ストラヴィンスキー:

《兵士の物語》

テキスト:シャルル・フェルディナン・ラミュ

 

フランソワ・シモン(悪魔)

フランソワ・ベルテ(兵士)

ジェラール・カラ(語り手)

ニコラ・チェマチェンコ(Vn.)

シャルル・デュトワ 指揮

器楽合奏団

(1970,エラート、国内盤:日本コロンビア)

 

 

シャルル・デュトワのレコードを、集めたいと思っている。(現在、数枚しかないので)

 

さて、当盤。言葉が分からないので物語を愉しむことはできないが、音楽は面白い。

 

第一次世界大戦が終結した1918年に初演されている。そして、この年からスペイン風邪が大流行。この異常な小編成による音楽は、戦禍と感染病禍がもたらした必然だったようである。

 

音が生々しく聞こえるのは、少人数の合奏、特有の響きであって、私にはちょっと懐かしい感じがした。

 

スコアは奇抜過ぎてよく分からないが、現代音楽なんてみなこんなもんだろう。しかし、対訳で読んだ物語はなかなか興味深い。兵士がヴァイオリンを弾いているというのが面白い。そして、悪魔に「魂」を売る。

 

あらすじ
【第1部】
休暇を取って故郷に帰る途中で、兵士はヴァイオリンを弾く。そこに老人の姿で悪魔があらわれる。悪魔は「金のなる本」とヴァイオリンの交換を持ちかける。本には未来の相場が記されていた。悪魔の家に誘われ、3日間、兵士はヴァイオリンの弾き方を悪魔に教えてから、故郷に帰る。だがその3日間で3年の月日が流れていた。兵士は商人になり、悪魔からもらった本のおかげで富を手にするが、心は満たされない。悪魔からヴァイオリンを手渡されるが、もう兵士は楽器を弾くことができない。 

【第2部】
兵士は旅に出る。ある王女が謎の病に伏しており、病を治した者は結婚できると知り、王宮に向かう。そこにはヴァイオリンの名手をかたる悪魔の姿があった。兵士は悪魔とカードで勝負する。悪魔が勝ち、兵士はお金をすべて失う。すると、兵士は悪魔の力から自由になり、ふたたびヴァイオリンを弾けるようになる。兵士がヴァイオリンを弾くと、王女は床から起き上がって踊りだし、悪魔は倒れる。悪魔は国を離れればふたりともわがものになると警告して、去る。やがて兵士は望郷の念に駆られ、王女とともに国境を越えたとたん、そこには悪魔が待ち構えていた。

なかなかよくできた話ではないだろうか。簡潔ながらも味わい深い。大きくとらえれば、ここには3つのテーマがある。「故郷の喪失」「物質的な富の空虚さ」「音楽の力の肯定」だ。いくらお金があっても、それだけでは幸せにはなれない。故郷にあった人の縁はお金では買えない。ヴァイオリンがもたらす音楽の力は、ひいては芸術の力であり、悪魔に打ち勝つための人間性のシンボルでもある。

 

(「飯尾洋一の音楽夜話 耳たぶで冷やせ Vol.24」より「戦禍で生まれ、コロナ禍にも通じるストラヴィンスキー《兵士の物語》のメッセージ」より引用 2021.02.25

 

 

 

上の引用記事が最も参考になった。「戦禍」と「コロナ禍」にも通じる…というタイトルにちょっと鳥肌が立った。記事が書かれた3年前より、世の中はさらに悪くなっているように思える。

 

果たして、「音楽」は人類を救えるのか? 人間的なパフォーマンスが何らかの形で暗黒の時代をまっすぐに貫いていけるような気がするのだが(幻想かも)。