高橋洋子『魂のルフラン』c/w「心よ原始に戻れ」レビュー。Underworld。歌詞。いつ。 | A Flood of Music

今日の一曲!高橋洋子「心よ原始に戻れ」

 本記事で紹介する「今日の一曲!」は、高橋洋子の「心よ原始に戻れ」(1997)です。『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』の主題歌として有名な『魂のルフラン』のc/wで、劇中でこそ使用されていないものの、同アニメ映画のイメージソングとなっています。

魂のルフラン魂のルフラン
5,400円
Amazon


 ※ 上に表示されている価格は定価以上です。8cmシングルの新品ゆえにプレミアが付いているのでしょう。短冊形ならではのジャケットワークに美があります。


 始めに断っておきますと、今回『エヴァ』の楽曲を取り立てる理由は作品について語りたいからではないので、そういったレビューを期待されている方にはおそらく物足りない内容です。勿論同作は円盤を持っているくらいには好きなアニメのひとつですし、高橋洋子さんも同作の関連ワークス以外にまでお気に入りがあるほどには好んでいる存在ですが、何方に対しても解説的な文章を認められる自信はありません。庵野秀明監督作品ならば『彼氏彼女の事情』のほうが、高橋洋子歌唱楽曲では「夜明け生まれ来る少女」(2005)や「蒼き炎」(2006)などゼロ年代中頃のナンバーのほうが、まだ詳しく語れると思います。

 出発点が作品でも歌手でもないのに「心よ~」をピックアップするのはなぜかと問われれば、同曲に関する「ある気付き」をシェアしたかったからです。当該事項を検索してみたところ、僕がネット上で確認出来た言及は、2006年の2ちゃんねるへの書き込みが1件と、2016年のTwitterへの投稿が1件のみでした。前者は疑問形での書き込み且つ対するレスなし、後者は謎としての投稿且つ反応はいいね1件と、殆ど話題に上っていないことが窺えます。斯く言う僕も、割と最近に下掲の『NEON GENESIS EVANGELION DECADE』(2005)を購入して、その過程で今更ながら知った体たらくですけどね。



 勿体を付けるのはここまでとし、本題に入ります。先述の気付きとは、「心よ~」の1番後間奏部冒頭(1:44~1:51)が、Underworldの「Pearl's Girl」(1996)からのサンプリングではないかというものです。一応断定は避ける書き方にしましたが、当ブログ内を漁ればわかる通りに、アンダーワールドをアホほど聴きまくっている僕の耳は、99.9%そうだと言っています。テンポは遅くなっているものの、あの渇いたドラムパターンとヘリコプターの音のようなベースラインは、原曲のタイムで表せば1:02~1:07のそれだろうと。




 WhoSampledで調べると、前出のドラムパターンにはLyn Collinsの「Think (About It)」(1972)が、ベースラインにはKariyaの「Let Me Love You (Rebuilt)」(1989)が、それぞれソースとしてリストされています。正確には後者も'Drums'と表記されているのですが、言いたいのはおそらくシンセベースのことだと思うので、便宜上そのように扱いました。しかし、僕が聴き比べてみた限り、何方もサンプリング元とするには根拠が弱いかなと感じます。確かに似ている部分はあるけれど、普遍的なパターンとサウンドの範疇に収まるものですし、偶々だという気がする。

 反対に「Pearl's~」を元ネタとするトラックには、Buscemiの「Noise's Leasing」(1998)が挙げられており、このくらいはっきりとわかるものが、サンプリングと見做されるのに適した例でしょう。「心よ~」も大胆なネタ遣いである点では同じなので、'Was sampled in'の項に書き加えられてもいいのではないかな。


 それにしても、結果的に何のタイアップも付いていないナンバー(=あくまでイメージソング)とはいえ、その可能性がある楽曲にメジャーなネタを放り込むのは、中々にチャレンジングですよね。まあダンスミュージックには文化としてサンプリングが深く根付いているため、引用されたことをとやかく言うアーティストは稀でしょうけど、少なくとも『DECADE』のクレジットにこの旨は記載されていません。というか、楽曲の詳細なクレジットが載っているのは、同作が初出となる「残酷な天使のテーゼ(10TH ANNIVERSARY VERSION)」「魂のルフラン(〃)」「天国の記憶」の3曲だけです。よって断定は出来ないものの、「心よ~」の編曲者は先の3曲も含めて多くの『エヴァ』楽曲を手掛けている大森俊之さんなので、氏のセンスなのだろうかと推測しておきます。

 タイアップとチャレンジ精神の立脚地から補足すると、「心よ~」は後にパチンコ『CRヱヴァンゲリヲン7』の主題歌として、アスカ(宮村優子)がボーカルを務める「心よ原始に戻れ ~2012Version~」(2012)としてリリースされているのですが、こちらでは当該のサンプリングパートはカットされているのです。大森さんによる編曲で全体的にアレンジが変わっているため、その点だけを取り立てるのもどうかと思うけれども、これはやはりリスクヘッジの結果かなと考えています。



 主に外部要素を掘り下げるレビューとなっているので、最後くらいは楽曲の中身に目を向けるとしましょう。僕が本曲で最も気に入っている点は、90年代感溢れるサウンドメイキングです。97年リリースの作品であるため当たり前と言えばそうですが、良い意味で厚過ぎない音の質感からは、もう少し遡って90年代前半の印象を受けます。現在の音楽を否定する意図はないけれども、派手な音作りや音圧のマジックによる誤魔化しが効かない…というかあまりそういう概念がなかった時代だからこその、堅実な打ち込みこそが魅力であると主張したいです。これだけではオケとして物足りなさを感じる方もいるかもしれませんが(特にリアルタイムで20世紀終盤の音に慣れ親しんでいない若年層は)、ストリングスの挿入でラグジュアリーな質感もきちんと付与されているからか、今聴いても総合的には古臭くない仕上がりだと思います。懐かしくはあるけれども。

 メロディ面では、全体的にキャッチーなラインが優勢な本曲に於いて、対比されるような旋律性を帯びたBメロ頭の翳り方が好みです。及川眠子さんによる歌詞と併せると、1番の"おやすみ すべてに一途すぎた迷い子たち"のパートが特に美麗で、『DECADE』クレジットの最後に据えられている「すべての子供達(チルドレン)に」という一文が、より一層胸に響いてくるフレーズだと絶賛します。高橋さんの包容力、もしくは抱擁力と言葉遊びをしたくなる母性の高い歌声も、殊更に本曲の根源的なテーマ性を昇華させており、表題曲に負けず劣らずの名曲だと評するほかありません。と言いつつ、「2012Ver.」のアスカの溌溂な歌い方も、それはそれで可愛くて好きなんですけどね。笑