オメーがいなくなったら? | 防浪堤は壊れても ~たろうの海から~

防浪堤は壊れても ~たろうの海から~

「防浪提に抱かれて磯の香りも生き生きと」
田老一小校歌の歌い出しです
津波が来ても二重の防浪提が守ってくれると思っていました
津波はその防浪提までも破壊して、ふるさとを壊滅さた
それでも、やっぱり海は麗しいし、川は清い

 友人の養殖漁業者に

 「息子は養殖やらないかな?」

 って聞きました

 

 「オレもちょっとそう思ったけどさ」

 「ぜひ!やろ」

 「オメーがいるうちはいいけどさ、オメーあと何年働くのよ」

 「10年ないな定年まで」

 「ウチの息子が養殖を始めたら、少なくとも30年はやるんだよ。オメーが10年で定年したら、後の20年は誰が面倒見るんだ?事務的なことは誰か代わりもいるんだろうけども、種苗とかさ」

 「・・・・・・・」

 「いいかげん年なんだから誰か後継者を育ててもらわねえと、息子に養殖やれとは言えねえな」

 「確かに・・・」

 

 養殖漁業で「種苗」はもの凄く大事なので、安心して任せられるような担当者を育てなくてはなりません

 それはずっと前から考えていて、これまで何人か教えながら働いたんですけど

 他の部署に持って行かれたり

 精神的にダメージを受けて退職したり

 やれそうな職員はいますけど、そういう人間はほかの業務で欠かせないので動かすわけにもいかない

 

 

 種苗生産がスタートしたらほんの少しも気の休まる時間がないんですよ

 なにしろ養殖漁業者とその家族の生活がかかってるので

 もの凄いプレッシャーにさらされ続ける

 土曜も日曜も祝日もお盆も、親族が亡くなったって、結婚したって毎日見に行かなくちゃなりません

 かといって特別な手当が出るわけじゃなし

 上手くいっても褒められるわけじゃなし

 種苗が悪かったら苦情とか嫌みとか言われる

 どこの漁協の種苗生産施設でも、精神を病んで退職した人がいますね

 

 そんなもん誰がやるかっ

 

 大きな街なら、まだ救いはあるんですよ

 職場から離れれば漁業者と会うことはないプライベートな時間があるから、職場にいる時間だけ耐えればいい

 でも、田老の場合、どこに行っても漁業者やその家族に会います

 職場でもプライベートでも漁業者と関わるわけです

 

 漁業者の奥さんが、別に私を非難するわけでもなく

 「今年はコンブが悪くて生活が大変・・・」

 などと何気なく呟くと

 もの凄ーく責任を感じるわけですよ

 そんなの気にしなければいいという向きもあるかもしれませんが

 オレ、もっと何かできたんじゃないかとか

 大変な思いをさせちゃったなとかいう気持ちになる

 

 なので

 こんなの若い人は誰もやりたくないよな・・・・

 とか

 精神的に病んでしまったらどうしよ

 とか思うので

 

 若い人に辛い思いさせるよりは、オレが背負っておけばいいか

 って、なんとなく今日に至るんですけど

 

 そうなんですよ

 いつまでも働けるわけじゃないので

 

 

 


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