NHK-FM「名演奏ライブラリー」

フルートの神様 マルセル・モイーズ
初回放送日:2024年6月16日
 

 

聞き逃し配信で聴いた古い古い録音。

 

19世紀生まれのマルセル・モイーズによるドビュッシーの《牧神の午後への前奏曲》は、いまの演奏につながる淵源と思われた。みなモイーズのレコード(SP盤)を真似して吹いていたというから、弟子、孫弟子たちに相当な影響を与え続けたのだと思う。演奏は、管弦楽がストララム管弦楽団、指揮がワルター・ストララムという、知らない組み合わせであった。SP盤当時は、よく録音されていたオーケストラなのであろうか。

 

番組冒頭の《ハンガリー田園幻想曲》(ドップラー作曲)は、モイーズがまるで眼前で演奏してくれているような「近さ」に感動した。実はこれが、古い録音の「良さ」なのかもしれない。機材の性能の悪さからなのか、演奏者はマイクの目の前で演奏させられたのだろう。…というか、そもそも「マイク」での電気録音だったのかどうか…私には知識がない。

 

幼いころ、家にあったナショナルのテレコで、父親の篠笛を録音した時のような「近さ」。僕が生まれる数年前には他界していた祖父の演奏は、録音テープでしか聴いたことがない。カセットではなく、オープンリールのテープであった。

 

どこか、そんな音に似た響きを今回の放送で耳にすることができた。フルートと篠笛は、発音方法が同じ「笛族」である。だから僕は、祖父と父の演奏を思い出してしまったのである。

 

幼いころから、「笛は継がない」と決めていた当時の心境まで思い出してしまった。

 

 

今となっては、祖父のテープが散逸してしまって、手許にないことが悔やまれる。あの演奏をまた聴きたかった。