チック・コリア・エレクトリック・バンド/
アイ・オブ・ザ・ビホルダー
(1988,GRP)
輸入盤(アメリカ)。
僕にたいへん大きな影響を与えてくれたアルバム。CD購入はおそらく平成2年(1990年)頃。
しかし、それ以前に、レンタルCDショップでレンタルし、カセットテープにダビングして、愛聴盤となっていた。
80年代フュージョンにおける、僕のベスト・アルバムであり、これ以外の何を聴いても、「何か違う」と心が受け付けなかった。
レンタル屋でこれを選んだのは、ドラムがデイヴ・ウェックルだったからである。ウェックルは、当時「ウェッケル」と通称されていて、ガッドの次世代の旗手としてめちゃめちゃ注目されていた。「ウェッケル」と呼んでいたのは、僕の周り(バンド仲間とか)だけだったかもしれない。
とにかく影響を受け過ぎた。
まず、上にも書いたとおり、他のフュージョンではまったく満足しなくなった(特に日本のフュージョン)。
次に、ロック音楽からは意識的に遠ざかった(特に日本のロックバンド)。SASの応援団を辞め、ウェックルのドラミングを理想とするようになった。聴く音楽はクラシック(主にオーケストラ)とフュージョンだけになり、ディープ・パープルやレインボー、SAS、安全地帯、レベッカなどのバンド・スコアを全部捨ててしまった。いま考えたら、もったいないことをしたと思う。
影響は数年後にまで及び、スティックはデイヴ・ウェックル・モデルを愛用するようになり、左手はレギュラー・グリップに「強制」し、ウェックルの教則ビデオを連日観まくった。
ちなみに、ウェックル・モデルのスティックを使うまでは、松田弘モデル=パール120H(現在欠番)が好きで、吹奏楽でもバンドでもなんでも、これ一種類で演奏していた。
面白いエピソードがあって、このアルバム『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』のテープをカーステレオでかけてドライブしていたら、助手席に座っていたベース担当の仲間が、突然、次のように叫んだのだ。
「おれ、もうハードロック辞める! なんなんだ、このベースは! なんでこんなのが弾けるんだ!」
ジョン・パティトゥッチのベースである。そして、その後、彼は二度とベースを弾かなくなってしまった…。
なんというか、世界が変わっちゃったんだろうと推察する。いままでやっていた「音楽」ってなんだったんだろう…と。(訊いたわけじゃないので知らんけど)
でも、僕も同じような気持ちでいたから、よくわかる。「破壊と創造」じゃないけれど、いままでの自分を全部捨てたくなったのだ。レギュラー・グリップの変更と、ダブル・ストロークの練習は、正直、「苦行」だったが、そんな「苦しみ」が多いほど「何かを超える」エネルギーも大きくなるような気がしていた。それで、一所懸命、独学で頑張れたのであった。
この時期がなかったら、僕は今以上にスティック・コントロールの下手な人間になっていただろう。
ことほどさように、このアルバムは僕に大きな影響を及ぼしたわけだが、そのレコードを、先日、偶然見つけて即購入したのである。
まさかレコードが手に入るとは思っていないアルバムであった。そして、レコードの音はやはり素晴らしかった。聴きなれた曲に新たな感動をもたらしてくれる。
まず、A面が終わったらひっくり返さなきゃいけないので、その間、音楽の流れが一時的に停止され、後半への心積もりを促進させてくれる。それは、リスニングに対する心理的な余裕でもあるのだ。
しかしそのことで、かえってアルバムとしての一体感が増すような気がする。矛盾するようだが、CDのように真ん中で分断されないので、A面・B面の曲順やコンセプトが分かりやすくなるのである。