回想録③からの続きです。
後輩の話がきっかけで、A社のモデルハウスに行くことになりました。
最初は冷やかしのつもりで行ったはずが、そこで得た経験は、その後のわが家の家づくりに大きな影響を与えることになったのでした。
担当してくれたA社の営業の方は、若干食い気味のぐいぐい来る感じで、その口から勢いよく出てくる「断熱性」「気密性」という言葉は、僕たち夫婦にとっては初めて聞くものでした。
自動車を売り込むために燃費性能を数値化するのと同じように、住宅にも、その価値を「住宅性能」という形で数値化することによって顧客に根拠を示すという考え方があることを、僕たちはこの時初めて知ったのでした。
それまでにも何社かの完成見学会に足を運んで、業者さんから自社の特長について「とにかく地震に強いです」とか「大工の技術はどこにも負けません」などとアピールされることはあったのですが、僕たちは抽象的なイメージでしかそれらの会社の良さを捉えられていませんでした。
もちろん、各々の業者さんにも、住宅性能とは異なる価値観での良さがあることは承知していましたが、当時は、僕たち自身が家づくりを抽象的にしか考えていなかったために、アピールされた特長に根拠を求めるという発想自体がありませんでした。
A社では、営業の方の(失礼ながら)暑苦しいくらいの話ぶりと、住宅設備を模した器材を使って性能の根拠を説明する様子に、僕はどんどん引き込まれていきました。
意地悪な言い方をすれば、セールストークにまんまと嵌められていたのですが、それだけ興味を引く内容だったことは間違いありません。
当時から家づくりを志す人にとっては住宅性能のことは常識で、単に僕たちが無知に過ぎただけだったのかも知れませんが、そういう考え方があること自体が、僕はとっては大変な驚きだったので、その時のことは今でもよく覚えています。
結局、価格面でのハードルが高く、商品によっては間取りの自由度が制限されるなどの理由で、A社に家づくりをお願いすることはなかったのですが、その日の経験は、その後の僕たちの家づくりの大きな土台となっていったのでした。
⑤に続きます。