『ハートロッカー』 The Hurt Locker

 

 

製作:2008年 アメリカ (131)    監督:キャスリン・ピグロー

キャスト:ジェレミー・レナー(ウィリアム・ジェームズ二等軍曹)、アンソニー・マッキー(JTサンボーン軍曹)、ブライアン・ジェラティ(オーウェン・エルドリッジ技術兵)、クリスチャン・カマルゴ(ジョン・ケンブリッジ軍医)

 

あらすじ;

戦時下のイラク・バグダッドで爆発物処理に従事する特殊部隊EODの活躍を描くサスペンス・ドラマ。04年夏、これまでに870以上の爆発物を解体処理しているジェームズ2等軍曹がEODの新リーダーとして赴任してくる。部下となったサンボーンとエルドリッジはあと39日でEODの任務から外れる予定だったが、恐れ知らずのジェームズにより、これまで以上の危険にさらされることになる。監督は「ハートブルー」「K-19」のキャスリン・ビグロー。第82回アカデミー賞では作品賞以下6部門を受賞、ビグローは女性で初めての監督賞受賞者となった。映画.com

 

 

今回は、突然の戦争もの『ハート・ロッカー』を観てみました。というのも、ある翻訳家の方から「『ハート・ロッカー』の字幕は兵士の階級名や上下関係が違っている」と伺い、気になったからなんですが・・・。

 

 

戦争ものはあまり好きではありません。『ハート・ロッカー』も、前に回観たのですが、結構戦闘シーンや爆破シーンで人が死ぬので、あまりまともに観ていなくて、よく覚えていませんでした。(これを女性の監督が撮ったなんて驚くばかりです)

  

 

今回は、以前WOWOWで放送していたのを録画して放置していたので、ちょっと勇気を出して、階級にこだわって観てみました。が、何が(誰が)どう違うのか、やっぱりよく分からず・・・。

 

 

アメリカ軍の階級をググってみると、ウィキに詳しく書いてありました。

陸・海・空で違うのですが、陸軍で見てみると、大将(General以下、30近い階級に分かれています。(軍に入るとこれ全部覚えるのか~しょっぱなから落ちこぼれそう・・・)

よく映画やドラマに出てくる主な階級の、訳語と読み方を調べてまとめてみました。

 

 

士官(将校) Commissioned Officers = 士官学校を出た職業軍人

↓ ↓ ↓

大将 General (GEN) ジェネラル

中将 Lieutenant General (LTG) ルーテナント・ジェネラル

少将 Major General MG) メイジャー・ジェネラル

 

大佐 Colonel (COL) カーネル

中佐 Lieutenant Colonel (LTC) ルーテナント・カーネル

少佐 Major (MAJ) メイジャー

 

大尉 Captain (CPT) キャプテン

中尉 First Lieutenant (1LT) ファースト・ルーテナント

少尉 Second Lieutenant (2LT) セカンド・ルーテナント

 

 

下士官(将校) Non-commissioned Officers = 士官の下、兵の上(兵からの昇進者)

 ↓ ↓ ↓

 曹長 Master Sergeant (MSG) マスター・サージェント

一等軍曹 Sergeant First Class (SFC) サージェント・ファースト・クラス

二等軍曹 Staff Sergeant (SSG) スタッフ・サージェント

三等軍曹 Sergeant (SGT) サージェント 

The BeatlesSergeant Peppers Lonely Heart Club Band はペッパー三等軍曹の曲ですね

 

 

Soldiers

↓ ↓ ↓

特技兵 Specialist (SPC) スペシャリスト

上等兵 Private First Class (PFC) プライベート・ファースト・クラス

一等兵 Private E-2 (PV2) プライベート・イー・ツー

二等兵 Private (PV1) プライベート

 

→ ちなみに、映画『プライベート・ライアン』は、ミラー陸軍大尉(トム・ハンクス)率いる中隊が、命を懸けて、1番下っ端の二等兵ライアン(マット・デイモン)を救出するという話

 

 

そして、この映画に出てくる重要な役どころとしては、

 

・マシュー・トンプソン二等軍曹 → Staff Sergeant

・ウィリアム・ジェームズ二等軍曹 → Staff SergeantWikiでは「一等」となっている)

・J T・サンボーン軍曹 → Sergeant

オーウェン・エルドリッジ技術兵 → Specialist(訳としては「特技兵」が正しい)

・ジョン・ケンブリッジ軍医・大佐 → Colonel Wikiでは「中佐」となっている)

 ⇒ 映画では「大佐」となっていますが、階級章から「中佐」が正しいようです。

 

 

なのですが、最初の3人は映画の中では、同じ “sergeant” と呼ばれるので見ている限りでは、誰が上なのか区別がつきません。

 

 

トンプソン二等軍曹は、爆弾処理の最中に爆破され命を落とします。後任としてブラボー中隊に赴任したのが、ジェレミー・レナー(「ミッション・インポッシブル」「ボーン・レガシー」など)扮するウィリアム・ジェームズ二等軍曹です。

 

 

 

 

爆弾処理班班長で、EODExplosive Ordnance Disposal 爆発物処理の専門家であり、解体した爆弾は873個以上のベテランですが、結構ムチャをした行動をするのと、爆弾処理を楽しんでいるフシがあり、チームのメンバーから疎まれます。 

