彼女の唇が僕の頬に触れた。
キスしてほしい。キスしてほしい。
二人が夢に、近づくように。
夢に近づいた瞬間だった。
薄暗いカンセツ照明の中では誰もが気がつかないだろう。
はたまた彼女の盛り上がった長い髪の影に隠れたのだろうか。
酔った二人は、夜の街ではよくある空気の中で、互いが互いを演じることに疲れたのかもしれない。
もしくは、出会った瞬間から二人はセンチメントに気づいていたのかもしれない。
それか、黄昏行く街の中で出会った二人は、少し若すぎたのかもしれない。
俺を育てた母なる街、歌舞伎町。
幾人もを狂わせてきた街が若い二人をまた狂わそうとしている。
そしてただ言える事は、俺の頬にはまだ唇の感触が残っている。
一人の既婚者は足早にお店を後にした。
残ったのは俺と夜のCEOとデブ専。
つまり30分延長。
キャバクラのビジネスモデルにがっちりはめられながら俺はボーイにこう叫んだ。
ロンティーもう一杯!
5杯目のロンティー。
※ロングアイランドアイスティー。
俺の天敵の岩下君と上野が、女の子と一緒にドンキに行って「電マ」を買わせたい時に飲ませると良いよ!って教えてくれた「電マ」が買える伝説のお酒。
それでも喜ぶ彼女の笑顔に俺は、
「付き合おうぜ」って言った。
続く。