今日の一曲!松来未祐、小林沙苗、大原さやか、吉田真弓、浅井清己「(LOVE)∞」 | A Flood of Music

今日の一曲!松来未祐、小林沙苗、大原さやか、吉田真弓、浅井清己「(LOVE)∞」

 「今日の一曲!」は、松来未祐、小林沙苗、大原さやか、吉田真弓、浅井清己による「(LOVE)∞」(2005)です(曲名の「∞」は正確には上付き文字)。TVアニメ『LOVE♥LOVE?』のOP曲で、同作は『変身3部作』を構成する一作品として知られています。


 …「知られています。」とは書いたものの、果たしてこのアニメのことを覚えている人がどれだけいるでしょうか。2004年の作品で、「A15(/R15)」と題された枠の中で放送されていました。

 この枠は「アニメコンプレックスNIGHT」の実質後継で、そちらには『鋼鉄天使くるみ』『花右京メイド隊』『りぜるまいん』とネームバリューのある作品が並んでいるのですが、新規アニメとしては他に『UG☆アルティメットガール』だけしかないA15は、いまいち知名度に欠ける印象です。枠名が象徴している通り、アニコン時代からあったお色気要素が更に強められているのが特色で、当時タイムリーに15歳で深夜アニメに興味を持ち始めていた頃の自分にとっては、作画や内容云々よりもアングラ感に惹かれて観ていた枠だと言えます。一般的にどう評価されていたかについては確たることは言えませんが、話題となるのはどうしてもエロ方面ばかりだったような記憶がありますね。



 しかし僕はこの枠に他の良さを見出していて、そのひとつは「音楽の素晴らしさ」です。前枠も含めてm.o.e.(ポニーキャニオンにかつて存在したレーベル)による製作で成り立っていたため、音楽にある程度のクオリティの高さがあるのは当然かもしれませんが、今回紹介するナンバーも込みで、『変身3部作』の主題歌はどれもお気に入りでした。

 ED曲は全て亜波根綾乃さんの楽曲で、いずれもキャッチーで聴き易くシンプルな良さがあります。とりわけ『ヒットをねらえ!』の「届けたい夢」は、ブラス風のアレンジが良い意味でチープで好みです。OP曲は作品毎に担当アーティスト名が異なりますが、注目は「ヒット~」の表題曲で、初期の能登麻美子さんの初々しい歌唱が堪能出来ます。また、『UG』のOP曲であるyozuca*の「WHITE HEAT」(2005)も良曲で、1番後にCメロが来たり2番サビ後にDメロが来てそのままクローズしたりと、攻めた楽想が好感触です。


 続いて主張する良さは厳密には枠に対してではなく『変身3部作』への言及ですが、現在から振り返ってみてもかなり挑戦的だと言える「斬新な見せ方」には特筆すべきものがあります。これを語ってからでないと楽曲レビューの内容が上手く伝わらないと考えているため、前置きが長くなりますがこのまま作品語りを続けさせてください。

 wikipediaの記述がわかりやすくまとまっているので、詳しくはそちらをご覧になっていただきたいのですが、同一のタイムライン上で起きていたイベントを三つの異なる視点から描き、それぞれの視点が一つのアニメとして独立しているというのが、『変身3部作』のユニークな見せ方です。ベースとなるのは特撮TV番組『超変身コス∞プレイヤー』で、これは言わば劇中劇(普通のシリーズ物)として放送されるもの;要するに劇中の視聴者視点の作品というわけですが、その内容は意図的に不自然なものとなっています。なぜこんなことになってしまったのか?を描いたのが『ヒットをねらえ!』および『LOVE♥LOVE?』で、前者は制作者のサイドから/後者は出演者と原作者のサイドから、それぞれ裏事情が開示されていくという流れです。