 

 

JT・サンボー軍曹は、二等とついていないので、ジェームズの下の階級だと思われますが、

ジェームズを苗字で呼び捨てにしているし、面と向かって文句を言うところから、同じsergeant 同士ではあまり上下関係が厳しくないのかもしれません。命がけの任務中にジェームズが勝手な行動を取るので、ぶん殴ったり、事故に見せかけて殺してしまおうかと思うくらい腹を立てます(ふざけて取っ組み合いもする仲)。

 

 

ブライアン・ジェラティ(「シカゴP.D.」のローマン巡査)扮するオーウェン・エルドリッジ技術兵は Specialistと呼ばれています。等級表によると「特技兵」となっていますが、字幕では「技術兵」となっています。「特技兵」だと分かりにくいせいかもしれませんが、これは正確ではないようです。

 

 

エルドリッジは、戦闘にも当然参加しますが、元々は技術屋なので、兵士としては神経が細く、また最初のトンプソン軍曹の爆死にも、防ぎきれなかった責任を感じていて、ジョン・ケンブリッジ軍医の元を訪ねて話をします。

 

 

そのケンブリッジ軍医は、医者ですから大学院出身のエリートです(階級も「中佐」)。エルドリッジを気にかけて声を掛けますが、ジェームズのせいで危険に晒されてカリカリしているエルドリッジは素直に話が聞けません。(以下の英文は私の聞き取りです。違うところはご勘弁を。日本語訳は字幕より)

 

 

ケンブリッジ:This doesn’t have to be a bad time in your life. Going to war is once in a life  time experience. Could be fun.(そう悪く考えるな。戦場なんて一生に1度の経験だ。楽しめ)

エルドリッジ:You know that from your extensive work in field. (自分の経験で言ってんのかい)

ケンブリッジ:I’ve done my field duty. (フィールド -戦場- には出た)

エルドリッジ:Where’s that? Yale? (イエール大学のフィールド -校庭-?)

~中略~

エルドリッジ:You need to come to behind a wire. (だが一度でも爆弾の前に立ってみろ

 

 

英語だと丁寧な言い方はあるものの、常体(だ、である調)と敬体(です・ます調)のような違いがないので、この場合どちらが上かよくわかりません。

 

 

確かに、字幕は字数制限があるので早い時期に常体にした方がいいとは言われますが、軍の中など、上下関係がある場合はどちらかが敬語の方が関係がわかりやすい気がします。

 

 

一兵卒のエルドリッジが、中佐に対して「立ってみろ」だとちょっと違和感を感じますたとえば、「一度 爆弾の前に立ってみては」とすれば、嫌味にも聞こえるし、13.5 文字で済みます。(なんて、エラそうに意見できる立場ではありませんが・・・あせる

 

 

さすがにエリート、気にしたのか、後日の任務に同行します。その日は、不発弾の処理で、簡単な任務ということになっていましたが・・・。

 

 

建物の中には、アメリカ軍の爆弾がたくさん置かれており、なんと、ジェームズにDVDを売ったり一緒にサッカーをしていた現地イラクの少年、ベッカム(と思われる)子供の死体が。

 

 

お腹には爆弾が埋め込まれていて、人間爆弾(body bombにされていたのです。残酷な現実にジェームズは怒ります。

 

 

また、外で交通整理をしていた軍医のケンブリッジですが、リヤカーに石を積もうとしている地元の大人たちをどかそうとするも、言葉が通じず難儀をします。やっとどかすことができたのですが、リヤカーがどいた直後に、残された袋が突然彼のところで爆発します。

 

 

IEDImprovised Explosive Device 即席爆発装置)でした

 

 

狂ったように軍医を探すエルドリッジ。でも、爆弾に吹き飛ばされて死体も出てきません。

 

 

その晩、ジェームズはDVD売りを脅して、ベッカム少年の家まで車で送らせ、少年の姿を探すのですが、母親と思われる女性に騒がれ、殴られ、追い出されます。

 

 

が、後日ベッカムのような少年がまた現れます。結局、現地の子供のことなど何も分かっていなかった、と思い知らされます。別の子供たちにも石を投げられます。これが現地の現状です。

 

 

その後、アメリカに戻り平穏な日常の中、物資が豊富なスーパーマーケットで途方に暮れるジェームズがいました。別れたけど同居している奥さん(「LOST」のケイト役、エヴァンジェリン・リリー)も可愛い息子もいるのに、ジェームズはまた戦場にかえっていきます。

 

 

ジェームズは、自分が取り除いた爆弾の部品をコレクションしています。「人を殺しかけた物を集めるのが好きなんだ」という、戦争の恐怖と狂気に憑りつかれたジャンキーなのです。

 

 

それが、映画の最初に出てくる言葉に、暗示のように描かれています。

 

 

“The rush of battle is often a potent and lethal addiction, for war is a drug.” -Chris Hedges(戦闘での高揚感はときに激しい中毒となる。戦争は麻薬である -クリス・ヘッジス-

 

 

この映画は、一見地味ですが、今までのようなヒーローものや、誰かの悲劇を描いたものではなく、淡々と戦争の現実を見せつけている、という点で秀逸なんだろうと思います。