熱いひと | 防浪堤は壊れても ~たろうの海から~

防浪堤は壊れても ~たろうの海から~

「防浪提に抱かれて磯の香りも生き生きと」
田老一小校歌の歌い出しです
津波が来ても二重の防浪提が守ってくれると思っていました
津波はその防浪提までも破壊して、ふるさとを壊滅さた
それでも、やっぱり海は麗しいし、川は清い

 津波の取材に来られた方に

 「津波の体験を書いた文ない?」

 って聞かれたので、以前私が書いたものをPDFで送りました

 

 

 数日後に電話があって

 オレ、この3日間、涙をボロボロこぼしながら読んだよ

 ものすごい体験だね

 実際に体験した人じゃなきゃ書けない

 これは何としても本にしなきゃなんない

 オレ、やっから

 必ず本にしよう

 なんで、今まで本にならなかったかな?

 

 実は今までに本にしようというお話しは何度かありました

 大学の先生とか、新聞記者の方とか、作家の方とか、本の会社の方とか

 

 皆さん読んだ直後は

 絶対本にしましょう!

 って言ってくれるんですけど

 徐々にトーンダウンして立ち消え(笑)

 この物語が本となってたくさんの方に届けられますことを祈ってます

 などというセリフを残して去っていくのである

 

 今の時代、本はどんどん売れなくなってるし

 内容が壮絶だし

 販売数が見込めないので収支に合わないと

 

 そうだよな・・・

 

 

 自費出版なら出せるみたいなんですけど

 数十万円とか

 けっこうなお金がかかるらしくて

 

 

 正直、数十万円のお金まで払って出版しようとは思いません

 辛い経験を書くのって苦しいんですよホント

 壮絶な風景、絶望、悲哀、そういったものを自ら追体験していくようなものです

 思いだしたくない事、記憶から消し去っていることを無理やり思いだして反芻し、文字に起こしていく苦行

 毎夜、津波直後の世界に舞い戻るので、辛くて、苦しくて眠れなくなる

 身を削られるような思いをしながら書くんです

 そうやって何十日も苦しい思いをして書いて、その上でなぜ何十万円も支払わねばならんのだ?

 

 そんなお金があるんなら釣り道具を買うとか、カメラを買うとか、軽トラを買い換えるとかしたい

 

 

 (まあ、どうせいつものごとく立ち消えになるんだろ)

 ところが、今回の方は今までの方々とは圧倒的に熱量が違ってまして

 

 本が売れない時代だから出版社は頼らず自費出版

 はなからそう決めているようで

 

 とりあえず300部、1部2千円として60万円

 金が無いならオレが出す

 こういう実体験の記録は絶対に後世に伝えなければならない

 実際に津波を体験した人は希有で

 その中で体験を文章に著せる人は更に少ない

 あなたはそれができる人間だ

 やらんでどうするんだ

 

 いやはや、やっかいな人にみそめられちゃった(笑)

 

 まさか、お金を出してもらうわけにもいかないしなあ

 できれば出版社が出版してくれればいいんだけど

 

 かの宮沢賢治先生も存命中に出版した本は自費出版の2冊だけだったっていいますから

 私ごときが出版社など畏れ多いか

 

 自費出版して知人に押し売りするわけにもいかないしなあ

 「本を置いて下さい」って本屋を巡るとか

 辛い思いをして書いて、60万円支払って、本屋に頭を下げて営業するなんて

 何一つ良い事ないではないか

 

 とはいえ、どこかに世に出さなければならないという思いはあるわけです

 20歳以下ぐらいの人達は田老の子であっても津波のことを知らない

 今や野原と化した場所に人々の営みがあったことを知らない

 突然、命を絶たれた人々のことを知らない

 小さな子供を残して逝ったアイツのことを知らない

 

 これは伝えなければならないんじゃないだろうか

 生き残った私は

 伝わるかどうかわからないけど、少なくとも伝える努力をしなければならないんじゃないか

 

 などと思いつつ、出版を前提に自分が書いたものを読み返してみたら

 (コレじゃだめだな。販売に値しない)

 直したいところがたくさんあります

 いや全体の構成から見直して

 すべてを書き直すぐらい

 苦行だ

 

 


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