あれは、なん年前だっただろうか。


母の家に行った次の日の朝、いつものように母の通帳と印鑑をだして、

母にひと月分の生活費をおろしに行くように言った。


お母さん お母さん、ついでに通帳記入してきて❗️記入欄がいっぱいになってきたからね。

   そして、新しい通帳をもらってきたらいいよ。


おばあちゃん つう…、なんやそれ⁉️


母は、通帳記入を知らなかった。

月々の生活費を父から渡されていたので、父が亡くなってからは生活費をおろすことしか

興味のない母であった。


それにしても、通帳記入を知らんのか⁉️  まじか…。

知らんのか、忘れたのか…。


そして、銀行に行った母は、手ぶらで帰ってきた。

電動自転車は、ひとつしかない。2人で歩いて行ける距離ではない。


お母さん 通帳記入せんでも、お金だけおろして来たらよかったのに。ま、いいわ。

  お金ないと困るやん。今回は、私がおろしてこよか❓今すぐ行けばいいやろ。


おばあちゃん そうか。ほな、おろしてきてくれるか❓


母は、お得意の「また、私が後でするからほっといて‼️」は、言わなかった。



私は、母の通帳と印鑑を持って銀行に行った。

念のために、私の運転免許証と母のマイカードを持ったけど、必要なかった。


母の通帳を見た受付の女性は、申し訳なさそうに言った。


猫 あ、先程、お母さんが来られてね、そこでずっと通帳を眺めてはったんです。

  受付でお聞きしますよって声をかけたら、ええんやって帰ってしまわれたんです。

  せっかく来はったのに、可哀想なことしました。てっきり、印鑑を忘れはったんやと思って。


お母さん いえいえ、私が通帳記入してもらいって言ったからなんです。言えなかったんですね。

 

  

猫 いつも、お金をおろす際に通帳記入もさせてもらっているんですけどね。



母は、うち弁慶です。そしてええカッコしいです。

私のように、知らない人に、知らない事をきけません。

認知症になって、日々の不安や自信のなさが、母をよけいにそうさせるのでしょう。



私だって、好きで知らない人とペラペラ話せるタイプではありません。

でも、転勤族で、知らない土地で暮らしていくうえで、少なくとも知らない事を知らないと言う

ことは、必要不可欠です。

年寄りになり、さらに認知症になった母には、無理なのか…。



おばあちゃん あんたが、難しいこと言うからや。もう、そのうちお金もおろせんようになるわ。

  お金おろせんかったら、ひとりで暮らせん。こんなん考えたら夜も眠れんようになるねん。

  華ちゃんは、ええなぁ。私は全部しなあかんねん。ほんで、できへんなっていくんや。

  なんで、こないなるねん。身体は元気やのに。情け無いよう。死にたいよう。


母の、いつもの愚痴が始まりました。

というか、私に愚痴ったり怒ったりすることで、自分の気持ちを紛らわそうとしているのです。

お金をおろせずに帰って来たことにかなりショクを受けていました。


お金おろせんかっても、ひとりで暮らせるよ。

認知症のできなくなることは、もっともっと、果てしなくいっぱいあるんよ。

ひとつ、ひとつ、乗り越えていくしかない。



お母さん お金、あるんやからいいやん。通帳も印鑑もあるし。

  心配せんでも、なくしさえしなければ大丈夫や。なくしたらあかんよ。

  今日は、私がおったからよかったやん。



お金をおろしたいとも言わず、黙って帰って来た母の気持ちを思うと、

鬼の娘の私も、いつものように「認知症やねんから、しゃーないやろ‼️」とは言えません。


「私がおったからよかったやん。。。」

珍しく、母を慰めた私の言葉の中に、次のステップが隠れていました。


続きます。