歌手のクリスティーナ・アギレラが映画初主演に挑戦したセミ・ミュージカル(?)。スターになることを夢見てアイオワの田舎町からロスへやってきた天涯孤独のヒロイン・アリが、ちょっとユニークだがゴージャスな雰囲気に満ちたクラブ「バーレスク」で成功していく過程を、クラブの女経営者テス(シェール)との母子愛にも似た友情や恋などを絡めて描いた作品です。
ちょっと成功してテングになったり、クラブの乗っ取りを企む実業家から誘惑されたりと、基本的な物語は、正直言って手垢がつきまくったサクセスストーリーです。ライバルの策略から初舞台の上でピンチに立ったアリが、とっさに歌い出して切り抜けるところなど、石原裕次郎の『嵐を呼ぶ男』そっくりですな(笑)。
でも、この映画が見応えある傑作に仕上がっているのは、やはりヒロインであるアギレラの卓越した表現力(女優としても歌い手としても)と、個性豊かな脇役陣の好演のおかげでしょう。
ただでさえ小柄な上に、物語の前半はどこか野暮ったい雰囲気が漂うアリの変化を見事に表現。肝心の歌のシーンでも、マリリン・モンロー風など曲に合わせて歌い方を巧みに変えているところは、さすがプロの歌手。
脇役では、テスの良き相棒に扮したスタンリー・トゥッチが出色。『プラダを着た悪魔』の時の役とかぶって見えるにも、むしろ見ていてニンマリしてしまいます。
最後に、まったくどうでもいいマニアックなポイント。アリがオーディションを受けるシーンで、テスがスタッフに音楽をかけるよう指示します。ここのセリフ、字幕では「バーンスタインの曲をかけて!」みたいになっていて、元のセリフを聞き取りそこねていたので、てっきり後の名指揮者・レナードの曲(『ウエスト・サイド物語』か何か)かと思っていたら、何と『大脱走』や『荒野の七人』など映画音楽の巨匠・エルマーの方でした!しかもかかった曲は、スティーヴ・マックィーン主演の渋めのドラマ『ハイウェイ』のメインテーマ…でもなく、劇中で流れる現実音楽(たぶん)という、恐ろしくマニアックな選曲!すぐに分かってしまう自分のマニアックさにも呆れますが、『ハイウェイ』のサントラは好きでよく聴くから仕方ありません。(苦笑)
まあ、一般的な知名度からすると、「バーンスタイン」と言えばレナードなんでしょうけど、我々サントラマニアからすると、「バーンスタイン」はエルマーだけです。そう考えると、あの字幕の訳はマニア的にはいろんな意味で“正しい”訳です。(笑)
『バーレスク』は今週の土曜日=12月18日より全国で公開されます。
<『バーレスク』公式HP>
http://www.burlesque.jp/