イマココ | 月がきれい / 東山奈央
東山奈央の2ndシングル『イマココ/月がきれい』のレビュー・感想です。1stに続いて今作も両A面でのリリースになります。
イマココ/月がきれい (アニメ盤)/フライングドッグ

¥1,404
Amazon.co.jp
初回限定盤/通常盤とアニメ盤で収録曲目が異なりますが、この記事ではアニメ盤を取り扱います(c/wが「初恋」のディスク)。ということで全曲とも現在放送中のTVアニメ『月がきれい』に関係する作品ということになりますね。
彼女の単独作品を買うのは初ですが、ワルキューレ(『マクロスΔ』)の一員として参加したディスクと『魔法少女育成計画』のキャラソンアルバムは持っていて、それぞれレビューもしたので彼女の歌声をCDで聴くのは初ではありません。
レビューの前にアニメの内容にふれます。長い上に自分語りも含みますが、一応レビューに関係があるので許してください。『月がきれい』は中学生同士の恋愛モノ(現実寄り)なので僕にとっては当然懐かしく、細かい描写が妙にリアルだなと思って観ています。
例えば1話(正確には番宣の段階からですが)のドリンクバーのシーンは、「画的に凄く中学生だな」と、有無を言わさぬ説得力があると感じました。
また、時代を現代にあわせてコミュニケーションツールにはLINEが設定されているとはいえ、やりとりの内容自体は僕が中学生の頃にガラケーのキャリアメールで女子としていたものとあまり変わらないなと思えるので、こそばゆい気持ちになります。
「作っているのがおっさんだから共感できるんだろ」というツッコミ、禁止!笑 だかしかし、このアニメには意図的なおっさんホイホイが仕組まれているとも思うので、その指摘もおそらく正しい。
何が「ホイホイ」になっているかと言えば、カバー挿入歌です。厳密にはそのチョイス。後程詳しくふれますが、3話で使われた「初恋」は村下孝蔵のカバーで初出は1983年。有名曲なので僕でも知っていましたが、生まれる前の曲なので世代ではありません。しかしもっと上の世代には強く刺さるのではないでしょうか。
5話のCharaの「やさしい気持ち」(1997)と、6話のレミオロメンの「3月9日」(2004)は世代です。特に後者はドンピシャで中3の頃の曲。笑 前者のリリース時はまだ小学生ですが、これまた有名なので中学生の頃には知っている曲でした。
「3月9日」は今や卒業ソングの定番なので「世代」という枠を超えている気もしますが、そういう意味では7話で使われた「旅立ちの日に」(1991)も懐かしく感じる人も多いでしょうね。この2曲は今の現役世代にも余裕で通じるはず。
…と、ある程度年齢の高いアニメファンには懐かしさを、そして10代には新鮮さを提供することでファン層の拡大を狙おう…という意図があるかないかはともかく、アニメを彩るのに過去のヒット曲を使っているところはとても好みです。『あの花』のような成功例もありますしね。
ここまでの話を強引にまとめると、『月がきれい』は良い意味で時代を錯誤させるような演出をとっている作品だと思うんですよね。LINEを使ったコミュニケーションがある一方で「初恋」が流れるというセンス、嫌いじゃないです。
文学要素もこの作品から切り離せないと思いますが、それらも加味すると更に時代感覚がなくなっていくような感じがします。これも勿論良い意味で。
他にも中学時代に陸上部に入っていたことだとか、中1の時に初めて彼女が出来たこととか、ヒロインの名前が直近の元カノの名前と同じこととか、微妙に自分の経験とリンクする要素が鏤められているのが個人的には刺さる。
特に名前に関しては脱線するけど言いたいこと(やつあたりともいう)があります。前日にレビューしたアニソンは『恋愛暴君』のOP曲でしたが、この作品のメインヒロインも同じ名前だし、前期の『クズの本懐』のビッチ先生も同じ名前だしで、僕は2クール続けてどこかモヤモヤした気持ちを味わっています。笑
ありふれた名前とはいえ、なぜよりにもよって恋愛モノばかりでかぶるのか。これは自分の親や身内と同じ名前のキャラを素直に見られないのと同じ構造のどうしようもない問題ですね。だから僕はネーミングは西尾維新のような非現実的なセンスの方が好きです。笑
はい、最後の3パラグラフは完全に蛇足の自分語りですが、書いてスッキリしたかったのでお目溢しをば。ということで長い前置きはここまでです。レビュー中にぶち込むとごちゃごちゃしそうだったので先に処理しました。ではインスト除いた全3曲を見ていきましょう。
