グリーグ:
ピアノ協奏曲イ短調作品16
シューマン:
ピアノ協奏曲イ短調作品54
ラドゥ・ルプー(ピアノ)
ロンドン交響楽団
アンドレ・プレヴィン 指揮
(1973,LONDON)
LPレコードを聴くことの「良さ」は、レコードを初めて聞いた時の「感動」を心に呼び覚ますことができることにある。
ウォークマンを聴いて感動した人は、いつまでもヘッドホンとテープメディアでの鑑賞スタイルを最上のものと思うだろう。或いは、SPレコードをモノラルで聴いて感動した人なら、「モノラル鑑賞こそ至高」とのたまうであろう。
だから、アナログが良いかデジタルが良いか、なんて議論はナンセンスである。
LPをかけては「パチパチとノイズが入ってめんどくせー」とウザったく感じていた人が、1982年にCDに出会って「感動」的な体験をしたなら、その人は生涯CDを愛することになるであろう。
各人の若き頃の体験とその後の音楽鑑賞のスタイルは結びついている。オーディオ機器とて、それは同じだろうし、よく聴く音楽ジャンルにしても、そのような傾向はあろう。
僕の世代は、小学校の時の音楽室での鑑賞はレコードだった。つまり「LP体験」が先行していたのである。そして、中学の時にCDが出た。CDの手軽さとS/N比の高さ、ノイズのなさには「感動」したが、遡って小学校低学年の時に、LPレコードを友人宅の高級オーディオコンポで聴いた時の「感動」に比べたら、それは小さなものだったのだと思う。
だから、僕はいまでもLPを聴く。
逆に、デジタルの方が音が良いという人は、おそらく、それまでLPでノイズだらけの音で聴いていたのが、「CD体験」により、より高次な次元に上り詰めた如くに「感動」した、というような体験を有しているのではあるまいか。
その人の心理も、僕の心理も、とどのつまりは同根である。少年期の感動体験が、その後の鑑賞スタイルを既定してしまうという意味において。
ラドゥ・ルプーは、「ヴァン・クライバーン」と「リーズ」の両方の国際ピアノコンクールの覇者である。これはすごいことであるらしい。センシティヴでロマンティックなピアノのタッチが心を揺さぶる。ロンドン・レーベルの録音技巧の妙味と相俟って、50年前の名演がこうして聴ける喜びを噛みしめている。