自動車メーカー独身寮での強盗殺人事案が発生したのは2016年9月14日。10日後の9月24日、犯行現場となった独身寮に住む上川傑容疑者が逮捕された。

広島南警察署において48時間(最長23日+別件窃盗で23日の46日かも)の取り調べの後、検察庁に身柄を送致され拘留・取り調べを受け、裁判員裁判特有の公判前整理手続きの為の時間がたっぷりとかかり、起訴されたのは1年1か月後の2017年10月15日。

初公判は11月14日、毎週のように裁判が行われ11月27日には論告求刑と弁護側の反証が行われ結審。そして12月6日に無期懲役の判決が言い渡された。

 

この裁判の結審の際、この時点で俺は「無期懲役」の判決を確信した。強盗殺人は死刑または無期懲役だ。

 

争点は2つ。被害者が多額の現金を所持していた事を被告人が知っていたか。そして暴行時に殺意はあったかだ。

検察は強盗殺人を主張。弁護側は殺意はなく傷害致死と暴行後に初めて現金を発見し盗んだ窃盗を主張。

両者の量刑は天地の差がある。

 

訴因変更の命令がないので殺人はあり得ないし、傷害致死と窃盗というのも無理がある。

現場にあった消火器を凶器にしているのは殺害に計画性はなくとも、脅して大金を引き下ろさせ強取しようとしたのは状況から明らか。

抵抗されたか「会社に報告する」とか言われてカッとなり金銭強取の口封じのために殺害したのだと読める。

別件の窃盗事案でも有罪。日頃から他人の物を見境なく奪う男なのは事実だろう。


状況から強盗殺人は明らかであり、判例で「無期懲役」だと判断したわけだ。判例に囚われるのは悔しいが。

 

判決理由の中で「罪を軽くしようと不可解な弁解を繰り返し犯行と素直に向き合っておらず情状酌量の余地は皆無。被害者に何等かの話を持ちかけ被害者が現金を引き出したと考えるのが自然で、暴行する時点で現金を強取する意図はあったと推定される。また暴行によって生じた傷の状況などから殺意があったと認められ、強盗殺人の罪が成立する」と断罪。


判決後の説論でも「自分の行ったことと向き合うことから償いは始まる。今後、しっかりと自分と向き合うように」との人間らしい裁判長のお言葉があったが、うなずくだけで泣いていた。この涙は被害者や被害者の遺族に対するものではないことは明らか。

また自分の主張が全く認められず悔しい涙か?と言えばそれも違う。

 

これまでの裁判でも「消火器は脅すために廊下から持ってきた。背中は殴ったが頭部には誤って落とした」と証言。

検察側に「検視した医師の証言としてかなり強烈な外力によって出来た傷」だと指摘されたら「被害者の手に躓き体重が掛った状態だった」と支離滅裂な苦し紛れの言い訳をしていた。傷害致死と窃盗なら有期刑となり10数年で出所できる。しかし強盗殺人は死刑か無期懲役。

 

無期懲役囚の仮釈放は30年経て2年かけて審査が行われ、実際には35年以上の受刑者となってから仮釈放される。その仮釈放も1850人程度の無期懲役囚の中で年間数人と言う。これまでの1年数か月の拘置所生活でも辛かった。これ以上囚われの身になるなんて絶対に嫌だ。死ぬまで刑務所なんて絶対に嫌だ!その思いで自己保身のために、故意に自らの罪を傷害致死に持っていこうと吐いた嘘の証言だ。主張というものではない。

従って主張が認められなかった悔しさという涙ではない。つまりは「これから一生雑居房でおっさん7人程度との共同生活を先の見えない年月過ごさなければいけない辛さ」による涙だと推察する。

まさか、自分がTVニュースで報道されるような「凶悪な強盗殺人犯」になるとは夢にも思っていなかっただろうが、ほとんどの死刑囚や懲役服役者はそうだろう。生まれた時から凶悪犯はいない。

 

俺は、この裁判で被害者と被告人の生き様がほとんど論じられてこなかったのが気になった。

被告人は年齢的にも社会的にも収入的にも分不相応な国産高級車に乗り、パチンコなどのギャンブルに興じ、友人にも30万円ほどの借金や自動車ローンも80万円ほどあったという。独身寮や職場のロッカーから現金が無くなることが多発し、周囲も上川がやったのではないか?と噂をし、ある者は上川が『俺が盗った』と豪語していたのを聞いたという。事実、同僚からの現金5万円窃盗事案については本裁判の区分審理では有罪判決を受けた。

ダンス系グループのメンバーのようなファッションと高級財布やアクセサリーなど派手な生活ぶりが窺える。

 

一方、被害者はというと高校卒業後、真面目にコツコツ生きてきたということが判る。2015年に入社し、夜勤もあり寮生活とは言え、大型連休には実家に帰省したりしている中で9月までの1年半足らずで200万円ほどの預金をしていたという。幼い頃から車が好きで隣人がRX-7に乗っていたことからロータリーエンジンのスポーツカーに憧れ、勉強して志望企業に優秀な成績で入社し真面目に勤務していたとのこと。

また幼い頃から争い事は避け、そのエピソードも被害者のご両親の証言で明らかになった。

真面目にコツコツ働き、憧れのロータリースポーツカーを買おうと貯金し、明るい未来を自らの手で掴もうと努力してきた被害者。

ご両親の生き様、背中を見て真面目に生きてこられたのだ。

19歳の頃の俺は貯金などしていなかった…

 

