光源 / Base Ball Bear | A Flood of Music

光源 / Base Ball Bear

 Base Ball Bearの7thアルバム『光源』のレビュー・感想です。3人体制になってから初のオリジナル作品となります。

光源(通常盤)/ユニバーサル ミュージック

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 当ブログにおけるベボベの記事は12thシングル『yoakemae』(2011)のものが最後で、その後長い更新停止期間に入ってしまったので4th~6thについてはすっ飛ばすことになってしまいますが、その間にベボベのことは更に好きになっていました。

 特に4th『新呼吸』(2011)は名盤だと思いますし、今でもお気に入りです。ですが…「3人体制」。そう、ブログをお休みしている間にベボベには大変なことが起きちゃいましたね。


 バンドからメンバーがいなくなることは別に珍しくはないし理由も様々です。中でもいちばんやりきれないのは死別でしょうけど、Gt.湯浅将平の脱退の仕方はそれに次ぐほど最悪の部類であると思います。

 これは本人に対する批判ではなく、バンド(残されたメンバー)/スタッフを含む関係者/ファンそれぞれにとって「最悪」であろうという意味です。本人にとってどうなのかは知る由もありませんが、せめてそれだけは「最善」であってほしいですね。

 もはや今更の話題なので詳細(というかそれすらよくわからないし)には書きませんが、僕の中で湯浅さんのギターはベボベを聴く理由のひとつに間違いなかったので、どんな形であろうと脱退がショックだったのには変わりないでしょう。


 とはいえベボベの魅力はそれだけではないので、3人になっても新譜は普通に買うだろうなという思いの通り、本作も迷うことなく発売日に入手しました。

 帯の説明を一部引用すると「<青春>の正体に触れる、"2周目"の世界」だそうです。この紹介文は当然作品に対してだと思いますが、メタ的にも今作からベボベの新たな始まりなので、"2周目"という表現はとてもしっくりきました。5thと6thもタイトル的には"2周目"っぽかったけどね。


 前置きが長くなりましたが、ここから本作のレビューに入ります。一応扱いとしてはフルアルバムだと思いますが、全8曲なので過去作と比べると凝縮されている感じ?…ということでシングル曲なしの全8曲、見ていきましょう。


01. すべては君のせいで



 MVもある本作のリードトラック。だけあってかなりキャッチー。1曲目から心にガツンと響いてとても気に入りました。「あぁ、ベボベだ」と思えて安心はしたけど少し寂しい気もした、そんなナンバー。

 タイトルだけ見たときはもしかしたら相手を詰るような意味合いの「すべては君のせいで」かもと疑ってしまいましたが、そんなことはなくラヴゆえの「すべては君のせいで」でした。笑


 "僕"の冴えなさ加減はAメロで描写されている通り。しかしBメロで"君"が登場し、世界に"光"が射したのがわかります。"うつむいた僕の名前を呼ぶから/生きてる気がした"は鮮やかに切り取ったフレーズだと思う。

 サビはもう舞い上がっちゃってますね。"毎日が眩しくて困ります"は文字通りでしょう。乱反射する白い光と桃色の淡く優しい光が同時に見えるよう。アルバムタイトルの『光源』がそのまま"君"であるというわかりやすさで表題曲的ですね。


 Cメロは怪我の功名的なラッキーを描写しているのかな。"落とした定期"→"自転車通学"が通時的に並べられていて且つ"定期"は失くなったものとした場合の話ね。通学方法/経路を変えたら新たな交友関係が!って経験あるなぁと。

 でも"通学"で"橋の向こうから"なのが気になる。なんとなく勝手に"君"を同じ学校の娘と想定してしまっていたけど、もしかして通学路でしか見かけないあの娘に恋してるパターンかなこれ。なんで"名前"知ってるんだと思ったけど"定期"には書いてあるしね。


 アレンジで地味に好きなのがラスサビで電子音が入ってくるところ。いや、よく聴くと実は1・2番のサビ裏でも鳴っているのはわかるのですが、はっきりと前面に出てくるのはラスサビ(の落ちサビ部分)だからという意味の便宜的な表現です。

 疾走感と多幸感が加わって、サビの甘酸っぱいメロディがより一層キュンとくるようなシークエンスだと思います。ラスサビは関根嬢のベースも特に格好良くて痺れる。もちろんラストの唸るギターソロも、(どうしても色々考えてしまいますが)素晴らしいです。


