キツいって言えない | 防浪堤は壊れても ~たろうの海から~

防浪堤は壊れても ~たろうの海から~

「防浪提に抱かれて磯の香りも生き生きと」
田老一小校歌の歌い出しです
津波が来ても二重の防浪提が守ってくれると思っていました
津波はその防浪提までも破壊して、ふるさとを壊滅さた
それでも、やっぱり海は麗しいし、川は清い

 漁協で働いておりますと

 口開けとかサケの水揚げとかで朝早く出勤しなくてはならない日があります

 一方、事務処理が集中すると夜遅くまでやらないと間に合わないということもあります

 それはどこの職場でも同じことですよね

 

 ただ、朝早いのと夜遅いのが重なった日はけっこうツライです

 正直、キツいな

 と思うこともあるんですが

 私にはキツいと言えない事情があります

 

 

 

 私は小学生の頃から中学、高校、社会人リーグ、40代のシニアリーグとサッカーをやっており

 その大半の時期一緒にプレーしたNという同級生がいまして

 

 このNがもう25年以上に渡って田老のサッカー少年団を教えてます

 

 私が漁協に入った頃

 Nに一緒に指導者のライセンスを取りに行こうって誘われたんですが

 仕事を休めないって断ったんです

 実際、ライセンスを取ったとしても漁協で生き物を相手に働いてると、子供を指導する時間なんてとれないですから

 

 私とNは田老にサッカー少年団ができたときも、田老一中にサッカー部ができたときも創立メンバーで、部活の先生が転勤するときは、私に「あとは頼むな」って言い残していきました

 私は先生の後を受けて中学生を1~2年だけ教えたんですが

 

 その後、ずっとNが少年団を指導してるんです

 自分の家族もほったらかしで、平日は2日に1日ぐらい指導して、毎週土日は練習とか試合とか遠征になると自分でマイクロバスを何時間も運転して行きます

 遠いところだと朝5時前に出発して、帰りは夜の7時とか

 子供を下ろして掃除してレンタカーを返せば8時、9時になる

 報酬もないのによくやるなあ・・・・

 

 

 漁協事務所のすぐ目の前にある田老一中のグランドにはナイター設備があるので

 少年団はいつもそこで練習してます

 

 仕事が遅くなって夜9時前ぐらいに事務所を出て

 (疲れたー)

 って車に向かうと

 中学校のグランドから

 「そこのスペースを使うんだよ!」

 なんてNの声が聞こえる

 今日もこんな時間までか・・・・

 

 

 ウニの口開けだと私は午前2時ぐらいに起きるんです

 口開けの調整をして

 ウニ漁の準備をして

 ウニを採り

 帰港したら通常業務をして

 夜の7時過ぎに事務所を出ると

 もうヘロヘロです

 (あ”ービール飲んで寝よう)

 って思うと

 「パス大事にしろ」とか

 Nの声が聞こえる

 

 Nはウニ・アワビ漁の名手で、もちろんウニ漁に出漁します

 ウニ採って、仕事にいって、仕事が終わればすぐに小学生の指導

 あー、アイツ、ウニ採ったのに今日も9時過ぎまで教えんだ・・・

 

 オレが疲れたなんて言えねえなあ

 

 

 三十年ぐらい前でしょうか

 岩手県内の市町村代表が対戦する大会に私もNも宮古市代表として出場しまして

 私はMF、Nはセンターバックで準々決勝まで行ったんです

 

 準々決勝が行われる日は、なんとウニの口開けで

 私もNもウニを水揚げしてから会場に直行して出場しました

 当時は手こぎだったので、ウニ漁から帰った時点でもうすでに体力の限界

 おまけにもの凄い暑さで、汗も出尽くした感じ

 「おい!早くアップしろ!」

 って監督に言われても

 「アップ?もうしすぎるぐらいやってきました。いつでも行けます」

 

 午前中の試合はなんとか動けて勝ち上がったんですが

 午後の準々決勝はさすがに体力の限界で、全く走れず

 惨敗

 ウニに負けた

 

 監督は

 「一日ぐらいウニ採らなくたっていいだろ」

 って怒ってましたが

 田老の人間として、ウニを採らないなんてあり得ないので

 


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