【短編小説】藤と美咲【前編】 | Mr.Nana 完全無職のロックンローラー

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時折雨が降る昼下がり、僕はパソコンに向かって仕事をしていた。

何点か写真をピックアップしているのだが、どうもしっくりこない。

僕の仕事は写真家だ。

依頼されて写真を撮るのではなくて、撮り貯めた写真の中から依頼に合うような写真をピックアップする。

風景の写真がほとんどで、人物を撮るのは得意では無い。

モデルさんたちがポーズをとって、それを上手く撮るのが苦手なのだ。

こちらに全く気付いていない人の写真はいくつか撮らせてもらった事はあるが、事後に承諾を頂くのも面倒なので、最近はほとんど撮ってはいない。

今回の依頼は、ある程度の写真の加工も必要なのだが、ベースとなるいい写真が見当たらない。

「ん〜、あぁ〜、」

なかなか名案が浮かばす思わず唸ってしまった。

PCを離れてキッチンに向かい水を飲んだ。

「撮りに行くかな」

そう呟いた時に電話が鳴った。

大学時代からの友人の孝明からだ。

仕事もいくつか紹介してもらっていて、親友といってもいい間柄だ。

僕はパソコンから離れて電話をとった。

「やぁ」

「修二、今時間ある?」

「ちょっと行き詰まってた所で息抜きをしようか迷ってた所だよ」

「ちょうどいい、出て来れるか?お昼まだだろう?近くまで来ているんで昼飯付き合えよ。あっカメラ忘れるなよ」

一方的にそう言って、彼は電話を切った。

「どこにいきゃいいんだよ、、、」

彼は全く相手の都合を考えない時がにある。

今がまさにそうだ。

電話を折り返そうとした時に携帯にメールが来た。

店の名前と地図が添付してあった。

僕は着替えを済ませ家を出た。

駐車場に降りて車に撮影の機材を積んだ。

僕の国産の少し古いマイナーなステーションワゴンだ。

あまり人気は無かったが、僕は大変気に入っている

道路に出てみると、空は明るいのに道路は濡れていた。

今は雨は降っていないが、さっきから雨が降ったり止んだりを繰り返している様子だ。

部屋にいる時は窓から差し込む光がずっと明るかったから、気がつかなかった。

時折降る雨がフロントガラスを叩いていくが、ワイパーを動かすほどでもない。

道は空いていてしばらく走っていくと、郊外に出た。

他の車はほとんど走っておらず、時折降る雨を除けばいいドライブ日和だ。

店までは1時間とかからずに着いた。

昼ご飯を食べるには、少し遅い時間だ。

彼にとってはこの距離も近くなんだなと、ちょっと呆れてしまう。

店は郊外に行けばどこにもありそうな、少し古びた純喫茶の様な外観の店だ。

だが、彼の選んだ店に今までハズレは無かったので、少し期待してしまう自分がいた。

取っ手の色が少し剥げた扉を開けて店に入る。

落ち着いた店内はどこか懐かしく、適度に使い古されたテーブルがいい感じだ。

控えめな音量のBGMが耳に心地良い。

奥から僕を呼ぶ声が聞こえた。

「修二、早かったな。こっちこっち」

窓際の奥の方の席にこちら向きで彼は座っていた。

僕は彼の席の向かい側に座った。

「やぁ、急にどうした?」

「近くに来たもんでね」

「近いか、ここ」

呆れる様に僕は言った。

だが彼にとってこの距離は全く問題にならないということを、僕はよく知っている。

まぁいつもこんな感じの奴ではあるのだ。

「そんな事より何食べる?ここのミックスサンドは美味いぞ」

メニューを差し出しながら彼が言ったので、それに乗っかることにした。

「ミックスサンドとホットコーヒーでいいよ」

「OK」

と彼は頷き、続けてカウンターに向かって大声で彼は言った。

「ミックスサンドとコーヒーふたつね」

店のカウンター越しに返事が聞こえた。

「で、今日は何なんだ?」

「まぁ落ち着けって。大した用でもない、サンドイッチを食べながら話そう」

いつも忙しなく動き回っている彼の口から出た言葉に笑ってしまった。

「お前が言うか、それ」

サンドイッチとコーヒーが来るまでの間、僕らは世間話をしていた。

出てきたサンドイッチ見た目は特に珍しくもないごくありふれた物に見えた。

僕はサンドイッチを頬張った。

味は奇をてらったものではないが、どこか懐かしくそれでいて新鮮な味わいだ。

使っている食材や調理方法にこだわりがあるのだろう。

今まで食べたミックスサンドの中ではかなり美味い部類に入る。

「この少し先に神社があるんだ」

サンドイッチを頬張っりながら彼が言った。

「そこの藤がちょうど見頃な時期なので、写真を撮ってきて欲しい。仕事の依頼、欲しいのはこんな感じの写真」

て言いながら、テーブルにあったナプキンにかなりラフな絵を描いた。

「こんな天気の日の写真でいいのか?そのスケッチの藤の写真なら、家にある」

「少し濡れた感じが欲しいんだ。行けばわかるよ」

「お前は一緒に来ないのか?」

「次の予定が入っているから行けない。替わりに別の人を呼んでいる。そろそろ来る頃なんだけどな」

サンドイッチを食べ終わり、コーヒーを飲みながら外を眺めた。

コーヒーを飲み終わる頃に、店の扉が開く音がした。

「よう、こっち」

手を上げながら彼が言った。

振り返ると女性が一人こちらに向かって歩いてくる。

フリルのある薄いのグレーのブラウスに黒に近いネイビーの長いスカート。

ヒールのある黒のショートブーツを履いている。

長い髪は後ろで束ねられて、整った顔立ちが一層華やいで見える。

「修二さんも一緒だったのね」

こちらに歩きながら彼女は言った。

「美咲さんだったのですね」

少しほっとしながら僕は言った。

僕は人見知りをするので、初めて会う人ならどうしようかと思っていた所だった。

「何か頼む?と言っても俺もうあんまり時間ないんだ」

時計を見ながら孝明がそう言うと、彼女は首を横に振った。

僕らは店を出た。

「んじゃ、あとよろしく。写真期待してるよ」

そう言うと孝明は、乗ってきた車でさっさと帰って行った。

 

(つづく)