ブラームス:

ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品77

 

ダヴィッド・オイストラッフ(Vn.)

ジョージ・セル 指揮

クリーヴランド管弦楽団

(1969,Angel)

 

 

昭和44年5月13日、16日の両日、クリーヴランドのセヴェランス・ホールで録音されたレコード。私が生まれる10日前の録音なので、なんだか不思議な気分になっちまう。場所は違っていても、同時代に並行して営まれていたさまざまな生活に思いを馳せる。

 

レコード(録音)というのは、その頃の空気感まで巧みに封じ込めているように感じる。空間的差異そっちのけで共時性ばかりが勝ってしまうのかもしれない。

 

セヴェランス・ホール

 

クリーヴランド管弦楽団を地方の一オケから、アメリカ五大メジャー・オケの一端に育て上げた(鍛えた)のがジョージ・セルだ。

 

僕は、その後のロリン・マゼールのものやドホナーニのものはけっこう聞いたことがあったが、セルのレコードを所有していた記憶がないので、おそらく「初ジョージ・セル」だと思う。

 

同じくオイストラフも「初」だと思う。

 

音はやや古めかしいが、ブラームスにはよく合っている。そして、ヴァイオリンの高音域がちょうどいい具合に丸められて、とても滑らかでおおらかな表情を創る。CDで聴いたら違うのかもしれないが、このオイストラフのサウンドこそ、本物のヴァイオリンの音色だという気がする。

 

なんというか、「巨匠」がいて、「レコード産業」が盛んで、素晴らしい時代だったんだろうな、と。

 

オーケストラといえば、発祥地としてのヨーロッパをまず思い浮かべるが、西洋文化の行きつく先=西端である北アメリカにおいて、その文化はより濃厚になって次元を超えた昇華を果たす。

 

一方、ヨーロッパ文化が東進すれば、シルクロードを通り、漢文化を経由して我が国に至る。我が国より先には広い大海原があるばかりである。日本とアメリカは、両極端であるばかりか、実はたいへんよく似た条件のもとに著しい成長を遂げたのである。

 

西に行けば、アメリカ。東に行けば、日本。その先は、どちらも太平洋…。

 

 

上記の本を読んでから、敢えてアメリカのオケのCDをチョイスして購入していたことがあった。たしかに、「究極」の西欧文化がアメリカにあるのであれば、オーケストラだって「アメリカが最高!」となる。実際、シカゴ響、ニューヨーク・フィル、フィラデルフィア管、ボストン響、そしてクリーヴランド管は、とにかく凄い。CDは、この五大オケのものを買っておけば、まず外さないのだ。

 

といいつつ、僕が実演に接したアメリカのオケは、いまのところ一団体もない。(モントリオール交響楽団は、「もはやアメリカのオケでは?」と僕の先生などは評していたが、フランス語圏のケベック州が本拠地という特長があるので、僕はカナダのオケと思いたい)

 

いずれは…と思うが、それまでは往年の録音などで(今回のように)愉しんでいたい。