「クマタカを生け捕りにするぞ」ヒデちゃんが小声で耳打ちする。
「クマタカなんているの?」私も自然と声が小さくなった
「内緒だ。今日の午後に行くぞ。」まるでショーンコネリーが演ずるジェームスボンドのようなニヒルな顔つきで、丸坊主の中学生が言った。
ヒデちゃんはマタギ、というよりも矢口高雄さんが書くマタギのマンガの大ファンで、 突然鷹匠になると言い出した
「クマタカを見つけたんだ。あいつを生け捕りにして手なずけるから手伝え」と言う
田老には冬はオオワシも飛来するし、海に出ればミサゴやハヤブサといった猛禽類をわりと簡単に見ることができる。でも、クマタカは見たことがない。さすがに生け捕りは無理だろうとは思ったが、クマタカはぜひ見たい。2つ返事でOKした。
土曜日のお昼過ぎだった。中学校からの帰り道で「昼メシ食ったらすぐ来いよ」と丸坊主のボンドが言う。
「ヒデちゃん、クマタカなんてどうやって生け捕りにすんだ?」
「良いところに気が付いた。クマタカは陸の王者だからな。そう簡単には掴まんない。だから、雪でエサをとれない今しかチャンスはないんだ。実は前からいるのは知っていたんだがな、雪が降るのを待ってたんだよ。」
ヒデちゃんの計画はこうだ。
まずワラダを使ってウサギを生け捕りにし、空が開けた場所にウサギをロープで縛って逃げられないようにする。
その後ろには刺し網を張っておき、刺し網の反対側にオレ達が雪の中に隠れる。
クマタカがウサギに襲いかかったら雪の中からオレ達が飛び出せば反対側に逃げたクマタカが刺し網にかかる。
つづく