僕が内装工事や交通整理員など、現場のバイトを転々としてきた一番の理由は、
電話をとらなくて良い、ということです。
事務仕事なら必ず電話を取らざるを得ないし、
考えてみると電話を使用しなくて済む仕事ってなかなかありません。
中高と陸上部で鍛えてきたこともあって体力はそこそこあると思っていたので、
高校を出てすぐに工事現場のバイトをするようになりました。
立場はフリーターですが、これが一番気楽だと思ってやってきたのです。
正社員になろうとすれば、面接でキチンと喋らなければならないでしょうし、
仮に現場の仕事に就いたとしても、正社員なら発注元との打ち合わせをしなければなりません。
その都度吃音のことを気にしていては仕事にならないわけです。
だから、高校卒業後およそ10年間もフリーターでやってきました。
こんな僕にも24、5才の時に彼女が出来た事は以前お話しした通り。
その時もフリーターとして内装工事に携わっていたのですが、
彼女は内装業者の事務員さんで、僕と同級生でした。
自然の成り行きみたいな感じでお付き合いするようになった僕らですが、
最初の内は、彼女のやさしさに癒されたり、
吃音のことで悩む僕を励ましてくれたことに勇気づけられたり、
僕にとっては本当に他に代えがたい存在でした。
けれど、そんな彼女とも関係も2年足らずで終わることになったのです。
彼女も年頃だから、当然結婚のことを意識するようになっていたと思います。
僕も、彼女をお嫁さんに迎えたいという気持ちはずっとありました。
でも、自信が持てなかったのです。
僕はなかなかフリーター生活から抜け出すことが出来ないままでいたし、
彼女のほうも、そんな僕に焦らず付き合ってくれていたのですが・・・
ある日夕食を共にしているときに告げられたのです。
「M君、このままの生活ではまずいと思わない?」
「ちゃんとどこかしっかりした会社に正社員として雇ってもらうべきでは?」
このように告げられ、少しショックでしたが彼女の不安も当然です。
だから、少し考えてから・・・
「こんどちゃんと考えるよ」
「どこか正社員で雇ってくれそうなところで面接を受けてみるよ」
そのときは、このように返すのが精一杯でした。
でも、彼女はこのときの僕の言葉を頑なに信じていたんです。
一方、僕ときたら・・・
・面接でしゃべらなければならないこと
・電話応対のこと
正社員になった瞬間に巻き起こるさまざまなことが頭をグルグルめぐり・・・
踏ん切りがつかず、煮え切らないままで過ごしてしまったのです。
こんな状態がしばらく続き、いつしか僕は彼女とまともに目を合すことも辛くなっていきました。
彼女とのお別れも時間の問題だったんです。