翌日月曜日の夕方、その相談の続きがメールで来た。

『昨日お店のスタッフに話してみたけど…やっぱり送りの遠いアンナは4:30までになりそう……だからシフト調整するかも……』半ば予想はしていたが、やはりアンナはその条件を受け入れようとしている……

仕事が終わった後、駅のベンチに座り、俺は俺なりに客観的な意見を返信する。『店側からすると、2時って中途半端な時間に遠方まで送りが入るのは効率が悪いとは思うけど、単純に遠いって理由だけで4:30までって決められるのはおかしいと思うよ?』

さらに俺は書き進める。『アンナの場合、今の店でもう長いしスタッフとも親しいから、頼まれると受けてしまいそうだけど、まず家のことを優先して考えろよ?家事もあるんだから、それに支障が出るならやめておくべきだと思う。とにかく自分が辛くならないシフトにしてもらうこと!店の都合に合わせて無理をしても何の得もしないよ?わかった?』

今頃仕事中のアンナに、俺の意見はちゃんと伝わるだろうか?送信ボタンを押してから、俺は電車に乗り込み、帰宅するまでずっとアンナのことを考えていた。

そして火曜日の朝、多忙なアンナから単文メールが来た。『今日は寝ずに今から友達の美容室について行かないとダメなの……歯医者もあるしまた夜中にメールするね?』

予定を詰め込み過ぎるアンナの悪い癖だ。結局昨日職場で出勤シフトの話はできたのだろうか?無理をしていないだろうか?心配ながらも深夜メールを待つことにしよう。
9月末の日曜日夕方、恒例の散髪密会で、俺は出勤途中のアンナと電車に乗っていた。

アンナと隣り合わせに座りながら談笑している時に、アンナから出勤シフトの件で相談を受けた。

「夜中の2時までだった店の営業時間が、10月から4:30までになるらしくてさ?何時まで働くかは個人個人で決めていいらしいんだけど、やっぱり4:30まで働いたら厳しいかなあ?」

もともと彼女はラストの深夜2時まで働いていた。その後車で家まで送ってもらい、大体帰宅するのが4時前後。家庭では家事全般も受け持っている彼女は、毎朝6時頃から家族の朝食を作ったり、忙しい時間帯に突入する。

もし4:30まで働いたなら、帰宅後すぐに家事という日課になる。ただでさえ自分の時間がない生活なのに、そんな生活サイクルになるのは、もちろん俺は反対だ。

「絶対厳しいよ?無理はしないほうがいいって?」俺は親身にアドバイスをする。

「ただアンナは家が遠いから、多分送りが最後になるから……」幾分困った表情でアンナが返す。

「でも出勤シフトは個人で決めていいことになってるんだろ?家が遠いって理由で、アンナだけ勝手に最後までって決められるのはおかしいよ?」店の事情に合わせて、自ら犠牲になろうとしているアンナが心配になり、俺は語気を強めて反論する。

「そうだね。よく考えてみる!」そこには、笑顔を作りながらも、どこか晴れない表情のアンナがいた。

そして、いつも通り【D駅】で別れ、俺は散髪を済ませて帰宅した。
ようやく俺の気持ちを察したアンナから返信がきた。『それなら朝のメールで言ってよ~?基本土曜日は友達と遊びに行ってて帰りが遅いんだから?そんな事なら早く帰ってきたのにぃ!?電話してよ~?ってゆぅか電話する??』

時間は24:30過ぎだが、俺は自宅に独りっきりだし、どうやらアンナも電話できる状況のようだ。俺は携帯のメモリからシークレット扱いのアンナの番号を呼び出し、発信ボタンを押す。

「もしもし?」若干呆れた感じのアンナの声が聞こえる。その声を聞いて、俺は自分の稚拙な拗ね具合にばつが悪くなり、アンナの様子を探りながら言葉を返す。「遅くにゴメンゴメン?」

少し強めながらも、決して怒ってはいない程よい語気でアンナが言う。「もう!朝の時点で言ってくれたらよかったのに!!」

「ゴメン!でも俺だってやっぱりいろいろ気を遣うんだよ?」と返しながら、もういつも通りの心地よい会話のリズムに戻っていた。

その後特に用事もないまま、約1時間ほど長電話をした。今までもアンナと電話で話したことはあるが、いつも手短に用件だけだ。もともと生活リズムが真逆なだけに、なかなかこんな機会はない。

しかもアンナから、俺の臆病さを逆に叱咤されることになった。ある意味、俺は変に気を遣い過ぎなのかもしれない。

いつになるか解らないが、次の独身生活の時は、もう少し自分の願望に正直になってみよう。今回もアンナとの食事は実現しなかったが、この長電話は少しなりとも恋人気分を満喫できた。今はそれを幸せに思おう。