02. 逆バタフライ・エフェクト

 イントロからリズム隊が素敵すぎて困る。ということもあって初聴時は演奏ばかりに耳がいってしまい、サビがなんか地味だなと思っていたんですが、何回も聴いているうちに味のあるメロディだなと思えて好きになってきました。

 歌詞には"パラレルワールド"に"並行世界"に"if"と、"2周目"を飛び越えて"n周目"でも想定できそうな言葉が登場しますが、内容をよく見ていくとこの世はフィクションではないということをきちんと理解した上で使われているとわかりますね。


 陳腐な言葉で表現すれば「無駄なことなんてない」でも根源は同じだと思いますが、どんな"選択肢"であれ選ばなかったほうの世界の存在は体験しようがないので、ノンフィクションに生きる僕らは"決められたパラレルワールド"に生きるしかありませんよね。

 それを踏まえた上で選ぶのはすべて"自分"である以上、"自分こそだよ 運命の正体は"はまさにその通りでしょう。タイトルの「逆バタフライ・エフェクト」もこの発想から出た表現だと思います。

 地球の裏側の蝶の羽搏きなどという不確定なものに翻弄されたわけではなく、すべて"自分"が起こした行動の結果によって世界が成り立っているのだという意味ならば、上手いタイトルですね。


 フィクションではタイムリープとの合わせ技で最悪の結果を変える系の作品が玉石混淆状態ですが、"玉虫色 継ぎ足しの未来を生きききるよ"はそんな都合のいい空想に対するアンチテーゼのように聞こえる表現で好きです。


03. Low way

 タイトルの"low"は色んな意味合いを持っていると思います。歌詞にはいきなり逆の"ハイウェイ"が登場しますが、"見上げる"に続いて出てくる通り位置的な"low"が一つ。加えて、主人公である"僕"の疲れ具合を考慮すると、気力が弱いという意味の"low"でもあるでしょう。

 そして曲自体のテーマであろう"ゆっくり"。これはローギアに見られるような"low"で速度的なもの、つまり"slow"に近いと思います。しかしご存知の通りローギアは速度こそ遅いもののパワーは出るので、そのメリットを歌った曲…スローライフならぬローライフ推奨楽曲であると解釈しました。


 そんな優しい世界観の歌詞に寄り添うようにメロディもアレンジも優しいです。テンポもスロー。ブラスセクションも加わってラグジュアリーな印象は受けるものの、決して下品ではなくちょうどいいバランスなのがいい仕事。

 この曲にもダイレクトに『光源』が出てきます。"コンビニ"の明かりのことですが、それを"トンネルの出口色の"と独特な表現で情感を与えているのは流石の小出節だなと感心です。


04. (LIKE A)TRANSFER GIRL

 タイトルでいちばん気になっていた曲。「Transfer Girl」(2010)はベボベの曲の中でも一、二を争うほど好きな曲なので、いったいどういう立ち位置の曲なんだと期待していました。"2周目"感あふれるタイトルですよね。

 もしかしたら前にもどこかで書いたかもしれませんが、続編にあたる「転校生」(2011)や過去曲の「LOVE LETTER FROM HEART BEAT」(2009)など、好きな娘が遠くへ行っちゃう系の曲がベボベの中でかなり好きな傾向にあります。笑


 さて、この「(LIKE A)TRANSFER GIRL」ですが、"LIKE A"と付いているだけあって過去の転校系楽曲とは一線を画していますね。何が違うって年齢。酒が入っているだと…!"部活の帰り道"や"日曜宿題会"などの学生ワードは記憶として出てくる始末。

 アレンジもお洒落でムーディーになっちゃって一夜限り感醸されまくり。しかしワンチャン的な下種の勘繰りをしちゃう感じではなく、あくまでもプラトニックな印象なのがベボベだわって感じがします。

サビの歌詞、"咲かせた言わぬ花をまだ枯らせたくないんだ 僕は"ってフレーズは天才かと思いました。こういう慣用句分解系の表現に弱いです。プラトニックとはいえある程度はあるであろう下心、それをこうも詩的に表現されたらロマンチストなら落ちるわ。笑


 間奏のギターソロは少し「初恋」(2012)のソロを思わせるようなメランコリックさがあって非常に好みです(湯浅さんが弾いている姿が浮かぶようで複雑な心境だけども)。というかこのソロから曲終わりまでの展開自体が完璧。"粉雪が"の後のギターの切なさといったらないね。


