うつくしが丘の不幸の家
町田 そのこ
2021/06/15
★ひとことまとめ★
ある1軒のお家の歴史…
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
築21年の三階建て一軒家を購入し、一階部分を店舗用に改築。美容師の美保理にとって、これから夫の譲と暮らすこの家は、夢としあわせの象徴だった。
朝、店先を通りかかった女性に「ここが『不幸の家』だって呼ばれているのを知っていて買われたの」?と言われるまでは――。
わたしが不幸かどうかを決めるのは、他人ではない。『不幸の家』で自らのしあわせについて考えることになった五つの家族をふっくらと描く、傑作連作小説。
【感想】
「52ヘルツのクジラたち」を書店で見かけて読んでみようと思ったのですが、一度も読んだことのない作者さんだったので、まずはこちらから…(よさげだったら「52ヘルツのクジラたち」を読もう)と思い、読んでみました
結論から言うと、とてもよかったです~
普通、これから家に入居する人と、退去していった人って、交わることがないじゃないですか
その家でどんなことがあったのか、どうやって過ごしていたのかなど、すでに退去した人にわざわざ聞くこともできないし…。
新築でない限り、絶対自分より前にその家に住んでいた人がいるわけですよね。
これから入居する人は、その家の過去については知らないまま入居するので、近所の人が「この家の人はみんな不幸になって出て行ったのよ」と言って来たら、そうだったのか…自分はそんな不幸な家を買ってしまったのか…と信じてしまいますよね。
ですが、この作品では、現入居者も含め計5家族のその家で過ごした思い出が描かれているので、その家の”過去”について知ることができます。
現在から過去に遡っていく形でお話が構成されているので、現入居者が疑問に思っている部分が、お話を読み進めていくうちにわかるようになっています。
首吊り自殺にするのにちょうど良さそうな高さに打たれた釘、庭にある「縁起が悪い」と言われる枇杷の木、「おんなのおはか→じごくいき」と書かれた落書き…それらが一体どういう経緯でその家に存在しているのか、わからないままだと不気味ですよね。
しかも、近所の人にまで「不幸の家」と言われてしまったら、それらすべてが不幸の一因なのではないかと考えてしまいます。
けれど、全て読み終わってしまえば、それらは不幸の原因でもなんでもなく、むしろ幸せを象徴するものだったんだな~ということが分かります
その中でも、枇杷の木のエピソードが良かったですね。そのお話と繋がっていたのか~と納得しましたし、エピローグで彼らが再会できて嬉しく思いました。
お隣さんの、荒木さんがまた良い人なんですよね~。悩み苦しむ住人達それぞれに、そっと手を差し伸べてくれる存在というか、幸せを気づかせてくれる存在というか。荒木さんがいなければ、確かにみんな不幸のままで、家も「不幸の家」と呼ばれるままだったかもしれないと思いました。
家の歴史。それは過去入居していた人たちの思い出でもあります。
みんな山あり谷あり、泣いたり笑ったりして過ごしていて、毎日楽しくて笑顔だけということはありません。辛い時だってあるし、苦しいときもある。
事情を何も知らない近所の人からすると、住人達の辛い時期だけを見ていたら、確かに不幸の家だと思うのかもしれない。けれど、詳しいことはなにも知らないのに、新しい住人に対して「不幸の家」って言うなんて、早計というか、ヤメロ!!って感じです
自分が気に入って購入した家なのに、不幸の家だなんて言われたら誰だって悲しくなります
いまの住人たちである美保理たちが、家を気に入って、これからも楽しく暮らしていってほしいなと思いました