ポイズンドーター・ホーリーマザー
湊 かなえ
2021/03/28
★ひとことまとめ★
親の心 子知らず…
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
湊かなえ原点回帰! 人の心の裏の裏まで描き出す極上のイヤミス6編!! 私はあなたの奴隷じゃない! 母と娘。姉と妹。男と女--。ままならない関係、鮮やかな反転、そしてまさかの結末。あなたのまわりにもきっといる、愛しい愚か者たちが織りなすミステリー。さまざまに感情を揺さぶられる圧巻の傑作集!!
【感想】
久しぶりの湊かなえさんです
ざっくりとしたあらすじと感想を書いていこうと思います
・マイディアレスト
淑子という女性が、何者かに殺害されてしまった6歳年の離れた妹・有紗について刑事に語るお話です。
淑子は母親から厳しく育てられ、進路や友人、異性との交際についても母親に従わざるを得なかった。対して、妹の有紗には甘く、淑子には怒るが有紗には怒らないということがほとんどだった。
厳しく育てられた淑子はその反動からなのか、気持ち悪い映像(幻想)が見えたり頭痛がするようになり、仕事を辞め実家暮らし。もちろん交際相手もいない。
対して有紗は交際相手をころころ変えた挙句できちゃった婚をして、出産のために実家に里帰りしていた。
そんな時、近所で妊婦ばかりを狙う暴行事件が起こり、夜間に買い物に出ていた有紗は運悪く殺されてしまう…。
こんな露骨に姉妹格差がある家族あるか…?とも思いましたが、ありそうだな~。上は厳しく育てるけど、下は甘やかす(そこまで縛らない)ってよく聞きますよね。
母親が「お姉ちゃんはだめな人間ね」とずっと言っていれば、妹も「お姉ちゃんはだめな人間なんだ(自分のほうが上)」と思うようになり、家族から軽んじられてしまう…。
自分のことをわかってくれるのはペットの猫だけっていうのも悲しいですね。
選択の自由がなく我慢我慢の人生で、母親の言うことに従ってきたにもかかわらず、母親からは「病気」扱いをされてしまう。
唯一心許せるのが猫で、そんな猫にまで裏切られたような展開になってしまったら、プチっと切れてしまうのも分かる気がします。
蚤(ノミ)をつぶす描写が出てくるのですが、虫が苦手な私はゾワゾワしました
刑事さんが聞き込みをしているんでしょうが、今は防犯カメラもいっぱい設置されているので、いくら人通りのない道だとしてもすぐ犯行がばれちゃいそうですよね~
母親も有紗が殺されたってだけで発狂しそうだけど、淑子が殺したってわかったらもう廃人になっちゃいそう。。。
・ベストフレンド
脚本新人賞にノミネートされたが、惜しくも最優秀賞を逃した漣涼香。最優秀賞は大豆生田薫子という、冴えない女だった。
多数決であれば涼香の作品が最優秀賞だったにもかかわらず、ベテラン脚本家のわがままにより薫子が選ばれたということを知り、まだチャンスはあると思い脚本を書き続ける涼香。
薫子に闘争心を燃やし、彼女を小馬鹿にするが薫子は順調に脚本家としてのキャリアを重ねていく。思うように脚本家への道が開けないことに焦る涼香は、授賞式から帰国する薫子を直撃しようと計画し、実行する…。
大豆生田(まみゅうだ)、漣(さざなみ)です
湊かなえさんでよくある、「あ、恐らくこのセリフは主人公のものと見せかけて違う人のものだな」ってパターンです。ミスリードを狙った叙述(じょじゅつ)トリックです。
けどな~、いまいち決定打に欠けるというか、いままで憎い憎い!なんであいつが!!私があの場にいるはずだったのに!!!って人が、良く考えてみたらこれが親友ってものなのかも?花束渡しに行くねってなるか…?
