star & flower -8ページ目

star & flower

∞eighter∞





「なぁ」

「ん?」

「そろそろなぁ」

「うん?」

「貰って欲しいねんけど」

「何が?」

「鍵」

「何の?」

「俺んとこ」


………私はコイツの部屋に行ったことがない。
彼女と会うその部屋に、行きたいとは思えなかったし、呼ばれたこともなかった。
私から誘うこともなく、コイツが自分から来なければ終わる関係。
だと思い込もうとした。


「なんで?」

「彼女と、別れるから…」

「…………そんなん…要らん……」

「別れるから!」

「なんで今?
あっちがダメになりそうだからこっちでいいやとか、そういうこと?」

(こんな嫌な言い方…)


確かに、コイツの幸せを願ってた。
傷が癒えて欲しいと祈ってた。
私と一緒にいることで埋められる隙間があるなら、それで良いと思った。
なのに今は………。


「ちゃうねん…」

「もう、この話やめよ」



これ以上、嫌なこと言いたくない。
こんなの、ただの嫉妬だ。



「好きやねん」

「………………」

「お前のこと、好きやねん」

「そんなん、口先だけなら何とでも「お前が!俺に同情しとるだけやとしても、俺はお前と一緒におりたいねん」

「……なんで…………」

「ほんま今更やんな…
俺、何言うてんねやろ…
ただの、独占欲やん」



私たちが重ねた夜に名前はない。
恋しいとか愛しいとか、言ったことも言われたこともない。
あったのは、気まぐれに体を重ねる夜と、穏やかな朝だけ。

なのにどうして、コイツの言葉にこんなに涙が出るんやろ。


「なぁ」

「………………」

「なぁって」

「………………」

「俺のこと、好きになってくれへん?」


コイツまだ気付いてないのかと若干腹立たしくもなり、俯いた顔を上げたその時。

ぎゅっ。
と力強く包み込まれる体温と鼓動。
抱かれたのは初めてじゃないのに、えもいわれぬ安心感が湧いてくる。


「あの、さぁ…」

「ん?」

「部屋の鍵は、要らん…」

「…」

「けど…」

「けど?」

「だから、えっと…」


今更、先にちゃんと別れて、とか言いにくい。


「ちゃんと別れたら、考えてくれるん?」


そう言うと、私の返事を待たずにメールを作り始めた。

そしてメールを送り終えると、彼女のアドレスを、消した。

そんなことぐらいで、これまでの時間、どんなに彼女を好きか聴き続けた日々を覆せるとは思えない。

でも、嬉しい自分もいた。


「これでもう、お前だけの俺や。
あとは全部、お前次第やねん。
俺の鍵は、お前だけに開くんやで?」



コイツまた何バカなこと言ってんだ。

仕方ない奴。


そう思いながらも、新しい何かが開いた気がしていた。







あの夜と朝が、私たちの関係を変えた。


アイツはまた、部屋に来るようになった。

今までと違うのは、アイツが私を抱くこと、一緒に眠ること。

今までと変わらないのは、相変わらず突然来ること、朝ご飯を一緒に食べること。
彼女との関係が、続いていること。


「外で待つのやめなって…」

「えぇやん、別に」

「見られるやろ?」

「えぇやん、今更」



誰のせいでもない。

自分の意思で鍵を開いて、迎え入れているのは、私。



周囲から見たら、ただの恋人同士に見えるんだろう。

彼女の存在さえなければ、普通の恋人同士なんだろう。

でも、彼女の存在がなければ、今はないんだろう。


恋だとか愛だとか情だとか、この気持ちの正体は分からない。

私たちの関係には、名前がない。


今のキミは、トモダチですか?







いつものところに座る。

アイツはいない。

酔いの回るのが早い。


インターホンが鳴る。

(だる…)

勢い良くドアを開けると、いるはずのないアイツ。

酔っ払った頭では理解するのに時間がかかる。


「誰か確認してから開けろやぁ…」

「ん?」


定位置に座るアイツの横に、初めて座る。


「女の子が、危ないやろぉ?」

「んふふ?女の子?」

「女の子やんか」

「どのへんが?ねぇ、どのへんが?」

「お前、どんだけ飲んでん…」

「ねぇ、どのへんがぁ?」

「飲み過ぎやでぇ」

「もー、ちゃんと答えてよー!」


距離をつめる私に、戸惑うアイツ。

酔っ払いの私には今、関係ない。

胸ぐらを掴んだところで力が抜けた。








「頭、痛い…」

(ってか、体も痛い)

(なんで、床だっけ?)

隣にアイツの寝顔。

「ん?」

どうやって寝たのか、なんで床に一緒なのか、記憶にないけどどうでも良かった。

(だる…)

横たわる体にもう一度、寄り掛かる。

(あったかいし…)

寝息をたてるアイツを眺めながら髪を撫でる。

そっとキスすると、大きな体を抱き締めて、また意識を手放した。