
ファーレイ、ウィーンを歌う
キャロル・ファーレイ(S)
アンドレ・コステラネッツ 指揮
コロンビア交響楽団
(1978,CBS SONY)
(1978,CBS SONY)
先日、塩田美奈子さん(S)と宮本益光さん(B)の演奏をみんなで聴いた。レハールの『メリー・ウィドウ・ワルツ』の二重唱には、うっとりさせられたし、宮本さんの『ダニロ登場の歌』(レハール《メリー・ウィドウ》から)については、心地よいバリトンと、ちょっとコミカルな演出が面白かった。
しかし、僕がもっとも惹きつけられたのは塩田さんの『熱き口づけ』(レハール《ジュディッタ》より)である。

へっぽこパーカッショニストの私の身体に、ジュディッタのカスタネットやオケのエキゾチックなリズムが、すーっと浸透していくのを感じた。ちょっと《カルメン》っぽい響きがして、既視感ならぬ“既聴感”を感じたりもした。「ジプシー・キングス」好きの私としてみれば、聴いていて勝手に身体が動き出してしまうような、自然な高揚感を味わえただけでも、今回の演奏会の意義はあった。
…本当のことを言うと、僕はいまさらながら、クラシック音楽における「歌声」の魅力に心を奪われてしまったのである。こんな体験は初めてだ。歳をくったということもあるかもしれないが、否、ここは素直に(そして純に)塩田さんと宮本さんのパフォーマンスに感謝を申し上げたい。私を「声楽」に開眼させてくださったのは、紛れもなく、今回の演奏会における塩田さんと宮本さんなのである。

そもそも僕、声楽とかオペラとかにはまったく関心がない人間だった。だから、レコードもCDも持っていない。歌や合唱入りの交響曲(ベートーヴェン、マーラー、ヴォーン・ウィリアムズなど)とか、15年以上前に流行ったシャルロット・チャーチのアルバムなどが在るのみだ。
レコファンにいったら、350円のエサ箱を前に、『ファーレイ、ウィーンを歌う』というLPが目についたので買ってきた。キャロル・ファーレイというソプラノ歌手が歌っている。でも当然ながら、僕はファーレイが誰なのか知らない。曲名だって、上のレハールの2曲以外にはヨハン・シュトラウスⅡのワルツぐらいしか知らない。
指揮者だって未知の人物だ。アンドレ・コステラネッツなんて聞いたことがない。「ファーレイ」と「コステラネッツ」…ネットで検索してもほとんど何も出てこない。いったい、誰々なのだろうか。実在した人物なのだろうか(おい)。
でも、レコード会社はCBSだし、オケもお得意の「コロンビア交響楽団」だ。ワルターのコロンビア響とはきっと違うんだろうけど、まあ、でも、ちゃんとしたレコードには違いない。
このレコード、音がすごいハイ上がりで耳から血が出るかと思った。50~60年代の録音かと思いきや、1978年(昭和53年)とクレジットがあったので、「ほんとうかよ!」とひとりごちてしまった。
でも演奏は悪くない。ソプラノのファーレイさんも(ジャケット写真では)美人だし、愉しそうな「ライト・クラシック」的な雰囲気で聴き手を満足させてくれる。《美しく青きドナウ》なんて抜粋版でオイシイところしか演奏しない…完全に非クラシック愛好家へ向けたアルバムのようだ。