01. イマココ
『月がきれい』OP曲。まず最初に「作詞:川嶋あい」に驚きました。「川嶋あいってあの川嶋あい?」と思ったのですが、本当にそうでした。笑 I WiSH、「明日への扉」、『あいのり』等の懐かしいワードが次々と脳内に浮かんで、またもホイホイトラップにかかってしまった。だってこれも中学時代ドンピシャなんだもん。
でも調べたら川嶋さんって結構アニソンにも作詞/作曲提供していたんですね。前期の『風夏』だって観てたのにその時には気付かなかった…
アコギとピアノをバックに静かなAメロから幕開け。ボーカルは正直「堀江由衣さん?」と思ってしまいました。サジェストにも出てくるぐらいなので同じように感じている人は多いはず。全体的に若い頃の堀江さんのような歌声でまたも懐かしくさせられてしまう。どれだけ懐古させる気だ。笑
Aメロ1が終わると俄に曲が弾けます。この前奏の段階で早くも「バンド隊がめちゃくちゃ格好良い名曲だわ」という予感を覚えました。生バンドの音だけでも硬派で十分に素敵ですが、バックでBメロ終わりまで鳴り続ける電子音にやられた。これは作編曲者であるWEST GROUNDの手腕かな。
Aメロ2はその電子音と小刻みなベースによる疾走感が堪らないです。その上を自在なピアノが滑っていくのが美しすぎる。バスドラが入って自然な感じでBメロへと移行しますが、逸る気持ちを抑え切れないという熱情が犇々と伝わってくるような見事な旋律だと思います。
そしてサビ。メロディ自体の格好良さは今期随一だと思う。そこに楽器隊の惚れ惚れしちゃうような痺れるプレイが花を添えるもんだから名曲と言わざるを得ない。特にドラムとギターが素敵すぎる。歌詞通り"パレード"を彷彿させる鼓笛隊的譜面ではないでしょうか。
表現として「疾走感」という言葉をよく使うけれど、この曲が持つそれは並大抵のものではないなと思います。なんかもう、ずっと走りっぱなしという感じ。"恋"がテーマ…それも中学生のものとなると、表現としてこれは以上ないというぐらい納得のサウンドです。
2番はピアノの素敵さが更に増します。それこそ月の煌きにも水飛沫のようにも感じられて、音色(おんしょく)が豊かだなと思う。2番サビは、"知るほどに加速する恋のスピスピード"という一節がこの曲をまさに体現していて好きです。最後の"どうして?"だけが独立しているのも切なくていい。
Cメロもこれまた流麗で困る。歌詞と旋律の寄り添いがいちばん密になっているのはここではないかな。過去の風景や経験などの一切が、これからの"未来"において高密度で"僕ら"に置き換わっていくのが予感できるような…有り体に言えば「恋の予感」にフォーカスした鮮やかなパートだと思う。
ラスサビは1番と同じ歌詞ですが、改めて良い歌詞だと思います。小難しい言葉を使っているわけではないし、表現が斬新/独特かといったら決してそうではないと思うけれど、組み合わせ方が上手なのか心に響くものがある。アレンジの妙もナイスアシスト。
02. 月がきれい
『月がきれい』ED曲。アニメと同名の表題曲で、作詞は01.「イマココ」と同じく川嶋さん。作曲:WEST GROUNDも同じですが、編曲者には伊賀拓郎さんがクレジットされています。伊賀さんは収録3曲全てでピアノを担当されている方です。
6分近くあるバラードでなかなかの聴きごたえですが、旋律自体は割とポップだと思うので冗長な感じはしませんね。アレンジも01.と比べると当然大人しいですが、ストリングスによる装飾が豪華な印象を付与しています。
歌詞で好きなのは2番サビの"あの日二人で歩いた菓子屋横丁"です。ここだけ取り上げると演歌や歌謡曲のようですが、小江戸として有名な川越が舞台の作品なので具体的な場所を提示しているんですね。
こういうパーソナルな情報を含ませると曲の具体性がぐっと増すので、場所の名前を登場させるのは恋愛ソングの定石としては好物です。仮にこの曲が何のタイアップもなかったとして、歌詞の登場人物が23区の中学生なのか離島のなのか地方都市のなのかで全然印象が変わりますよね。笑
アニメのタイトルでもある『月がきれい』は、有名なのでほとんどの方がご存知だと思いますが、夏目漱石による"I Love you"の訳語だという逸話…というか都市伝説から来ているはずです。アニメでも「太宰治だっけ…夏目漱石だっけ…」と言及するシーン(3話)がありましたし。
