87冊目:対岸の彼女 | 【読書感想文Blog】ネタバレ注意⚠

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対岸の彼女

角田光代

2018/11/18

 
 

 

★ひとことまとめ★

人を信じることの難しさ、悲しさが伝わってきます

 

 

↓以下ネタバレ含みます↓

作品読みたい方は見ないほうがいいかも

 

 

 

【Amazon内容紹介】

結婚する女、しない女。子供を持つ女、持たない女。それだけのことで、どうして女どうし、わかりあえなくなるんだろう。ベンチャー企業の女社長・葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始めた専業主婦の小夜子。二人の出会いと友情は、些細なことから亀裂を生じていくが……。多様化した現代を生きる女性の姿を描く感動の傑作長篇。第132回直木賞受賞作。 夏川結衣、財前直見が主演、堺雅人、根岸季衣、木村多江、香川照之、国分佐智子、多部未華子の豪華スタッフが共演したWOWOWのドラマは、平成18年度芸術祭テレビ部門(ドラマの部)優秀賞を受賞した。

 

 

【感想】

王様のブランチの本で紹介されていたので読みました。

 

最後の、森絵都さんの解説に近い物になってしまうけれど、専業主婦として子育てをし、家族はいてもどこか孤独を抱え、娘の公園デビューもつまづいてしまう小夜子。一方、小夜子と同い年ながら、大学卒業後旅行会社を立ち上げ、社長として働いている葵。内気な小夜子、陽気な葵。子育てに奮闘する主婦、バリバリ仕事をする独身女社長。そんな、対岸にいるような二人。

小夜子は仕事探しをする中で、葵が経営する会社に出会う。同じ大学だったということもあり、親近感が湧き、葵の経営する会社で「掃除代行」として働き出す小夜子。掃除代行として働くうちに少しずつ心境も、周りも変わっていく小夜子。

そんな小夜子のパートと、学生時代の葵のパートで構成されていて、話が進んでいきます。

 

今では陽気に見える葵。でも、そんな葵にもいろいろな過去があり、苦悩や葛藤があって。人を信じることの喜び、けれど去っていってしまったときの悲しみ、苦しみ、裏切られることの恐怖。人を信じたい、けれど信じて、その先に待ち受けているのが裏切りや別れだったら?そんなに苦しむ結末ならば、いっそ人と関わることを辞めてしまってもいいんじゃないか?

 

こんな、真っ暗な闇を抱えていたとしても、周りにはもちろんそんな様子は見せないわけだから、小夜子から見たら葵は主婦の気持ちなんてなんにもわからない、子供のこと夫とのこと義母とのこと、なんにもわからないように思ってしまって、徐々に二人の心の距離が離れていく。

そのすれ違いというか、それがすごく読んでいて悲しかったな。どちらが悪いわけでもなく、どちらも自分のことで精一杯で、相手のことだって考えているけれど、空回りしてしまって、それが結果的にすれ違いにつながっていて。

 

「立ち止まる前にできることを捜し、

へとへとになるまで働き続け、その日の終わりに疲れたねと笑顔で誰かと言い合うこと」(P295)

 

葵が、結局自分がやりたかったのって、こういうことだったのかなと気づいたこと。小夜子と、立場もものの見方も何もかも違ったって、歩いてきた道は違うかもしれないけれど、同じ丘に上って着いた着いたと手を合わせ笑い会えるような関係。そんな関係になれるかもしれない、って思った矢先の小夜子との決別。この部分はとっても悲しかったな。

信じても、結局みんな同じ。離れていくんだ、もうやだ、うんざりするっていうような葵の気持ちがダイレクトに伝わってきて。

 

葵と決別した小夜子だったけれど、小夜子なりにいろいろ考えて、最終的にはお互い手をとって歩んでいける関係に戻れたから、最後は心が晴れやかになる終わり方でよかった。

 

年齢を重ねるごとに、人との関わり方ってどうしていったらいいのかなって思うことがある。

学生の頃は学生の頃で、このお話にもあるようにいじめとかがあって。なにをしたってわけでもなくても、急に次の日から話しかけられなくなって、かと思いきやしばらくするとそんなことなかったかのように、他の子がターゲットになっている。

一度でもいじめられた人は、またいじめられるのが恐怖になって、結果的に別の誰かをいじめる側についてしまうこともある。そんな希薄な友情関係。

大人になっても、未婚か既婚か、兼業主婦か専業主婦か、子供は幼稚園か保育園か、そんな部分で評価や態度が変わるような関係。

本当の自分、肩書やそういうの以外できちんと対等に接してくれる人、そんな人っているのかなって思う。

そんな肩書なんかで、相手が対岸の人って、勝手に決めつけてしまうことがそもそも良くないのかなとも感じるけど。

小夜子も葵も、いまは確かに対岸にいるように見えるけれど、いろいろ取っ払えば、実は同じ丘にいて、一緒に歩いてるのかもしれない。

 

プラチナ・プラネットっていう、葵の会社の社名の由来も、葵の過去を読んでいくうちにわかるよね。学生時代によくある約束。絶対、とか、そのときは本当に信じて言っているかもしれないけれど、果たされない約束。きっとみんな、そういう思い出ってあるんじゃないかな。だからこそ、このお話は読んでてそういう記憶を思い出して、しんみりしたり、なつかしくなったりする。

 

 

最後の森絵都さんの解説もいいんだよ~。

 

「人と出会うということは、自分の中に出会ったその人の鋳型を穿つようなことではないかと、私はうっすら思っている。

その人にしか埋められないその鋳型は、親密な関係の終了と同時に中身を失い、ぽっかりとして空洞となって残される。

相手との繋がりが強いほどに空洞は深まり、人と出逢えば出会うだけ私は穴だらけになっていく。」(P328)

「けれどもその穴は、もしかしたら私の熱源でもあるのかもしれない。時に仄かに発光し、時に発熱し、いつも内側から私をあたためてくれる得難い空洞なのかもしれない。」(P334)

 

人と出会い、別れることでどんどん空洞が増えていくけれど、そうなんだけど、その当時を思い出したり、相手からの言葉であったりを思い出すことによって、よし、また頑張ろうとか、誰かをまた信じてみようとか、そういう原動力にもなるんじゃないかと。

 

いや~とってもいいお話だった。角田光代さんほんといいな。

心にぐっときます。。。