結局アンナから返信はないまま時間は過ぎて行き、一週間の疲れからか夕飯も食べずに居眠りをしてしまった。

そして目覚めたのが23時過ぎ。慌てて携帯を確認するが、残念ながらいまだにアンナからのメールはない……食事どころか今日はメールもできないか……

微妙な寂しさに打たれながら、明日の棚卸しに備えて寝床に入ろうと行動し始めたタイミングで、アンナからメールがきた。『ダーリン?もう寝ちゃったかな?』

『まだ起きてるよ!』俺も即返信をする。出張中の晩と同様に、短文メールのやり取りがスタートする。

『よかった♪間に合った♪髪のカラー液が欲しくて、5軒もドラッグストアを回ったんだけど結局なくてさ……晩ご飯は何を食べたの?』俺の方は、アンナを食事に誘いたい願望をこらえながら、せめてメールだけでもと切に願っていたが、当のアンナは無邪気なものだ……

『結局食べてない…この時間から食べるのも今さらだし……』微かな寂しさと幼稚な反抗心で、俺は少し愛想なく返信する。

『なにか食べたほうがいいんじゃない?それともダイエットのためにやめておく!?久々の独身生活はエンジョイ出来てるの!?』アンナは一向に無邪気なままだ……

俺はもっとストレートに返信してみた。『わかってないな……久々の独身生活でNGタイムもないから、アンナとメール出来るのを楽しみにしながら、飯も食べに行かずに様子見てたんだよ……』
土曜日はアンナも休日だ。今頃何をしてるのだろう?アンナを食事に誘いたい……でも俺たちは店以外で会ってはいけない関係なのだ……

今日の昼間、アンナからいつも通りの長文メールが入っていた。まずはその返信をしよう。決断を先送りにするように、俺は都心での夕食を諦め下り電車に乗り込んだ。

電車に揺られながら長文の返信を書き進める。この後の独りの時間を思うと、アンナへのいろんな誘いの言葉が浮かぶ。『一緒に食事に行こう?』残念ながら、こんな直接的には書けそうもない。

『今晩時間があればメールでもしよう?』これぐらいならいいだろうか?ただ俺はアンナの彼氏ではないのだ……彼女のプライベートな時間を拘束する権利はない……

結局俺がメールに書いた言葉は……『夕飯をつくりに来てよ?ってウソウソ!』…完全に冗談と解る内容だ……自分の臆病さに嫌気がさす……

電車を降りゆっくりと自宅まで歩く。普段なら玄関のドアホンを押せば妻が鍵を開けてくれるのだが、今日の我が家は無人だ。自分で鍵を開け、ひっそりとした屋内に入る。

昨晩と同様、着替えを済ませテレビをつけリビングに横たわる。しかも今日はまだ19時台だ。昨日とは比較にならないぐらい時間に余裕がある。

何をするわけでもなく、霧の中のような思考のままのんびりと時間を潰す。アンナから返信がくるだろうか?もし早い時間帯にメールがくれば、食事に誘ってみようか?そんな出来もしないことを考えながら………
俺の頭の中で繰り広げられる【願望vs理性】の闘いは、いつも通り徐々に理性が優勢になってきた。安上がりなファーストフードを食べ終え店を出る。

俺は車に乗り込み、いまやかなりの劣勢となった願望にとどめを刺すように、カーオーディオのボリュームを上げる。攻撃的なロックサウンドをBGMに、女々しい願望に一気に見切りをつけ、若干荒めの運転で再び自宅を目指す。

21:30頃帰宅し真っ暗なリビングの照明を付ける。スーツから部屋着に着替え、特に観るわけでもないがテレビを点ける。普段なら通勤電車の中でアンナへメールを返信するのだが、今日は車だった為まだ返せていない。のんびりと仰向けに寝転びながら長文メールを打ち、少し早めに寝床についた。

そして土曜日早朝に目覚め、昨日のうちに妻が買ってくれていた菓子パンを食べ、シャワーを浴びて身支度を始める。月に一度の土曜出勤だが、土曜日にスーツを着るのは毎回どこか気が重い。

妻がいない分、厳重に戸締まりを確認してから自宅を出発し、普段より空いた電車で居眠りをしながら会社に向かう。

中間決算の為、それなりに事務処理も多いのだが、土曜日だけに客からの電話やFAXはほとんどない。集中して事務処理を済ませ、明日の棚卸しに備えて、皆ほぼ定時で退社した。

普段より早い時間帯、しかも今日も独りっきりの独身生活。都心で夕食を済ませて帰ろうかと思うと同時に、昨日見切りをつけたはずの願望が、またもや俺の思考を支配する……