賞を逃し、パートナーにも恵まれず、才能も認められず、仕事もバイト。かたやかつて冴えなかったライバルは順調にキャリアを重ね、いまでは映画賞をもらうほどの大物に、極めつけは監督と結婚予定。
こんなに打ちのめされることがたくさんあって、「親友」って急に思うか…?って疑問に思ってしまいました。
薫子もそりゃびっくりですよね、いままでさんざん小ばかにするメールを送られてきたのに、「親友」って思われてたなんて。なんというか、涼香の執着というか、粘着質である意味怖いです。
・罪深き女
殺人事件の犯人・黒田正幸について、子供の頃同じアパートに住んでいたというよしみから、主人公の天野幸奈が彼を擁護する内容を語るというお話です。
お互い片親ということもあり、正幸のことを子供のころから気にかけていた幸奈。彼の母親にはどうやら交際相手がいるようで、彼の交際相手が来るときは彼は放置されているようだった。幸奈の母親はそんな正幸の母親を疎んでいるようだったが、母親の監視をかいくぐり、幸奈は彼が家から閉め出された時も彼に気を配り、パンの差し入れも行ったりしていた。
そんな二人の関係は、正幸の母親のたばこの不始末が原因で起きた火事によりあっけなく終わってしまう。火事によりお互い母親を亡くしてしまったため、幸奈は施設に入り、正幸は親戚に引き取られることとなった。
そして時が経ち、幸奈と正幸が偶然再会した一週間後に正幸が犯行を起こしたということで、正幸と自信な悲運な生い立ちを語り、彼を擁護する幸奈だったが…
幸奈の母親が1番の毒だったせいで正幸は不幸になってしまったってことですね。自分の母親をいじめてる人の子供になんて、2人で協力しあって生きていこうなんて思いもしないよなあ。
幸奈の勘違いはあるけれど、母親の嫌がらせ行為を全く知らなかったのであれば、そのような解釈になっても仕方ない気がする。勝手に運命を感じすぎてるのは痛いけれど。
1つの事柄があっても、一人ひとり解釈が違うように、正幸の言っていることが真なのかはわからない。火事の際、「お姉ちゃん」と正幸は言ったのか?それは結局書かれていなかったしな~。年取れば子供の頃のこと忘れることもあるし、自分の都合のいい事実しか覚えていない可能性もあるからね・・・
・優しい人
バーベキュー広場で奥山友彦を刺殺した疑いをかけられている、樋口明日実に関するお話です。友彦の周りの人物の証言パートと、明日実のパートで話が進んでいきます。
大人しい性格で心優しい(とみんなが思いこんでいる)友彦と、母親から口うるさく”人に優しく”と言われ続け人に優しく接してきたはずの明日実。優しくするがあまりおかしな人に好意を持たれたり、面倒な役回りを押し付けられる人いますよね。それがまさに明日実です。
幼稚園の頃は、通園の時誰も手を繋ぎたがらない男の子と手を繋がされ、小学生のときはよく吐く男の子の面倒を見せられ、高校では嫌がる友達の為に二人三脚のメンバーを変わらされ…社会人になってからは、周りから嫌われる友彦に同情し優しくしたせいで好意を持たれ…。
どれも明日実が拒否の反応を見せると、相手が不登校になったりしてしまうため、結局は明日実が悪者にされてしまうという…。。友彦にいたっては明日実が拒否した途端嫌がらせを始めるようになったにも関わらず、元の性格が大人しいからかそんなことをするような人間には見られず、明日実が悪魔呼ばわりされるという…。。
明日実は実際は優しいというより、人に無関心だからこそ、人に興味がないからこそ、相手に優しくできているだけなのですが、悪いようにとられるとお人好し(嫌味)、八方美人とか言われますよね。