 普通であれば視点や場面の変更で描かれるような同時進行の流れを、敢えて分けて提示しているところに面白さがあります。パート(A/B)や数話の単位であれば他のアニメでもありうる演出ですし、映画や小説でも似たような手法は存在しますが、半年をかけてこれに挑んだことに意義があると思います。ただ、最初に放送された『超変身~』が劇中劇で、尚且つ敢えてロークオリティに描かれていたということは、『ヒット~』と『LOVE~』まで観続けることで理解出来る仕掛けになっていたので、『超変身~』だけで脱落してしまった方も多いのではないでしょうか。従って、本作の脚本・構成上の面白さを理解している人達のボリューム層は、実はお色気につられて観続けていた視聴者なのではないかと、奇妙な分析を披露したくなるくらいです。




 ざっと作品解説を済ませたところで、ここから「(LOVE)∞」のレビューに入ります。おさらいしますと、本曲は『LOVE♥LOVE?』のOP曲で、同作は出演者・原作者サイドのゴタゴタを描いた作品でした。

 出演者というのは劇中の特撮番組『超変身コス∞プレイヤー』に出演しているアイドル女優5名のことで、本曲の歌唱を務めているのもこの5人という設定になります。そして原作者というのは『超変身~』のという意味で、ネタバレになりますが彼女達が通う学園の男子生徒(『LOVE~』の主人公)こそがその人です。同じ学校に通う者同士としての関係性や、原作者と出演者のパワーバランス等が複雑に作用して、アイドル達による主人公の争奪戦が勃発する、ブラックな要素を背景に持ったラブコメとして話が転がっていきます。


 本曲の歌詞はこれらのドロドロにフォーカスされていて、具体的には「メインヒロイン1名 vs サブヒロイン4名」の構図で綴られていくのですが、この内容が実に面白いのです。

 メインでボーカルを務めている(主旋律を歌っている)のは松来未祐さんで、彼女が声を演じた八神菜摘というキャラは、劇中劇の『超変身~』では主人公である星野古都/ミコレイヤーに扮する人物で、且つ原作者が好意を寄せている相手でもあるため、何も無ければ勝ちが確定している余裕のヒロインです。

 だけあって、主旋律の歌詞だけを拾っていくと非常にぽわぽわとした内容になります。"あなたから 誘われたら/初めてで キスもありだよ"という大胆な宣言から幕を開け、サビでは"LOVE LOVEだから"と連呼し、結びも"私はあなたの/一番になる"と自信満々です。メロディラインのキュートさやポップなアレンジについても、菜摘のキャラクター像を意識した結果だと思っています(ブログテーマを「可愛い系」にしたのもこれによる)


 これだけでは単なるお花畑ソングになってしまいますが、それを華麗に阻止するのがサブヒロインズによる副旋律です。たとえば冒頭部の歌詞は、正確に引用すると次の通りになります。"あなたから 誘われたら(ありえない)/初めてで キスもありだよ(許さない)"。そう、このようにいちいちツッコミが入るのです。1番サビの歌詞も正しく続ければ、"LOVE LOVEだから(それはあなたの思い込み)/あげてもいい(彼は私のもの)/私のすべて(そんな中身もないくせに)/秘めた魅力(出しゃばらないで)"となります。

 今度は逆に副旋律の歌詞だけを取り立ててみますと、"(たいしたムネじゃないくせに)/(笑わせないで)"や、"(こりずにまだ言い張るのね)/(一人で泣けばいい)"など、メインヒロインへの口撃が立て板に水です。

 中でも上手いと思うのは、ここまでに示したようなツッコミ系ではなく、主旋律の歌詞を補足して捻じ曲げていくスタイルの歌詞で、たとえば"微笑むの あなたの前で(猫かぶり)/少しだけ 大人のふり(のつもり)"のように、文章を完結させてディスっていくものや、"いつでもどこにいても(あなたみたいにムカつく女は)/優しい気持ちを忘れられない(忘れられない)"のように、一見主旋律の復唱かと思いきや文脈が異なるものも存在し、いずれも遊び心に満ちていて面白く感じます。


 そんな中でサビのラストの歌詞、"私はあなたの(私が)/一番になる(一番になる)"だけは文脈まで含めた一致を見せるのですが、こちらは主語が異なり、対立している各人の想いが意中の相手への姿勢でのみ一致するという展開は、歌詞の結びとしてもメロディのクロージングとしても綺麗で感心しました。