アタシの母はリタリン依存症です。リタリンとは簡単に説明すると、病院で処方される唯一の覚せい剤です。


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仕事に行き始めた母は何だか前よりも生き生きとしていた。

しばらくして休みの日に出かけたり、夜出かけたりするようになった。

ある日、夜出かけた母は22時半頃電話をかけてきた。

『今日ちょっと泊まるから、心配しなくていいから。』




男だった。


帰ってから話しを聞いた。


どこで知り合い、何をしてる人なのか。

仕事の派遣先の病院に入院していた患者で、職人だった。

聞けば聞くほど上手い話しだった。

仕事復帰したら、自分は寮に住むから生活費はほとんどかからない。毎月20万やるから部屋を借りて、そこにとりあえず住んでくれ。仕事がしたかったら、仕事してもいいが給与は娘に渡して貯金しておけ。

まだであって間もないのに、祖母に会いに行くと言い出した。結婚の挨拶に行くと。

去年の今頃。

挨拶に行くのはGW。

祖母も不信感でいっぱいになっていた。


GWが近づくとパタンと出歩かなくなった。


『挨拶行くのやめたから。』


結局、その男が全て適当に言っただけのでたらめを完全に信じてしまっただけで、相手は結婚する気もお金を渡す気もさらさらなかった。


当たり前だ。

母は学歴と金で人を見る。

その男の場合は金をみた。

金があると思って近寄った。結婚してくれと言い寄った。
男もそれに乗った。
あまりに怪しいので、マンションの権利は譲らないし、籍を入れるのはしばらく待ってくれとこちら側から提示した。

そしたら、どんどんボロが出て結婚話しは流れた。


いつもそう。

離婚してから母は数人と交際していた。
子供ながらにそれが嫌だった。

あの人は高学歴。
あの人は金持ち。

そんな話しを聞かされるたびに嫌な気分になったのを覚えている。


そしてこの結婚騒ぎの後もまた問題が起きる。
アタシの母はリタリン依存症です。リタリンとは簡単に説明すると、病院で処方される唯一の覚せい剤です。


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退院して数ヶ月がたった。

母は毎日朝から作業所へ行き夕方帰宅する生活をしていた。

体調は良さそうで、入院前とは比べものにならないほど回復していた。
毎日リハビリがてら愛犬の散歩に行き、歩く習慣をつけた結果、しっかり転ばずに歩けるようになったし、呂律も回っていなかったが、はっきり話せるようになった。


2週間に1回病院に通院もしていた。

ある日母が言った。

『病院の先生から仕事をしていいッて。』

と。

不安もあるが、見付けてきた派遣の掃除の仕事を1日3時間週5日やることになった。
仕事が終わるとすぐに作業所へ行き、夕方帰宅するようになった。


私は母が作業所に行きはじめてしばらくしてから、毎日お弁当を作ってあげていた。
仕事をするようになってからも、お弁当はかかさず作っていた。頑張って!という気持ちを込めて…。



数ヶ月してまた、問題が起きた。
アタシの母はリタリン依存症です。リタリンとは簡単に説明すると、病院で処方される唯一の覚せい剤です。


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1ヶ月の入院生活をして、その間に体調の良いときはNAやAAに出向いていた。

退院してきてからも、NAやAAになるべく出向くようになった。
凄く嫌がっていた作業所にも、楽しいと言って行くようになった。

顔色も良くなって、食事も良く食べるようになった。

『仕事がしたい。』

そう漏らすようになった。

元々仕事大好きでバリバリ働いていた人。

でも今の母にそれが出来るだろうか。
今無理をさせてまた戻るかもしれないと言う不安だけが残る。
健常者と働くにはまだ早い気がした。

『病院の先生から許可が出たらね。』

ずっとそう言い続けた。