アタシの母はリタリン依存症です。リタリンとは簡単に説明すると、病院で処方される唯一の覚せい剤です。


***********

息子が電話に出ると、女性だった。

元気だった頃長年勤めていた会社関係の人だった。

長々と話した後母が言った。

『あの人は、○○さんじゃない。○○さんだったら、私をアンタとは言わない。誰かがなりすましているに違いない。』


散々昔話をした挙げ句、違う人だと言う。

私は病院の担当医に電話した。

一連の話しを終えた後先生は言った。

『私も、最近のお母さんを見ていて入院が必要だと思っていたところでした。でも入院にはまたたくさんの費用がかかりますので、娘さんやご家族の判断になりますが、連絡しようと思っていた次第です。』

『また入院ですか…。期間はどの程度ですか?』

『そうですね。1、2ヶ月でしょうか。最近のお母さんは妄想が酷く、何かから逃げているような感じがするんですね。もし入院が難しいようであれば、薬を少し変えてみてから考えてみてもいいと思います。』

まさにその通りで、入院を視野に入れなければならない現実を突き付けられてしまった。

弟たちや祖母、叔父に連絡した。皆口を揃えて言った。

これ以上お金は出せない。

私がお金を出せば、なくはなかった。でもとりあえず薬で様子を見る方向で話しを進める事にした。

アタシの母はリタリン依存症です。リタリンとは簡単に説明すると、病院で処方される唯一の覚せい剤です。


***********

仕事を二つ掛け持つようになってしばらくすると、意味の分からない被害妄想のような話しをするようになった。

こんな内容だった。


『○○くん(長男)に電話しようと思って登録してある番号にかけたら見知らぬ男性が出て、私の声を聞いてバカ笑いされた。それから知らない電話番号から何度も着信があって気持ち悪い。誰かが私を陥れようととしているに違いない。』


『出てみたら?』

そう言ったが聞き入れない。

『誰かが私の携帯をロッカーから出して、知らない番号を登録したんだと思う。前に中国人の子と仲良くなってメールを私が返さなかったくらいから私を無視するし、それから他の職場の人が私を見ると逃げる。その中国人の子が怪しい。誰かに雇われて私を陥れようとしてるんだ。』

そんな訳の分からない話しがあるわけない。
もしそうだったとしても、ただの嫌がらせで自分になんのメリットもない事をするだろうか。
若しくは仮にお金を払ってまで嫌がらせするだろうか?

”私を見ると皆逃げる”
と言うのも、気持ちの持ちようでどうにでも捉えられる。
例えば、皆が喫煙所にいたから私が行ったら皆が逃げた。
自分が嫌われているかもしれないと思っていたら、そう感じると思うし悲しい気持ちになる。
でも、たまたま自分が行ったら皆が吸い終わりその場を後にした。と言うだけだったのかもしれない。
だから、被害妄想の強い母の事だし、そんな大それたイジメなんてないだろうと思った。


とりあえずその番号からの着信を拒否する設定にした。

でも数日後その設定はなぜか解除されてしまったようだった。母は機械音痴で携帯は最近やっとメールが何とか打てる程度で設定などは出来ない。
いじっているうちに、色々な設定にしてしまう事はよくあったので、またそんな事だと思って気にしていなかった。



設定解除になるとまた、知らない番号からの着信が何度もあった。

怖かった母は、私の子供に出させた。
アタシの母はリタリン依存症です。リタリンとは簡単に説明すると、病院で処方される唯一の覚せい剤です。


***********

仕事をし始めて数ヶ月して、また履歴書が部屋に置いてあった。

母は私に相談をしないで、勝手に行動する事が多い。

どうやら、仕事を掛け持つようだった。


生活に困っているわけではない。

私の少ない給料と、母の給料を少しもらって生活はできている。

仕事を増やせば人間関係がまた新しくなり、母の精神状態が崩れるのではないかと心配だった。

自立して早く一人で暮らしたいのだろう。それは百も承知。
でもそれ以前に、精神状態が崩れる事の方が私たち家族にとって一番怖い事だった。
精神状態が崩れ、今の生活パターンが壊れてしまう事よりも、今はただ、少ない給料でもいいから平穏な生活をしたかった。
元気でいてくれればそれでいい。

社会復帰はそう簡単ではない。


何も言わず、見て見ぬ振りをした。

しばらくして母から
『2つ仕事してるから。』

そう言ってきた。

『掛け持つのはいいけど、体を優先してね。』

ただそれだけ話した。

2ヶ月くらいたった頃だった。

予想は的中した。

母がわけのわからない事を言い出し、毎日色々な人に電話をかけていた。
精神状態が不安定になると決まって電話で色々な人にその話しをしまくり相談をして、寝なくなる。

また何かあったんだと思った。

でも話しがめちゃくちゃ過ぎて、また被害妄想のような内容だった。