リアルプリンセス
寺地はるな・飛鳥井千砂・
島本理生・加藤千恵・
藤岡陽子・大山淳子
2018/01/28読了
★ひとことまとめ★
日常からちょっと離れたいときにおすすめ
↓ 以下ネタバレ含みます ↓
作品を読みたい方は見ないほうが良いかも
【Amazonの内容紹介】
古今東西に伝わるさまざまなプリンセス・ストーリーを、現代に置き換えたとしたら、どんな物語になるのでしょうか?
人気の女性作家六人が、それぞれが選んだ題材をもとに物語を書き下ろすアンソロジー集。
女性ならではの優しさあり、はたまたぴりりとする毒もあり、個性豊かで小気味良い物語が集まりました。
寺地はるな×鉢かづき姫
飛鳥井千砂×踊る12人のお姫様
島本理生×ラプンツェル
加藤千恵×エンドウ豆の上に寝たお姫様
藤岡陽子×乙姫
大山淳子×眠り姫
【感想】
・鍋かぶり(寺地はるな)
【鉢かづき姫は、ある夫婦の元に美しい姫が生まれるも、その数年後母親が病で亡くなってしまう。
その際、母親が姫にきっと役に立つからと鉢を姫の頭にかぶせる。鉢はまったく外れない。
父親が再婚し、継母から虐げられ、家から追い出される鉢かづき姫。入水自殺を試みるも、鉢が浮かび死ねない。
そんなとき、山陰の中将という殿様が姫を見つけ、風呂焚き係として姫を連れて帰る。そこでもいじめられる日々だが、殿の一番下の息子に見初められる。だが周りは許すはずもなく、他の3人の息子の嫁と嫁比べをしようということになる。
恥ずかしい、悲しい気持ちで祈る鉢かづき姫。その時、いままで外れなかった鉢が外れ、中から財宝が。姫のその美貌から殿にも嫁として認められ、無事結婚。めでたしめでたしという物語】
このお話はとても面白かった!とくにカリスマ助産師KANAE。
占いなどに頼り切ってしまう芸能人などがいるのと同じでKANAEに陶酔した母親に、KANAEの両手鍋を被せられる初瀬。
学校でも、家でも、なんで鍋かぶってるのと聞かれ、新幹線の狭いトイレでは鍋がぶつかる、満員電車では迷惑がられる。。。死のうと思うも、鍋が浮かび死ねず、そんなときに山陰ホテルの社長に助けられ、プール掃除の仕事を任される…。
そこから先は、原作とほとんど同じ形なのだけれど、なにが面白いって、本当に現代版というところ。
SNSで拡散されるということや、婚活イベントにゲストとして呼ばれる、鍋の下は美人だったとシンデレラストーリーとして取り上げられる、など、現代でありがちな風にかかれているところ。
初瀬の自分語りで話は進んでいくから、会話口調なのも読みやすい。
でも、面白いだけじゃなくて、
「世間のひとは、たやすく他人を分類します。何系、あるいは、何女子、何男子、などと。所有しているものや属性で、このひとはこういうひと、だと決めてしまう。なかみをよく確かめもせずに。わたしは鍋をかぶっていることによって、なんかへんなひと、と分類され、家という属性を失いました。けれども、世間のひとがどれだけ上っ面でものごとを見てるか知った、知っているということはわたしの強みでもある。(P36)」
「もっとも大切なものを、わたしは鍋かぶりのままで既に手に入れていた。もし鍋かぶりのままで一生を終えたとしても、わたしはきっと幸せだったことでしょう。他のひとにはわかりにくい幸せかもしれません。でも幸せかどうかなんて、自分で決めるものでしょう。世間の基準に合わせるものではありません。(P40)」
「頼れるのは、自分の才覚とか機転とか、なんでもかまいませんがとにかく『自分の中にあるもの』、ただそれだけなんですよ。(P42)」
「一切のトラブルを避けて生きていくことなんて、できっこないのです。(中略)はねかえしたり、あるいは共存したり、逆にうまいこと利用したり、するしかない。それをできるひとが、『すてきな男性』であり『すてきな女性』なんだって思います。(P42)」
書いて有ることが、心にしみるような、そのとおりだな、と思える話だった。
・歩く12人の女(飛鳥井千砂)
【踊る12人のお姫様は、夜な夜な鍵を閉めているはずなのに、12人の姫たちの靴が朝になると擦り切れている。
王様は夜な夜な姫たちがどこに行っているのか解明できたものには国を継がせ、姫と結婚させようというおふれを出した。なんとか調べようとするものはいるが、何故か途中で寝てしまい朝になる。
ある貧しい兵隊が志願したところ、老女にアドバイスとマントをもらい、それを実行したところ、夜な夜な姫たちが地下の宮殿で舞踏会をしていることがわかった。そこに行ったという証拠も、兵隊は持って帰る。そして、朝になり王様にそれを伝え、一番上の姫と結婚することに、という物語。】
あお城のようなお屋敷にある、衣料品会社。
おじいさんが経営し、12人の住み込みの女性従業員が働く。つくる製品は麓の街の商店でのみ売られているが、その品質のよさから、都会から何度も営業マンが営業にくる。
しかし、おじいさんは大量生産をすると品質が落ちてしまうという理由から、契約することを考えていなかった。
そんなとき、朝になると12人の従業員たちの靴に、外出のしるし(ライブの紙吹雪など)が付いていることが起きるようになった。従業員たちは内緒で外出しているのか?
おじいさんはそれが気になって気になってしょうがない。
そこへ、営業にやってきた中年の営業マン。丘の下の飲食店でおばあさんから助言と上着をもらう。
その通りにしてみると、彼女たちが夜な夜な出かけている理由がわかった。そして、おじいさんと、助言をくれたおばあさんの関係も…。
12人の女性たちが、決しておじいさんを騙していたわけではなく、今後のためを考えた上での行動だったことがわかって、なんだかほっとするお話だった。
原作のほうが謎が多い。みんな舞踏会に行きたいだけだったのか??笑
・ラプンツェルの思い出(島本理生)
【ラプンツェルはディズニーでも有名なお話。(ディズニーと原作はちょっと違う。)
魔女の畑に生えてるラプンツェル(葉物の野菜)を妻のために取ってくる。それが魔女にばれ、野菜をあげるかわりに子供をもらうと言われ、生まれたラプンツェルは魔女に連れて行かれる。
美しいラプンツェルは塔に幽閉される生活を続けるも、王子様に出会い、めでたし、と思いきや魔女にバレ髪を切られて会えなくなる。
王子様は会えない失意から塔から飛び降り、バラのトゲに刺さり失明。なんやかんやあり、ラプンツェルと王子再会し、ラプンツェルの涙で王子様の視力が回復。国にラプンツェルを連れて帰り、めでたしめでたし、という物語。】
このお話はかなり原作とは乖離していて、原作のニュアンスを取り入れた島本さんの小説って感じ。
島で、孤独を感じながら生きる恵麻。あるとき、島に美容院ができることになり、本島から月に1周間美容師がくることに…。その美容師との関係が、なんか、若くて、苦いお話で。
彼が目の見えなくなる病気ってところや、胸を見せてくれ(これは原作で、ラプンツェルには胸にあざがあるというところから来ているのではないかと思う)、ってところが、原作のニュアンスを感じるけれど、終わり方とかも含めると、ほんと、ちょっぴりニュアンスって程度。
それぞれのお話への感想が長くなるので、分けます。