(疲れた~)
画面の前、体を伸ばしてからもう1回、姿勢を正す。
「お疲れ様です」
よく通る声ではないけど、ざわつくフロアでも聞き間違えることのない優しい声。
振り返りもできずに仕事をするしかないけれど、同じ場所にいるというだけで胸が弾む。
それだけで、頑張れる気がする。
「今日も遅いんですか?」
「わっ!」
突然、真後ろから聞こえる声に驚く。
「や、多分、大丈夫だと思うんですけどね…」
平静を装う。
「じゃあこれ、お願いします」
渡された書類の表を確認して、次の仕事の山にそっと置く。
仕事でも会話ができたことが嬉しくて、密かに口元が緩む。
と、
「ちゃんと、見て下さいね」
立ち去ろうとした背中が呟く。
「はーい」(?)
とりあえず返事をして、目の前の仕事を片付ける。
一目見ただけで、頑張れる気がする。
結局あの日以降、何度もあの喫茶店に行った。
元々お気に入りだった場所が、大好きな場所になった。
約束したことはなかったけど、時々、同じ時間を過ごした。
何気ない会話だけど、ただ、一緒に過ごせるあの時間を、幸せに感じていた。
こんな風に時折思い出しながら、仕事の山を一つずつ減らしていくのが日課。
終業時間が迫る。
残る仕事は、さっき渡された、これ。
『ちゃんと見て下さいね』
不意にあの言葉を思い出す。
(なんだったんだろう…)
思いながらも書類を1枚ずつ捲り、仕事を進める。
「お先に失礼します」
帰っていく同僚たちを尻目に、自分の仕事に集中!
(こんな日は、お茶飲みに行きたいな)
なんて仕事の後の穏やかな時間を思い描いて、やる気を出さないと。
楽しいことが待ってると、仕事もサクサク進められた。
ふと、最後のページに遠慮がちな付箋を発見。
『いつものとこで待ってます』
(……………………………………!?)
何度見ても同じことしか書いてなくて、益々訳が分からない。
そこから先は、何をどうしたのか覚えてない。
この後に何が起きるのか考える余裕はなかった。
とにかく、急いでたような気がする。