おまえじゃなきゃだめなんだ
角田光代
2018/10/31
★ひとことまとめ★
未婚アラサーの胸にグサグサささります。。
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
「買おう!離婚指輪を」傑作オリジナル短篇集
秘かな決意をジュエリーに託し、高級宿の一夜が人生を整える。すべての女子の宝石のような想いを集めた傑作オリジナル短篇集。
【感想】
角田光代さんが読みたくて。出版禁止は同時進行で読んでます。
短編集。全部で23話。
中でも特に印象に残ったお話をピックアップします。
・今日を刻む
良いお話ってよりは、一言一言に確かに、そうなんだよと思うお話。
「今年の誕生日には、ずっとほしかったネックレスを自分に贈ると決めていたけれど、でも、やっぱり、だれかからもらいたかった。何かのかたちになった、好きだという気持ちを見てみたかった。(P16)」
そうなんだよね。物自体が欲しい場合もあるけれど、どちらかというと、こんな素敵なものをプレゼントしてもらえるくらい、自分は相手から好かれているんだと再確認ができるんだよね。プレゼントで。とくに、毎日身に着けられるようなジュエリーだと、より一層。
・さいごに咲く花
もうすぐ死んでしまう人の頭に、その人の「花」が咲いているのを見ることができる力を持った女性のお話。
自分はなんのお花なのかな~って思いながら読んだ。
「わたしはずっと、人生にはピークがあって、加齢とともに坂を下っていくものだとばかり思っていた。
けれど、最近では思うのだ。生きていくことは、ゆっくりゆっくり、自分の花を咲かせていくことなのではないか。
ピークも下りもない、私たちはその花のいちばんうつくしいときに向かって歩いているのではないか。
そうしていのちの最後に、わたしたちはだれもが自分の花を、存分に咲かし切るのだ。(P67)」
この考え方素敵だよね~!!!
人生もう下り坂とかよく言うけれど、そうじゃなくて、まだまだつぼみで、ゆっくり、ゆっくり、満開に向けて咲こうとしている途中だとしたら。
すごく素敵な考え方。
・おまえじゃなきゃだめなんだ
このお話はグサグサ刺さりすぎて泣きそうでした。
「食事や遊びに誘ってくれるすべての人が肉体関係を求めたあけではない。でも、幾人かはいた。
そのようにするのが礼儀だと思っていたし、何もかも支払いをもってもらっていることへの謝礼の気持ちもあった。
そうして一度寝てしまうと、私は相手に執着した。その執着こそが、恋愛なのだと私は思っていた。
私が執着しはじめると、たいていの相手は逃げた。案内熱心に誘い、あんなに幾度もデートをし、あんなに金品をかけたというのに、それらをすべてを放り出して彼らは逃げる。
私は大いに傷ついたけれど、誘ってくれる人は絶えなかったので、なんでもないふりをした。
運命という都合のいい言葉を持ち出して、恋や愛ということや好きだという気持ちがどんなものなのか、深く考えることをしなかった。(P85-86)」
「これがつまり「向き合う」だと知った。相手のことを知るたびに、見つめすぎず、適度に目をそらすこと。
好きか嫌いか煮詰めないこと。それはだんじて不誠実なのではない。不誠実というのは、凝視したり、煮詰めたりしたあげく、他人に逃げることだ。(P99-100)」
「交際が二年も過ぎると、私はひとりの人と「向き合う」ことに慣れた。今までの自分が、いかに浮ついて馬鹿気の至りだったか、実感するようになった。
私はもてていたのではなく、かんたんな女だと思われていたのだなということも、ようやく理解した。
かんたんなはずの女が、いきなり執着しはじめてやっかいな女になるから、みんなこわくて逃げだしたのだ、ということも。(P100)」
「怒るというよりもむしろ、納得がいったというか、ああ、過去の自分の不誠実が、今こんなかたちの誠実になって返ってきたと、そんなふうに思ったのだった。(P104)」
「私は本当は、そう言われる女になりたかったのだ。ずっとずっと。おまえじゃなきゃだめなんだ。(P109)」
「どうして私は選ばれなかったんだろう。どうしておまえじゃなきゃだめだと、だれも言ってくれないのだろう。だれにも言ってもらえないまま、こんな年齢になったんだろう。(P109-110)」
「若いときは気づかなかったのだ。私のことなんか、だれも見ていないということに。誰かと比較することなく、だれにどう思われるかなんて気にすることなく、自分のことだけにせいいっぱいかまけていればよかったのだ。どうしてわからなかったのだろう。(P110)」
ほんとに読んでいて胸が苦しくなった~。。
・芙蓉館 御殿場市三ノ岡
このお話は、車持ちの恋人と初めて付き合って、車で来てくれた彼に「どこかいきたいところはない?」と聞かれた際、小・中学生のとき、夏のあいだに宿泊していた宿泊施設「芙蓉館」を思い出す。記憶をたどりながら、彼の運転で芙蓉館に向かうお話。
このお話に感動したってわけではないんだけれど、自分も小学生のときに宿泊していた、区の宿泊施設に、大学のサークルのときに行く機会があって、そのときなんだかすごく懐かしい気持ちになって。その時のことを思い出した。
子供の頃は自分も子供だったし、全然知らない施設で、全然知らない土地で、すごくワクワクした記憶があるけれど、大学生になって行ったら、なんだ、そうでもないなと思った。
けれど、当時の思い出とか、当時のワクワクした気持ちとかを思い出して、行ってみてよかったな~って思った。行かなかったら、思い出さなかったであろう思い出とかも、思い出すしね。
・消えない光
同じジュエリーショップで、かたやこれから別れる夫婦、かたやこれから結婚をするカップル。
結婚指輪も婚約指輪も買わなかった武史と芳恵は、2人で分けることができないものがなかったことに気づく。お互いが何を引き取るかの話し合いで、これはきみ、これはおれと互いの荷物を分けていって、たがいの荷物を背負って手をふってしまえば、過去も記憶もまっさらになってしまうような感じ。それがさみしいと思い、お互いに離婚指輪を送り合うことに。
凛子の家はルールや形式に縛られていて、その反動から凛子は結婚式も婚約指輪もいらないという考えを持っていて、交際相手の耕平も同じ考えを持っていた。そのため、親のいいなりにはならないと思っていたが、凛子の親にあってから耕平の考えが変わっていく。
耕平は全財産を持って、婚約指輪を買いに行くことに。
この2組の対比もしんみりしていいんだけれど、耕平の言う、好き、のその先の部分がよかったなあ。
「ひょっとしたら、というか、好きという気持ちは永遠じゃないんだ、と耕平は思う。永遠だと信じたいんだけれど、でもきっと、それは変形したり、黒ずんだり、傷ついたり、あるいは、ぽっかりとなくなってしまう種類のものだ。
だからこそ、自分は、好きだ、のその先に行きたいんだ。永遠であってほしいと願っている正真正銘今の気持ちを、変形しないうちに、かたちにしたかった。陳腐でもありきたりでも、馬鹿親の言いなりでも。(P268)」
自分は全然結婚とか予定ないけれど、周りの友達が続々とプロポーズとか、入籍しだしてて。彼らも、こうやって考えて、彼女にプロポーズしたのかなあとか思うと、完全なる第三者なのに、なぜか感動しちゃうんだよなあww
ジュエリーショップでカップルで楽しそうに、幸せそうに指輪を選んでいるところを見ると、読んだお話を思い出して、こっちまで幸せな気持ちになるなあ。