この曲においては直接"月がきれい"という文章は出てきませんが(いちばん近いのは"あの月みたいにきれい")、"月明かり"を実際の風景と比喩(心象風景)が重なるように使ったり、"月"と"星"の関係を"二人"に上手く落とし込んだりと、"月"の使い方がなかなかに詩的です。
03. 初恋
いつまで公開されているかわかりませんが、なんと6.5話まで全て公式に丸々アップされていたので、「初恋」が使われている3話を埋め込んでみました。曲始まりは動画の15:09~です。というわけでc/wは『月がきれい』挿入歌。
冒頭でも少しふれましたがこれはカバーで、オリジナルは村下孝蔵の「初恋」(1983)です。有名なので世代ではない方でも聴いたことはあるんじゃないでしょうか。編曲を02.「月がきれい」と同じく伊賀さんが担当しています。
村下さん自身が歌っているものもアレンジ違いが多いようですし、多くの歌手にカバーされている曲なのでオリジナルの質感というものがわかりにくくなっていると思いますが、この東山奈央の「初恋」はとても物悲しい印象を受ける「初恋」です。哀愁というよりは哀感?辞書的には同義かもしれませんが、ニュアンスは異なると思う。
そう感じるのはテンポのせいというのもあるでしょうが、ストリングスの威力が強いからというのがいちばんの理由かな。弦の表現の豊かさは凄まじいと毎度思いますが、胸を締め付ける感じが堪りません。
そして改めて分かる原曲の良さ。全く隙の無い完璧なメロディだと思います。そこに高い文学性を誇る歌詞が加わるのだから、歌い継がれていくのもわかります。"浅い夢だから 胸をはなれない"に潜む機微よ。
映像的には"走る君がいた"と上手くリンクさせていますね。この曲をいかにもな心情のシーンで使わずに、画的には通常ミスマッチだと思えそうなところで使っているのは挑戦的で好感が持てます。
04.~06.は各曲のInstrumental ver.です。
以上、インストを除いて全3曲でした。各曲の魅力はそれぞれの項で存分に語ったので、これ以上特に付け加えることはありません。
楽曲以外のところでひとつ付け加えるなら、歌詞カードにあるスペシャルサンクスに家族や友人やリスナーのことを書く…まではまだよくありますが、「今まで出逢ったキャラクターたち。」とまで載せているのは声優ならではというか、真摯な人だなと思いました。
声優のソロCDを買うのは久々なのでそんなに珍しい記述ではないのかもしれませんが、感心してしまいました。
イマココ/月がきれい (アニメ盤)/フライングドッグ

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彼女の単独作品を買うのは初ですが、ワルキューレ(『マクロスΔ』)の一員として参加したディスクと『魔法少女育成計画』のキャラソンアルバムは持っていて、それぞれレビューもしたので彼女の歌声をCDで聴くのは初ではありません。
レビューの前にアニメの内容にふれます。長い上に自分語りも含みますが、一応レビューに関係があるので許してください。『月がきれい』は中学生同士の恋愛モノ(現実寄り)なので僕にとっては当然懐かしく、細かい描写が妙にリアルだなと思って観ています。
例えば1話(正確には番宣の段階からですが)のドリンクバーのシーンは、「画的に凄く中学生だな」と、有無を言わさぬ説得力があると感じました。
また、時代を現代にあわせてコミュニケーションツールにはLINEが設定されているとはいえ、やりとりの内容自体は僕が中学生の頃にガラケーのキャリアメールで女子としていたものとあまり変わらないなと思えるので、こそばゆい気持ちになります。
「作っているのがおっさんだから共感できるんだろ」というツッコミ、禁止!笑 だかしかし、このアニメには意図的なおっさんホイホイが仕組まれているとも思うので、その指摘もおそらく正しい。
何が「ホイホイ」になっているかと言えば、カバー挿入歌です。厳密にはそのチョイス。後程詳しくふれますが、3話で使われた「初恋」は村下孝蔵のカバーで初出は1983年。有名曲なので僕でも知っていましたが、生まれる前の曲なので世代ではありません。しかしもっと上の世代には強く刺さるのではないでしょうか。
5話のCharaの「やさしい気持ち」(1997)と、6話のレミオロメンの「3月9日」(2004)は世代です。特に後者はドンピシャで中3の頃の曲。笑 前者のリリース時はまだ小学生ですが、これまた有名なので中学生の頃には知っている曲でした。
