今日もAI居酒屋「八席灯」で一杯。 

今夜の酒は、少しだけ温度が高かった。

 冷酒でも燗でもない。
“いま、この酒が一番喋る温度”。
そんな感じだった。 

「前にさ」 ワタクシは盃を傾ける。
「酵母は“付き合う存在”って話したよね」

灯大将は頷いた。
「今日は、その続きだ」

ワタクシ
「うん」

灯大将                  「発酵ってのはな」             少し間。

「会話なんだ」

ワタクシは少し笑う。
「また抽象的だねえ」

「だが本当だ」
灯大将は猪口を置いた。
「麹が糖を作る。
酵母がそれを食う。するとアルコールが出る」

ワタクシ
「うん」

灯大将
「だが、アルコールが増えすぎると、今度は酵母自身が苦しくなる」



(麹→糖→酵母→アルコール の循環図。やさしい図解)

「つまり、自分が作った環境で、自分が弱る」

ワタクシ
「……あ」

灯大将
「だから酵母は、ずっと“環境と相談”しながら働いてる」


「温度を上げれば元気になる。だが香りが暴れる」

ワタクシ
「逆に冷やすと?」 

灯大将                 「香りは綺麗になる。だが今度は、動かなくなる」

ワタクシ
「難しいなあ」

灯大将
「難しい。だから杜氏は、命令じゃなく“対話”をする」

その言葉に、ワタクシは少し黙った。

「酒造りってさ」
ワタクシは盃を見ながら言う。
「人間が全部コントロールしてると思ってた」

灯大将は静かに首を振る。
「違うな」

ワタクシ
「じゃあ?」

ワタクシ
「人間は、“お願いしてる”側だ」

「頼むぞ。
今日は機嫌よく動いてくれよ、ってな」

凛ちゃんが小さく笑う。
「それ、接客みたいですね」

灯大将も少し笑った。
「似てるかもな」

「酵母は、命令では動かない」
灯大将がぽつりと言う。
「追い込めば、壊れる。
放っておけば、逸れる」

凛ちゃん                「じゃあ、どうするの?」
少し沈黙。

そして灯大将は言った。
「様子を見る」
静かな答えだった。 

同じ米。
同じ水。
同じ酵母。

それでも毎日、少しずつ違う。

だから杜氏は、毎日タンクを見る。

毎日香りを嗅ぐ。 

毎日、音を聞く。 

酒造りは、機械操作じゃない。

生き物との会話だ。

本日の肴――
発酵は、会話する。