全く対照的と思える生き方をしてきた被告人と被害者。

 

被害者1名、前科なし。過去の判例で堅実に勝利できる求刑として検察は「無期懲役」を選択。

これでは、被害者とご遺族が全く報われない。輝かしい未来を身勝手な理由で奪い、自らが犯した決して許されない大罪を少しでも軽くしようと虚偽の証言を重ねるは言語道断。極刑を以てしても足りないと思う。

 

120万円余の現金の為に輝かしい被害者の未来を残虐な手で奪ったのだ。

たった120万円。同時にそれは被害者が頑張って働きコツコツと貯めてきた夢の宝でもある。夢の宝であり、命に比べればわずかなお金。身勝手なギャンブルや分不相応な生活の穴埋めのためにかけがえのない命を奪った罪を償うがよい。

 

一生、酒を飲むことも女を抱くこともなく、オヤジ連中に囲まれて冷暖房もなく、風呂も夏場は週3回、冬場は2回。素手で雑居房のトイレの中まで掃除し、臭い飯を食い、朝から晩まで働くのだ。刑務所は服役が早いものが上。多少のイジメも黙認。何をするにも刑務官の許可がいる。長くて辛い刑務所生活が待っている。若い受刑者の労役には服役50年を越える高齢の無期懲役囚の介護も含まれるのが普通。下の世話も毎日続く。

 

先述のように仮釈放の審査は服役後30年後で2年かけて行われる。 その審査の材料は刑務所長の所感、被害者感情、社会が受け入れるか、住居と職業の確保。

そして裁判時の検察と裁判官の意見。30年前の記憶などあやふや、場合によっては他界している可能性もあり裁判記録が採用される。

死刑が求刑されるような裁判では「マル特」といい、仮釈放の対象から外される。

 

本件事案も論告では「反省もなく身勝手な犯行で遺族も極刑を望んでいる」と記載・読み上げられ、判決理由でも「罪を軽くしようと不可解な弁解を繰り返し犯行と素直に向き合っておらず情状酌量の余地は皆無。」と裁判長から断罪されている。

このことから仮釈放は絶望であり、獄死が待っていると言うのは間違いがない予測だと思う。

 

犯行時20歳。身柄送致され現在21歳。人生で最も楽しく輝くハズの20歳から仮釈放があっても60歳近くまで、恐らく死ぬまで刑務所で過ごすのだ。

当たり前だ!何の落ち度もない被害者の未来を身勝手な理由、残虐な方法で奪ったのだから。生きているだけでもマシだと思え!仮釈放と言う限りなく小さな夢を見る事が出来るのだし、日々の飯も食えるのだ。

被害者もご遺族も夢は潰えたのだから…

 

上川はLA級刑務所(初犯でロング)行きで岡山刑務所が濃厚だろう。被告人の死に場所は恐らくそこになる。

広島拘置所の独房で死刑を怯えながら待たせるのが本来だと個人的に思うが、司法の判断故に仕方ない。

 

 

論告の時に最終意見陳述で「命を持って償います。どんな刑でも受け入れます」と言っていたが、ダメ元で控訴することも考えられる。期限は12月20日24:00

 

被告人側の立場に立って一言。

弁護側の戦略は誤りだったとも思う。確かに検察の論告にも若干弱さが見えた。状況証拠の積み重ねに物足りなさを感じたのも事実。

しかし、弁護側の主張は裁判長から「ミスリードなので論点を整理してください」と注意されるほどあげ足とりで屁理屈の稚拙なものだったし、どう考えても強盗殺人は明らか。それを傷害致死と窃盗を主張するとは愚かにもほどがある。謙虚に罪を認め情状酌量を考慮してもらうのが賢明だ。

刑法第240条に照らし合わせれば、強盗殺人は死刑若しくは無期懲役。

従犯でない限り情状酌量しても無期懲役の判決は覆らないが、30年後の仮釈放も頭に描けばその方が有利だ。

尤もそんな自己利益の為ではなく、人間は正直に生きた方が良い。嘘を一つ吐けば、その嘘を守るためにまた嘘が必要となる。嘘の連鎖が永遠に続くのだ。

 

数々の裁判を傍聴してきて思うのは、被告人席にいる被告人は悪人には見えないということ。今回の被告人も少年の面影が残る青年だった。

だが実際は凶悪な強盗殺人犯。しかも裁判中に涙したのは自分の周囲に迷惑をかけたという思いの時と無期懲役の判決を受けた時のみ。つまりは自分のことだけだった。

 

今一度、裁判長の声に耳を傾けて自分の犯した罪と向き合え!と思う。

未決拘留期間は検察送致後だけでも420日を越える中、判決では未決拘留期間250日を含むと言っていたが無期懲役で獄死を待つ被告人には誤差にもならない。長く辛い受刑生活と言えども、雑居房の「仲間」と雑談をしたり、クリスマスや誕生日、年末年始にはちょっとした食べ物も出され、懲罰さえなければ慰問コンサートも見られる。そこが腹立たしいし悔しい。

 

とりとめのない文章になってしまったが、正直な所感だ。

 

法務省による無期懲役囚の実態処遇についてのリンクだ。

http://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo_hogo21.html

 

写真は上川傑が刑期確定まで収監されている広島拘置所と犯行現場となったメーカー社員寮

 

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上川傑に見る無期懲役囚の生活と仮釈放についての考察