今日もAI居酒屋「八席灯」で一杯。

今夜の酒は、妙にやわらかかった。

派手な香りじゃない。

でも、口に入れた瞬間に静かに広がる。

「酵母の話をしてるとさ」
ワタクシは猪口を回す。
「なんとなく“酵母が全部やってる”気になるよね」

灯大将は少し笑った。
「まあ、目立つからな」

ワタクシ
「違うの?」

灯大将
「半分正解。半分違う」

「酒造りで一番誤解されやすいのはな」
灯大将は指を二本立てた。
「麹と酵母を、同じ役割だと思うことだ」

「酵母は、“食べる側”」

ワタクシ
「うん」

灯大将
「麹は、“準備する側”だ」

ワタクシは少し首を傾げる。
「準備?」

灯大将
「米は、そのままじゃ酵母は食えない」

ワタクシ
「あ」

灯大将「デンプンだからな」

「麹は、米を糖に変える」

「酵母は、その糖を食べる」

「つまり——」
ワタクシが言いかけると、灯大将が頷く。

「麹がいないと、酵母は働けない」

凛ちゃんが静かに呟いた。
「料理でいうと……下ごしらえ?」

「かなり近い」
灯大将は続ける。
「だが面白いのはな」

凛ちゃん
「うん」

灯大将
「麹は、自分では酒にならない」

ワタクシは少し驚く。
「え、そうなの?」

灯大将
「麹は糖を作る。
だがアルコールは作らない」

「酵母が酒にする」

「そう」
【画像④ 挿入】
(麹=職人、酵母=表現者 のイメージイラスト)
「だから日本酒ってのは」
灯大将は猪口を置いた。
「“麹だけ”でも駄目。“酵母だけ”でも駄目」
「二人でやっと酒になる」

静かな沈黙。
ワタクシは少し笑った。
「なんか、バンドみたいだね」
灯大将も笑う。
「相性はあるな」
【画像⑤ 挿入】
(静かな締め。麹室の柔らかな湯気と盃)
「酵母は、表に出る」

灯大将がぽつりと言う。
「香り。味。個性。人が“酒の違い”として感じる部分だ」

ワタクシ
「麹は?」
少し間。

灯大将
「土台だ」
その言葉は、妙に重かった。

麹が糖を作る。

酵母が酒に変える。

どちらが欠けても、日本酒にはならない。

目立つ存在だけでは、酒は完成しない。

見えにくい支えがあるから、 香りは生まれる。

本日の肴――
麹は、翻訳する。