「離婚」と決めたわたしはいつの間にか身も心も強くなっていた。

本当は父に家まで送って欲しかった。
でも親を連れて行ったらゆうくんの怒りを買って手に負えなくなりそうで怖かった。
親が出てきてここまで大事になってしまったから、わたしは1人で立ち向かうことにした。

駐車場に車がなかったので留守なのがわかった。
玄関に入るとお気に入りの日めくりカレンダーが7月9日で止まっていた。
わたしが出稼ぎに行った日、ゆうくんと普通に過ごすことのできた最後の日。

わたしは部屋に入り淡々と荷物をまとめた。
結婚式の幸せそうな写真がたくさん出てきた。
わたしもゆうくんも笑顔だった。もちろん毒義母も。
まさか結婚式から2年後にこんなことになるなんて思ってもなかった。

少し経つとガチャと音がしてゆうくんが帰ってきた。
ガチャっと音がした瞬間、反射的に110番を押した。
すぐに電話がかけれるように110番を押したままiPhoneを握りしめた。
今わたしの唯一の味方だった。
仕事なはずなのになぜか私服のゆうくん。

🙋‍♂️「やっと帰ってきたんだ。」

怒られると思っていたから、優しい声のゆうくんに言葉が出なかった。
無視をしたのかと思ったのかゆうくんの態度が急変。

🙋‍♂️「お前早くここ座れ!」

わたしは黙って座った。
ゆうくんはiPhoneを取り出して一言…

🙋‍♂️「お前嘘つかないように録音させてもらう。いいよな?」

頭の中に「?」がいっぱいだった。
自分が嘘をついていつも話ができないのを人のせいにしたいのだろう。

わたしも録音したかったけどいつでも電話がかけれることを優先したくてメモを取った。

🙋‍♀️「離婚届って書いてくれた?」

🙋‍♂️「なくした。書いてない。そんなことよりお前の仕事の話だろ。」

🙋‍♀️「離婚するならわたしがこれからどうしようと関係ないよね?」

🙋‍♂️「仕事を続けるなら離婚だよ。俺はもう耐えられない。」

🙋‍♀️「できればバツつきたくないし離婚したくない。でもそれ以上に仕事を辞めたくない。」

ゆうくんはこの言葉に納得できなかったようでまた口調が強くなってきた。

🙋‍♂️「なんで?俺を捨ててまでする仕事なの?」

🙋‍♀️「ゆうくんと結婚するためにこの仕事辞めたけど、今すごく後悔してるからもう失いたくないの。新潟にいたら飲食店やスーパーで働けって言われて好きな仕事もできない。そんなのわたしも耐えられない。」

🙋‍♂️「俺も今まで我慢してきた。」

🙋‍♀️「お義母さんがわたしのお母さんに電話するまで普通だったのに、一緒になって辞めろって言うのが本当に許せない。」

🙋‍♂️「俺のお母さんの悪口言うなんて有り得ない。謝れ。今すぐ謝れ。電話しろ。」

🙋‍♀️「悪いけどもう二度と話したくない。今回のことお義父さんにお話ししたいから番号教えてくれる?」

🙋‍♂️「お父さん携帯持ってない。」

🙋‍♀️「何言ってんの?そういう嘘おもしろくない。」

🙋‍♂️「番号知らない。」

頑なにゆうくんはお義父さんの番号を教えてくれなかった。

きっと毒義母がモンスターなのを知らないのだろう…
この事件をお義父さんのせいにしているのを知らないのだろう…
この時まではそう思っていた。