「3月9日」は今や卒業ソングの定番なので「世代」という枠を超えている気もしますが、そういう意味では7話で使われた「旅立ちの日に」(1991)も懐かしく感じる人も多いでしょうね。この2曲は今の現役世代にも余裕で通じるはず。
…と、ある程度年齢の高いアニメファンには懐かしさを、そして10代には新鮮さを提供することでファン層の拡大を狙おう…という意図があるかないかはともかく、アニメを彩るのに過去のヒット曲を使っているところはとても好みです。『あの花』のような成功例もありますしね。
ここまでの話を強引にまとめると、『月がきれい』は良い意味で時代を錯誤させるような演出をとっている作品だと思うんですよね。LINEを使ったコミュニケーションがある一方で「初恋」が流れるというセンス、嫌いじゃないです。
文学要素もこの作品から切り離せないと思いますが、それらも加味すると更に時代感覚がなくなっていくような感じがします。これも勿論良い意味で。
他にも中学時代に陸上部に入っていたことだとか、中1の時に初めて彼女が出来たこととか、ヒロインの名前が直近の元カノの名前と同じこととか、微妙に自分の経験とリンクする要素が鏤められているのが個人的には刺さる。
特に名前に関しては脱線するけど言いたいこと(やつあたりともいう)があります。前日にレビューしたアニソンは『恋愛暴君』のOP曲でしたが、この作品のメインヒロインも同じ名前だし、前期の『クズの本懐』のビッチ先生も同じ名前だしで、僕は2クール続けてどこかモヤモヤした気持ちを味わっています。笑
ありふれた名前とはいえ、なぜよりにもよって恋愛モノばかりでかぶるのか。これは自分の親や身内と同じ名前のキャラを素直に見られないのと同じ構造のどうしようもない問題ですね。だから僕はネーミングは西尾維新のような非現実的なセンスの方が好きです。笑
はい、最後の3パラグラフは完全に蛇足の自分語りですが、書いてスッキリしたかったのでお目溢しをば。ということで長い前置きはここまでです。レビュー中にぶち込むとごちゃごちゃしそうだったので先に処理しました。ではインスト除いた全3曲を見ていきましょう。
01. イマココ
『月がきれい』OP曲。まず最初に「作詞:川嶋あい」に驚きました。「川嶋あいってあの川嶋あい?」と思ったのですが、本当にそうでした。笑 I WiSH、「明日への扉」、『あいのり』等の懐かしいワードが次々と脳内に浮かんで、またもホイホイトラップにかかってしまった。だってこれも中学時代ドンピシャなんだもん。
でも調べたら川嶋さんって結構アニソンにも作詞/作曲提供していたんですね。前期の『風夏』だって観てたのにその時には気付かなかった…
アコギとピアノをバックに静かなAメロから幕開け。ボーカルは正直「堀江由衣さん?」と思ってしまいました。サジェストにも出てくるぐらいなので同じように感じている人は多いはず。全体的に若い頃の堀江さんのような歌声でまたも懐かしくさせられてしまう。どれだけ懐古させる気だ。笑
Aメロ1が終わると俄に曲が弾けます。この前奏の段階で早くも「バンド隊がめちゃくちゃ格好良い名曲だわ」という予感を覚えました。生バンドの音だけでも硬派で十分に素敵ですが、バックでBメロ終わりまで鳴り続ける電子音にやられた。これは作編曲者であるWEST GROUNDの手腕かな。
Aメロ2はその電子音と小刻みなベースによる疾走感が堪らないです。その上を自在なピアノが滑っていくのが美しすぎる。バスドラが入って自然な感じでBメロへと移行しますが、逸る気持ちを抑え切れないという熱情が犇々と伝わってくるような見事な旋律だと思います。
そしてサビ。メロディ自体の格好良さは今期随一だと思う。そこに楽器隊の惚れ惚れしちゃうような痺れるプレイが花を添えるもんだから名曲と言わざるを得ない。特にドラムとギターが素敵すぎる。歌詞通り"パレード"を彷彿させる鼓笛隊的譜面ではないでしょうか。
表現として「疾走感」という言葉をよく使うけれど、この曲が持つそれは並大抵のものではないなと思います。なんかもう、ずっと走りっぱなしという感じ。"恋"がテーマ…それも中学生のものとなると、表現としてこれは以上ないというぐらい納得のサウンドです。
2番はピアノの素敵さが更に増します。それこそ月の煌きにも水飛沫のようにも感じられて、音色(おんしょく)が豊かだなと思う。2番サビは、"知るほどに加速する恋のスピスピード"という一節がこの曲をまさに体現していて好きです。最後の"どうして?"だけが独立しているのも切なくていい。
