先日、『クリミナル・マインド』のSniper の回について書きましたが、こちらはクリント・イーストウッド 監督作品で本物のsniper の話です

 

 

2014年にアメリカで公開されたこの映画は、イラク戦争に4度も従軍し160人以上も敵を射殺した 伝説のスナイパー、クリス・カイル の自伝が元になっています。主演は『アリー/スター誕生』のブラッドリー・クーパー(とても同じ人には見えません)。

 

 

 

 

 

戦争は残酷です。人間が人間を殺し合うわけですから。たとえ映画などのフィクションでも現実には似たようなことが起こっていただろうし、その裏側には映画や映像では出せない本当に無残で悲惨なことがたくさんあったはずです。

 

 

私もあまり戦争ものは観たくないのですが、なかったこととして無視することはできません。

 

 

そもそも、イラク戦争の前に1991年1月に始まった 湾岸戦争(Gulf War)がありました。この戦争のとき、夫と私は戦争当事国のアメリカに駐在していました。しかも、その直前の12月に娘が生まれたばかり。いつ戦場になるか分からないという恐怖を感じました。

 

 

「砂漠の嵐作戦」(Operation Desert Storm) というコードネームがついたこの戦いは、前年にイラクが突然隣国クウェートへ侵攻したことにより、アメリカとイギリスを中心とした多国籍軍がクウェート解放を目的に開戦。圧倒的な兵力を投入し、たった1か月で終結しました。

 

 

イラク軍による原油流出は非難の的となった

 

 

このとき、停戦条件として出されたのが「大量破壊兵器(核兵器・生物化学兵器)の破棄」でしたが、イラクが国連の査察(抜き打ち)を拒否するなど非協力的であり、生物化学兵器の確認はできていませんでした。

 

 

そして、ジョージ・ブッシュ大統領(息子)が就任した2001年に9・11同時多発テロ が発生。

 

 

2003年、大量破壊兵器の開発・保有をしている、との未確認情報に基づき、またフセイン独裁政権から人民を解放する、との名目で、イラク戦争(Iraq War)もしくは 第2次湾岸戦争 が起こります。こちらのコードネームは「イラクの自由作戦」(Operation Iraqi Freedom)

 

 

第1次湾岸戦争がブッシュ大統領の父親のときですから、つくづく戦争好きの親子です。しかも、政権の評判が悪く、再選の危機が噂されたタイミングでの戦争に、大統領選のためのキャンペーンではないかという見方もありました。戦争となると、国が1つにまとまり高揚感が一気に高まるからです。

 

 

しかし、今回は石油の利権もからみ、西側でもフランスやドイツが攻撃に反対、アメリカ国内でも反戦の声が多く上がっていたようです。結果的に大量破壊兵器も見つからず、攻撃の中心となったアメリカやイギリスは強く非難されました。

 

 

どの国にも大きな被害があり、とりわけアメリカ軍は戦闘の中心にいて、敵の狙撃兵に狙われていました。それを阻止して活躍したのがクリス・カイルです。

 

 

子供のころから父親にハンティングの腕を仕込まれ、シールズで訓練を受けた彼は、抜群の狙撃力をもち、多くのアメリカ兵を救ってきました。「レジェンド」と呼ばれ、アメリカ人からすれば英雄です。

 

 

が、逆にイラク人からすれば「悪魔」。懸賞金までかけられていました。いくら戦時中とはいえ、女子供も含め160人も殺せば精神がおかしくなっても不思議ではありません。

 

 

無事で帰国しても、またすぐに戦地へ赴くので家庭は崩壊寸前(奥さんと息子がいる)。

 

 

PTSDのため、普通の日常生活が送れなくなってしまうのです。これは以前ブログでも取り上げた映画『ハートロッカー』の主人公と同じです。「戦争は麻薬だ 映画『ハートロッカー』

 

 

やがて、傷痍軍人との交流の中で、少しずつ心が癒え、家庭や社会にも溶け込んでいくのですが、最後は退役軍人社会復帰プログラムのボランティアに赴いたところで、同行の男に撃たれて亡くなります。

 

 

戦争では不死身だったヒーローが、帰国後、精神に異常をきたした同胞に殺されるというのはなんとも皮肉な話です。

 

 

この映画は、アメリカ人から見れば戦争のヒーローを扱ったように見えるかもしれませんが、クリント・イーストウッド自身は戦争を支持しておらず、客観的に戦争の悲惨さを描いたのだと思います。