金網の向こう側3 | 防浪堤は壊れても ~たろうの海から~

防浪堤は壊れても ~たろうの海から~

「防浪提に抱かれて磯の香りも生き生きと」
田老一小校歌の歌い出しです
津波が来ても二重の防浪提が守ってくれると思っていました
津波はその防浪提までも破壊して、ふるさとを壊滅さた
それでも、やっぱり海は麗しいし、川は清い

「カンチ、なんか居る。」と言っても

「オレが釣ってた時は何も居なかったよ、木の枝じゃねえ」と信じようともしない。

もう一度、同じように落ち込みの上に投げる。水と一緒にバッタが沈むとコンクリートの下から黒い影が出てきてバッタの周りをぐるぐると回り始めた。木の枝なんかじゃない間違いなく魚だ。

しかもデカイ。でも、さっきと同じようにバッタが浮き上がったらコンクリートの方に戻っていった。

なんだろう。針が見えて居るんだろうか。でも代わりのハリはない。浮かばなければ良いかもしれないと、かみつぶしオモリを付けてもう一度流してみた。さっきまでよりすんなりとバッタが沈んでいくと、同じように黒い影が出てきてバッタに近づいた。「ゴツゴツ」と確かな感触が手に伝わる。やった。と竿をあおると感触は無くなり、黒い影はさっとコンクリートの下へと消えた。

「ああー」と思わず出てしまった声を聞いてカンチが「どうした」と聞く。「なんかが居た。引いたよ。」というと「ウソー」とやはり信じようとしない。

バッタは足が何本かとれていた。間違いなく魚だ。カンチを納得させるには魚を見せるしかないだろう。

同じエサではさすがに食わないと思い、また金網を越えてエサを探したものの、日が陰ってきたせいか、今度はなかなか見つからない。

ようやく、さっきと同じようなバッタを捕まえて金網を越える。

もう、出てこないかな。

不安を持ったまま同じように投げる。バッタが底まで流れると黒い影が出てきた。でもさっきより大分大きな円を描いてバッタの周りを回る。警戒しているようだ。餌を上げたいのを我慢してそのまま流すと、エサと同じ速度で円を描きながらついてくる。流れきって下流のコンクリートまでバッタが流れた時、突然黒い影がバッタに突進した。

「ひゅっ」と糸が鳴る。バッタは視界から消えて、黒い影は上流のコンクリートへと向かい、見えなくなった。何が起きたか解らない。

バッタも黒い影も見えないが、テグスは上流側のコンクリートの下へ入っている。そっと竿を上げると今までにない重量感が伝わってきた。更に上げる。グッと押さえ込むような生き物の感触がする。

一気に引きずり出そうと下流側に竿を倒して思い切り引っ張った。コンクリートの下から黒い影が現れてもんどり打つ。ググンという力強い手応えがあって黒い影はコンクリートの下へと向かう。「やった、カンチ、来たぞ」

弧を描く竿を見てカンチもさすがに信じたようだ。

「うそ、どこにいた。エサは。どうやって釣った」と矢継ぎ早に質問するが、答える余裕なんか無い。

魚が大きく尾を振ってコンクリートの下に潜り込もうとするのを、竿を下流側に倒して必死に耐える。

「無理すんな。切れるぞ」

カンチが叫ぶがコンクリートの下に潜られたらアウトだ。根拠はないけれども何となくそう思う。きっと広いプールで勝負した方が良い。上流のコンクリートに向かおうとしていた魚が今度は下流に走った。反射的に上流側に竿を倒して耐える。今度は私の足の下に突進してきた。竿を空に向かって精一杯突き立てて足下に潜られないようにする。「ああ。」だの「わあ。」だのカンチが声にならない声で叫ぶ。

とにかくコンクリートの下に潜られてはダメだ。と魚の逆向きに竿を倒してひたすら凌いだ。魚は手前がダメなら上流、それがダメなら向こう岸へと突進するのですごく大きな円を描いているようなものだ。

やがて徐々に円は小さくなっていき、動きが少なくなってきた。「空気を吸わせろ」私の竿を奪いかねない勢いでカンチが叫ぶ。。

竿を立てると魚が水面で口を開けた。

「うわあ」2人一斉に声を上げる。それは歓声ではなく、恐怖に近いものだった。

デカイ口にヌメッとした黄色い体色、ヘビのような体の動き。これまでに見たどんな魚とも違う異様な魚が水面に浮かんだ。神秘的な風格を持った魚だった。

「小僧、舐めるなよ」とでもいうような怖い顔で魚に触るのはなんとなく恐ろしかったので、糸をもって陸にあげた。

バタン・バタンと重量感をもって暴れる。黄色い体に白く小さな丸い斑点。紫がかった体側。白い腹の下にはアザのような朱色の斑紋がある。これがイワナ?

腹が赤いのは病気じゃねえの、逃がした方が良いよ」とカンチがいう。殺したら罰が当たるんじゃないかと怖くて逃がそうと思っていたが、その不思議な魚を逃がしてしまうのはすごくもったいないことのようにも思えた。

ヌメッとしてひんやりとした感触、骨を感じさせないしなやかな動き。初めて釣ったイワナを両手で持っても尻びれから先と胸びれから先がはみ出して、大きな黒い瞳がねめつけるようにこちらを見ていた。

逃がそうか、でも、こんなに大きくて不思議な魚を友達に見せたいとも思う。両手で魚を持った私にカンチは

「絶対病気だって、逃がした方が良い」としきりに勧める。

こんな魚もう二度と釣れないかもな。魚を眺めて躊躇していたら突然魚が暴れ出し、両手の間からするりと抜けて音もなく水に吸い込まれていった。そうなるのが当然の成り行きでもあるかのように、ゆったりと尾を振って見えなくなった。



先輩に怒られる。

暗くなり始めた道をカンチとダッシュした。来た時とは違ってやたらと疲れてしまった。

釣り竿と仕掛けをそっとマジソンバックに入れて体育館に戻ると、球拾いをしているサッカー掛け持ち組が小声で「釣れたか」と聞いてくる。カンチがうつむいているのが見えたから質問には答えなかった。

先輩達にどやされるものとびくびくしていたら、何のおとがめもなしだった。

オレ達が居なくなったことにすら気づかなかったのだ。

ほっとすると同時にガッカリした。