上野の東京都美術館で開催中(2024年4月27日~8月29日)の「デ・キリコ展」を観に行ってきました
ジョルジョ・デ・キリコは、イタリアの画家、彫刻家
形而上派を興し、後のシュルレアリスムに大きな影響を与えた作家です
フランスの詩人 アンドレ・ブルトンがシュルレアリスム宣言を起草したのが、1924年
デ・キリコが代表作「通りの神秘と憂愁」を描いたのが、1914年
10年もデ・キリコの方が早いんですね
デ・キリコは90歳まで生きて、画家としての画業は約70年と長い
初期の段階で早くも形而上絵画と呼ばれる不思議な絵を描きました
その後で古典的な絵画表現に変わったりした上で、老年期に再び形而上絵画に戻りました
それは新形而上絵画と呼ばれています
新形而上絵画は、洗練されていて、ポップアートのようでもあるけど、やはり初期の精神的な不安がどんよりと広がっている絵の方がいいなと再認識しました
初期の形而上絵画としては、イタリア広場の作品が展示されています
こちらは1934年に再制作されたものですが、元は1913年の作品です
≪バラ色の塔のあるイタリア広場≫ 1934年頃 トレント・エ・ロヴェレート近現代美術館(L.F.コレクションより長期貸与)
誰もいない広場に差す夕陽で、日なたと日影がくっきりと分かれて画面構成されています
何者かの影が見えていて、誰かの気配を感じさせるものがあります
漠然とした不安が画面全体から滲み出てきます
このような不思議な作品を生み出したのは、第一次世界大戦による恐怖と不安が影響としてあったようです
人の顔は、無表情ののっぺらぼうに描かれ、「マヌカン」と呼ばれました
こちらは本展のメイン・ビジュアルの作品
≪形而上的なミューズたち≫ 1918年
カステッロ・ディ・リヴォリ現代美術館(フランチェスコ・フェデリコ・チェッルーティ美術財団より長期貸与)
マヌカンも陰影がはっきりと描かれています
陰には深い闇を感じます
次の≪ヘクトルとアンドロマケ≫という題材は、何度も描かれたテーマです
≪ヘクトルとアンドロマケ≫ 1924年 ローマ国立近現代美術館
ヘクトルは愛する妻アンドロマケと別れて戦場に赴き死にます
これもデ・キリコの第一次世界大戦の経験が背景にあるようです
1920年頃からルネサンスやバロックの時代の古典的な絵画を画風に取り入れます
おもしろいのは、ルノワールの影響を受けた裸婦を描いていること
このような古典絵画に傾倒したデ・キリコは、批判されることが多くあったようです
ある意味つっぱっていた形而上絵画からすると、軟弱路線に見えてしまうのも分からなくはありません
そんな批判を受けてもぶれることなく、自分の芸術センスに自信を持ち続けたのが、デ・キリコのすごいところです
世の中も平和になり、自身も豊かになり、老年期にはこれまでの集大成として新形而上絵画に進みます
≪燃えつきた太陽のある形而上的室内≫ 1971年 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
この頃の作品は、自由に描きたいものを描いているという感じですが、若い頃の方が深みを感じさせます
デ・キリコは、老年になってから若い頃の作品の再制作を数多く行なっています
そこには、若い頃にしか描けなかった題材を熟練した技術で再制作したいという意欲を感じます
次は≪ヘクトルとアンドロマケ≫という同じテーマで1970年という老年期に再制作した作品です
≪ヘクトルとアンドロマケ≫ 1970年 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
また油彩絵画だけでなく、挿絵、彫刻、舞台芸術と仕事の領域を広げていきます
そんな展示もされていて、本展ではデ・キリコの多彩な画業人生の全貌を辿ることができます