(作品の世界の)警察もボンクラではないと思うので、少し調べれば友彦が書いていた日々の鬱憤晴らしのブログや、明日実の彼氏の会社への嫌がらせ行為などはすぐ明るみにでると思います。
そうなったとき、「やっぱり…本当は友彦はそういうことをする奴だと思ってました」「明日実はそんなことしないってわかっていました」って周りは手のひらを反しそうですよね~
最後の証言はいったい誰によるものなんでしょうか?別に特定の誰かってことはないんでしょうか…。
言ってる内容(周りに優しいように接し続けた明日実の我慢と犠牲によって、明日実の周りの人々は平和に過ごせてこれた)はわかるのですが、いままで証言は友彦の周りの人間がしていたと思うので、急にあんた誰?って感じです。誰が誰に言ってるの?と。まあ読者に向けたメッセージなんでしょうけれど…。
・ポイズンドーター
・ホーリーマザー
どちらも、同じ母娘に関する話なのでまとめます。
ポイズンドーターは、過干渉の母から逃げるように田舎を出て女優になった弓香が、地元の親友の理穂と連絡を取りつつも母に会いたくないため地元には帰らないというメールのやり取りを行いながら、そういえばあの時も母は毒親だった…と過去を振り返る話です。
テレビ番組で理穂の母親を毒親としたエピソードを話し、のちに自分の母の毒親エピソード本を出版するようになり、結果母は交通事故(心神喪失のため?)で亡くなります。
ホーリーマザーは弓香の母親・佳香に関する話です。理穂の義母が、佳香と知り合いだったこともあり、佳香は弓香が語るほど毒親ではなかった、むしろ聖母だったんだと釈明の原稿を書きます。理穂がその原稿をマスコミに売ったことで、犯人は誰なのかと弓香は地元に戻り理穂を問い詰めます。
なんか結局何が言いたいのかよくわからない話なんですよね。
途中にマリアという母親が猛毒親の女の子が出てきて、母親のせいで自分の隠したかった過去が明るみになり自殺。理穂はマリアの話を持ち出して、佳香はマリアの親ほど毒じゃなかったのに毒親だったと公言した弓香にめちゃめちゃ怒ります。極論に値する人以外は声を上げないでくれというのが理穂の主張ですが、誰がその渦中で極論かどうか評価するんでしょうか…。
一口に毒親と言っても、やっていること言っていることそれぞれ違うと思いますが、どれが軽いとか重いとか、あるんでしょうか…?(1週間なにも食べさせない、とかは毒というよりもう犯罪なので除きますよ。)
例えば、「あんたなんか産まなければよかった」。この一言で、ショックで自殺する人もいるかもしれません。けれど、とても傷ついたけれど耐える人もいるかもしれません。何が言いたいかというと、毒親がしたこと言ったことではなく、言われた側の精神的キャパシティによって毒親の強度というのは決まるのではないか?ってことです。
理穂のしていることは、勝手に自分の物差しで他人の毒親の強弱を計る行為なのでは?と感じます。自分のコミュニティのなかだけでマリアと弓香を比較している。じゃあ、マリアの親よりもひどい毒親の人がいたらどうなんでしょう??マリアにも「極論に値する人以外は声を上げるな」と言うのでしょうか?
まあ理穂に責められる弓香も、自分の物差しで測った結果理穂の母親を毒親と仕立て上げたので同罪なんですけど
もちろん、差し伸べるべき人に救いの手が差し伸べられず、助けられたかもしれない人が救われないというのは問題だと思います。生活保護とかも同じですよね。
ですが、理穂が言っている溺れた人を助ける云々のたとえ話になぞらえると、弓香が自分の親が毒親だと公言したせいでマリアが救われなかったのでしょうか?有名人である弓香が助けられ、マリアは無視されてしまったのでしょうか?
