DIATONE DS-200Z
三菱・ダイヤトーンのスピーカーを再び、ということで今の自分の環境には、このくらいのサイズしか無理なのである。いずれは、DS-1000Zが欲しいなあ…などと思うのだけれど、30年も昔の製品だから、なかなか良い品は見つからない予感がするし、見つかったとしても性能がどう変化しているのか…。まあ、その辺は、あまり気に留めない性質(たち)なのだが。
よく売れた商品なのだろう。1980年後半から1990年前半ごろまでのDIATONEは、ヤフオクやメルカリで根気よく見ていると、良さそうな外観のブツがちょくちょくお出ましになっている。そんな中、このほどC万円ほどで入手できたのが、上掲、DS-200Zなのであった。
僕は、家電量販に勤めていた時に、当時、新品「598ライン」で発売されていた中級機、DIATONE DS-700Zを社販で買い、記憶違いだったようです今世紀に入るまでメインで使っていた。
DIATONE DS-700Z
スピーカー選びの際には、さまざまなスピーカーが展示デモされている他店に赴き、貴重な休日をまる半日ほど使って選定した。単品オーディオが充実した店舗には、“名物店員”と呼ばれる、ものすごくオーディオに詳しい店員がいたりして、各メーカーの音の傾向などについて、半分勉強を兼ねて話をするのが楽しかった。
余談だが、オーディオが下火になっていく中、後年、そのような販売員は、会社にオーディオ部門を任せられて、高級オーディオ特化店の店長を任せられたりしていた。そうすると、固定客がつく。結果、数年前に独立してオーディオ店を開いてしまった。実は近所なのだが、機会がなくて足を運んでいない。オーディオ雑誌の取材記事などはよく見るのだけれども。
さて、1993年の僕のスピーカー選び。最後は、DIATONE DS-700Zと、ONKYO D-77FXⅡとの一騎打ちとなった。オーディオ雑誌を見ると、だいたいこの二大国産スピーカー・メーカーが「ライバル」として紹介されていたものだ。しかし、オーディオ雑誌の評言からは実際何も伝わってはこない。相模原にある某店で試聴できたことで、各スピーカーの特色を理解できただけでなく、僕自身の好みの音というものを自覚できたと思う。
思い出すのは、次のような二項対立の図式である。
【DS-700Z】
①デザイン:明
②音調:明
③音の傾向:高音寄り
④音のまとまり:音像型
⑤音のイメージ:ストレート
⑥得意な音楽:ジャズ・フュージョン、オーケストラ(ラテン系)
【D-77FXⅡ】
①デザイン:暗
②音調:暗
③音の傾向:低音寄り
④音のまとまり:音場型
⑤音のイメージ:サラウンド
⑤得意な音楽:歌謡曲、オーケストラ(ゲルマン系)
気持ちいいぐらいの二項対立だった。価格はだいたい同じだったが、ONKYOの方が5,000円くらい安かったかも。社販だったから、店頭価格よりは安かったはずだ。ということで、音の中身だけで勝負。結果、僕はDS-700Zを選定し、自分の社員コードで売り上げた。これも記憶違いだったようです
いまでもよく覚えているのが試聴のために持参したCDだ。5枚くらい持っていった中で、決め手となったのは、やはり当時傾倒していた音楽。好きなCDを、好きな音で聴けるという環境こそが、幸せなのだ。
【決め手となったCD】
チック・コリア・エレクトリックバンド/アイ・オブ・ザ・ビホルダー
デイヴ・ウェックルのドラムとチック・コリア・のピアノの響きが明瞭で、DS-700Zの方が僕の好みに合っていた。もしかしたら、バランス的にはD-77FXⅡの方が正当だったのかもしれないが、僕にはハイハットの刻みとか、トライアングルとかがもっと前に出てきてほしかった。D-77FXⅡの方は、音が解れていない感じがしてイマイチだった。
シャルル・デュトワ指揮/モントリオール交響楽団
ガーシュウィン:パリのアメリカ人
《パリのアメリカ人》のシロフォン(木琴)と、《キューバ序曲》のハイハット(シンバル)、クラベス(拍子木)等の「鳴り物」の音色が決め手だった。DS-700Zの方が非常に生々しく、僕の好みだった。
なんだかこう書くと、D-77FXⅡが完敗のように見えてしまうが、実際は相当に悩んだのである。そうでなきゃ、貴重な休日を半日無駄にしてまで、家電店のリスニング・ルームに籠っているわけがない。実は、DS-700Zは、最初は良いのだけれど、次第に「聴き疲れ」してくる機器なのである。時間の経過とともに、ちょっとずつ音量を絞りたくなってしまう。特にヴァイオリンの高音とかトランペットのハイトーンは耳に刺激的だった。もう少ししなやかに、情緒を保って聴きたいな…と思わせる若さのようなものがあった。
結果は、DS-700Zで良かったと思っているが、この時に芽生えた感情は、「ああやっぱり高価なスピーカーは良いんだな」というものだった。同じ店で恐る恐る聞いた上位のDS-1000Zは、明らかにDS-700Zの「弱点」を克服していて上品だったし、高嶺の花のTANNOY STirling TWなんかだと、オーケストラに関して、「ラテン」とか「ゲルマン」とかいう括りをまったく問題にせず、心地よく朗々と響かせていた。「お金があれば、買える」「一所懸命働こう」…そんなことを思いながら帰宅した23歳の僕なのであった。