


野球の守備では、レフト前ヒットを打たれた際に、ライトは打球と逆の一塁線側に向けて走るのです。正確に言うとレフトの補給位置と二塁ベースを結ぶ直線上です。バッターが隙を見て二塁にまで走れば、打球を取ったレフトは二塁に投げなくてはいけません。レフトが二塁に投げた球が万が一暴投になった場合、ライトがバックアップするためです。その万が一の暴投があったことに気づいてからボールを追うのでは時すでに遅しなのですね。


形やディテールについて考えている時も楽しいもんですが、こういう経験的な読みで不意のトラブルを回避するのも大事なプロの仕事だと自覚できると、それはそれで楽しいもんなんですよ。