昔ある所に一人の貧しい男がいました。
なんとか暮らし向きを変えたいと思った男は、観音様にすがったところ、
「はじめに触ったものを大事に携えて旅に出よ」
というお告げがありました。
男が観音堂から出て家に戻ろうとすると、石につまずいて転びました。
そのとき、偶然にも手の先で一本のワラに触れたので、
男はワラを持って旅に出ることにしました。
旅の途中、顔の周りをうすさくブンブン飛び回るアブがいたので、
男はアブをつかまえ、ワラの先に結び付けました。
道すがら、大泣きしている男の子がいたのですが、
ワラの先にブンブンしているアブの姿を見て面白がり、
すっかり泣くのを止めてしまいました。
泣くのを止めた男の子が、「それちょうだい」と欲しがるのですが、
観音様の「大事にせよ」とのお告げもあったので男は躊躇していました。
すると、男の子の母親が、「ミカンと交換してください」と懇願するので、
アブの付いたワラを男の子にあげて、ミカンを受け取りました。
ミカンを持ってどんどん先へ進んでいると、
喉が渇いて困っている商人と出会いました。
商人は男が手にしているミカンを見ると、
「どうか、私の反物と交換していただけないだろうか?」と懇願してきました。
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この話は有名な「わらしべ長者」です。
この後男は、反物と馬を交換し、馬とお屋敷を交換し・・・
という具合に、観音様のお告げ通りに、どんどん金持ちになっていきます。
「わらしべ長者」には苦い思い出があります。
中学一年生のとき、学内の文化祭で演じる「わらしべ長者」で、
僕が「商人」の役をやるハメに・・・。
出たがりのクラスメイトはみな、どんどん配役が決まっていき、
どうしてもあと一人、出演者が決まらなかったところ、
主人公である「男」に役が決まっていた、ちょっといじわるなクラスメイトが、
僕に「商人」をと、推薦したのです。
僕は「とんでもない」「絶対いやだ!」と、心の中で叫びましたが、
うまく断る言葉が出てきません。
そうこうしているうちに、商人役が僕に決まってしまいました。
何度か予行演習があったのですが、どうしてもセリフの頭が出てきません。
完璧にセリフは覚えているのですが、口をついて出てきません。
焦れば焦るほど、出てきませんし、出てくるのは汗ばかりです。
「なんだ、M君。そんなんじゃ劇にならないよ」
クラスのみんなから非難されたり、からかわれたり・・・
でも、僕がすらすらセリフを言えない事なんて、
クラスのみんなも、先生も知っていたはずです。
文化祭で見世物を出す以前に、練習の場で僕はクラス全員の見世物になっていました。
結局、本番直前に担任の先生の判断で、僕は商人役を降ろされ、
セリフのない侍の家来役に変わりました。
「どうか、私の反物と交換していただけないだろうか?」
「ありがとう、ありがとう」
結局このセリフ、ちゃんと言えたのは、自宅のお風呂の中だけでした。