Cメロもこれまた流麗で困る。歌詞と旋律の寄り添いがいちばん密になっているのはここではないかな。過去の風景や経験などの一切が、これからの"未来"において高密度で"僕ら"に置き換わっていくのが予感できるような…有り体に言えば「恋の予感」にフォーカスした鮮やかなパートだと思う。
ラスサビは1番と同じ歌詞ですが、改めて良い歌詞だと思います。小難しい言葉を使っているわけではないし、表現が斬新/独特かといったら決してそうではないと思うけれど、組み合わせ方が上手なのか心に響くものがある。アレンジの妙もナイスアシスト。
02. 月がきれい
『月がきれい』ED曲。アニメと同名の表題曲で、作詞は01.「イマココ」と同じく川嶋さん。作曲:WEST GROUNDも同じですが、編曲者には伊賀拓郎さんがクレジットされています。伊賀さんは収録3曲全てでピアノを担当されている方です。
6分近くあるバラードでなかなかの聴きごたえですが、旋律自体は割とポップだと思うので冗長な感じはしませんね。アレンジも01.と比べると当然大人しいですが、ストリングスによる装飾が豪華な印象を付与しています。
歌詞で好きなのは2番サビの"あの日二人で歩いた菓子屋横丁"です。ここだけ取り上げると演歌や歌謡曲のようですが、小江戸として有名な川越が舞台の作品なので具体的な場所を提示しているんですね。
こういうパーソナルな情報を含ませると曲の具体性がぐっと増すので、場所の名前を登場させるのは恋愛ソングの定石としては好物です。仮にこの曲が何のタイアップもなかったとして、歌詞の登場人物が23区の中学生なのか離島のなのか地方都市のなのかで全然印象が変わりますよね。笑
アニメのタイトルでもある『月がきれい』は、有名なのでほとんどの方がご存知だと思いますが、夏目漱石による"I Love you"の訳語だという逸話…というか都市伝説から来ているはずです。アニメでも「太宰治だっけ…夏目漱石だっけ…」と言及するシーン(3話)がありましたし。
この曲においては直接"月がきれい"という文章は出てきませんが(いちばん近いのは"あの月みたいにきれい")、"月明かり"を実際の風景と比喩(心象風景)が重なるように使ったり、"月"と"星"の関係を"二人"に上手く落とし込んだりと、"月"の使い方がなかなかに詩的です。
03. 初恋
いつまで公開されているかわかりませんが、なんと6.5話まで全て公式に丸々アップされていたので、「初恋」が使われている3話を埋め込んでみました。曲始まりは動画の15:09~です。というわけでc/wは『月がきれい』挿入歌。
冒頭でも少しふれましたがこれはカバーで、オリジナルは村下孝蔵の「初恋」(1983)です。有名なので世代ではない方でも聴いたことはあるんじゃないでしょうか。編曲を02.「月がきれい」と同じく伊賀さんが担当しています。
村下さん自身が歌っているものもアレンジ違いが多いようですし、多くの歌手にカバーされている曲なのでオリジナルの質感というものがわかりにくくなっていると思いますが、この東山奈央の「初恋」はとても物悲しい印象を受ける「初恋」です。哀愁というよりは哀感?辞書的には同義かもしれませんが、ニュアンスは異なると思う。
そう感じるのはテンポのせいというのもあるでしょうが、ストリングスの威力が強いからというのがいちばんの理由かな。弦の表現の豊かさは凄まじいと毎度思いますが、胸を締め付ける感じが堪りません。
そして改めて分かる原曲の良さ。全く隙の無い完璧なメロディだと思います。そこに高い文学性を誇る歌詞が加わるのだから、歌い継がれていくのもわかります。"浅い夢だから 胸をはなれない"に潜む機微よ。
映像的には"走る君がいた"と上手くリンクさせていますね。この曲をいかにもな心情のシーンで使わずに、画的には通常ミスマッチだと思えそうなところで使っているのは挑戦的で好感が持てます。
04.~06.は各曲のInstrumental ver.です。
以上、インストを除いて全3曲でした。各曲の魅力はそれぞれの項で存分に語ったので、これ以上特に付け加えることはありません。
楽曲以外のところでひとつ付け加えるなら、歌詞カードにあるスペシャルサンクスに家族や友人やリスナーのことを書く…まではまだよくありますが、「今まで出逢ったキャラクターたち。」とまで載せているのは声優ならではというか、真摯な人だなと思いました。
声優のソロCDを買うのは久々なのでそんなに珍しい記述ではないのかもしれませんが、感心してしまいました。