それは違うんじゃないかと思います。弓香だって別に助かってませんし、マリアは弓香の毒親公表をみて、「私のほうが辛いのに辛いアピールしてる…もう辛すぎて生きていけない」ってなったわけでもないはずです。
辛いことは辛いと誰だって声を上げていいはずです。「そんなのより私のほうが、〇〇のほうがもっと辛い」とかどっちのほうが辛い合戦も別にする必要ないです。
だから、出てくる人みんな正論を主張しているようで実はおかしいこと言ってるな~と私は思いました。人それぞれ、ある事実に対して思うことや解釈が違ったりするのは当たり前なので、”私こそが正しい”をみんな主張しすぎ。我が強い。相手のことを批判する割に相手と腹を割って話もしていない。相手とわかり合うということを省きすぎている。
弓香→母親の意見に流されすぎ。過去の自分の行いをすべて母親のせいにしすぎ。理穂含め人を見下しすぎ。言いたいことがあるならテレビ通さず母親本人に言え。
佳香→過干渉すぎ。いくら心配しているからと言って、娘の気持ちを無視しすぎ。弓香の記憶が捻じ曲げられておらず、言っている内容などが正しいのであれば毒親だと思う。弓香と和解する道もあったのでは。
理穂→自論を正当だと思っているようだけれど、原稿を売ったり結局ずるい。マリアのことで弓香をなんだかんだ言っているけれど、結局理穂自身がマリアに何かしてあげたわけでもない。弓香にうだうだ文句言ってる割に、有名人とつながっていることに酔っている感じもする。
理穂の義母→あくまで第三者でしかないのにあたかも佳香を正当化するように語りすぎ。佳香が良い母親だと伝えたいのなら、弓香本人に「実はね…」と伝えればいいだろう。そんなに佳香を気にしていたのなら生前手を差し伸べてやれよ…。
子どもが何か被害を受けて”毒親”と声を上げることに、なぜ第三者がジャッジをするのか?いまいちよくわからない話でした。
佳香が本当に良き母で、弓香こそが毒娘だったとしても、第三者がそれをジャッジする必要はない。
最後理穂は興奮状態から覚めたのか、少しまともな考えに戻っていますが、興奮状態で弓香をなじるような言葉を言っているんだから、結局は弓香と大差ないんだよなあ…。
きっと伝えたいメッセージは、母の気持ち、娘の気持ち、それぞれの立場に立ってはじめてわかることもあるんだよ、子供の頃は親の言うことすることが嫌がるかもしれないけれど、自分が親になったら子供に同じことしてあげたくなるものだよ、ってことなんだろうけれど、登場人物にイライラしすぎて…。。
このメッセージを伝えるためにわざわざマリアの自殺や弓香の母親を殺す必要はあったのか…?
あとすんごくどうでもいいですが、義母は「子どもの将来の心配して色々と気に掛ける親=毒親、と言われるなら、それをしない親は聖母か?」って言ってるんですが、そうなると、子供の心配もしない、子供がどうなろうと知ったこっちゃないってのが聖母になるわけです。
てことは、このお話に出てくる一番の聖母ってある意味マリアの母親なんじゃないの?娘の名前もマリアだけに…って思いました
私もここ最近会社で、話した内容が相手に曲解して伝わるということを目撃(この場合見たはおかしいですが)し、伝え方って難しいな~と思いました。録音でもしていない限り、お互いが自分の都合のいいように覚えていることが多いので、言った言わないの水掛け論になりがちですよね。
人間は言葉の内容より表情や声色などで判断をしているので、「わかった」という言葉一つでも誤解が生まれることがありますよね。(メラビアンの法則)
自分:理解した、それ以上それ以下でもなかったのでひと言で終わらせた。
聞いていた相手:怒っていた 声も抑揚が無くて、早く話を終わらせたいんだと感じた 拒否されているように感じた。
「わかった」って言葉の意味だけ考えれば理解しました、OKというような意味なのに、言い方によっては「拒否された」という逆のとらえ方をされることもありますよね~
私が聞いていたのもそんな感じでした。言い方がもう少し柔らかかったら違っただろうな~と思いました。
自分の意図した内容が相手にきちんと伝わっているか?曲解されていないか?言い方はどうだったか?きちんと伝わるような話し方をしていたか?
仕事でもプライベートでもそうですが、相手を責めるだけでなく自分を省みることも必要ですね