05. 寛解

 普段から残酷な言葉だよなと思っている「寛解」。特に精神疾患において使われる場合に。言葉自体は単に状態を表しているだけだからポジティブもネガティブもないけれど、本人や周囲にとっては、「寛解」と言われて喜んでいいものか悩むであろうことが想像できるから。

 そんなタイトルのこの曲は、歌詞の内容もサウンドもまさに「寛解」の状態を表現しているというか…とても穏やか、しかし逃避的な含みを持たせているような感じが「完治」ではないなという印象。


 波の音から始まるあたり既にヒーリング効果が高そうですが、とにかく全編通してやわらかな質感で癒されます。構成としてはAメロ×2→サビ→間奏→Aメロで終わりなのでとてもシンプルですが、4分半近くはある曲なので存在感は決して薄くありません。正しく箸休め的な曲だと思います。

 ベボベの曲っぽくないというか新機軸ですよね。表現が正しいかはともかく、こういうAOR寄りの曲でもいけるというのは発見でした。小出さんの声質の良さを改めて認識させられたというのもありますが、混声の良さが存分に活かされている曲でもありますね。


06. SHINE

 本作でいちばん毛色の異なる曲ですね。バンドが初心を忘れていないということが十分にわかる、ポップでエネルギッシュな直球ロックナンバー。ちょっとライブ録音っぽい粗さがあるというか、一発録り的な勢いがあると思う。

 タイトルから単純に判断するとこの曲もかなり表題曲的だと思います。まあ他の曲にも『光源』は出てきているので全曲表題曲というコンセプチュアルな表現をしたくなるのですが、その中でもとりわけという意味で。


 この曲における『光源』は"強すぎる光"という形で出てきますが、これは自分を突き動かしているものの象徴であると解釈しました。"クラスメイト"から"同僚"へとシフトしていることからもわかるように、長期間自分の根底にあったもののことではないかと。

 "君"というのももしかしたら"光"の擬人化では?と思いました。サビの"プールの白波で編んだスカートの/君がゆらゆら 時と踊る"という一節、"君"を人間として捉えれば色香に迷ってしまうような表現で素晴らしいと思う一方、水面に射す光そのものの描写のようにも思えたので。

 01.「すべては君のせいで」に見られたように、"君"が"光"であるという側面もあると思うので、この深読みに実質的な意味はないかもしれませんが、いずれにせよこの"君"は実体を持たない理想像のようなものではないかと思いました。実在の誰かがいたとしても、そこから飛び出た存在であるということです。


 メロディだけでいえばこの曲がいちばん好きかもしれません。特にサビ、それこそ"プールの白波で編んだスカートの"の部分がとても好み。相変わらずのポップセンスで安心する。あ、安心といえばお馴染みの"檸檬"が出てきたことにも。笑


07. リアリティーズ

 共感を得られるかわかりませんが、イントロのエンディング感が凄い。アルバムのラストの曲っぽいと換言してもよし。少なくとも前半には出てこられない曲だと思うので、いい位置取りと言わざるを得ない。

 閉じた"部屋"から出るように促す内容の歌詞とあわさって、"窓"から沈みゆく夕陽を見ているかのような寂寥感のあるサウンドが涙を誘います。"地べた"から"椅子"へと座る場所のモチーフが変遷していく様も鮮やかで素敵。

 この歌において"部屋"は孤独の檻のような使われ方をしていますが、同じ境遇にいる人間は他にもいるということが"僕らは"によって示されているのが救いですね。彼らが互いに出会うための歌であり、だからこそ"自分になりたいなら 出かけることさ"なんだと思います。


08. Darling

 ラストを飾るのはこれまた"君"と"光"が同一視されていると感じる、眩しいナンバー。メロディはキャッチーで聴きやすいですし、アレンジにもバンドらしいフレッシュさが満ちていると感じます。特にアウトロの海原に漕ぎ出すようなイメージが浮かぶドラムと、ファンキーなギターが格好良い。


 01.「すべては君のせいで」と同じくこの曲にも"君のせいで"という一節が出てきますし、"橋向こう"も登場します。同一のものではないかもしれませんが、01.に登場した"光のリボン"が"琥珀色のリボン"とやや具体的になっているのも特徴。

 "強い光 時の女神"というフレーズは06.「SHINE」を連想させますし、"光"擬人化説もあながち間違っていないかもと思えました。"マテリアルな僕"に対する存在とするならば、スピリチュアルな存在ですから。

 2番の歌詞が1番と同じ(且つわざわざ記載されていない)なのは"2周目"の演出かなとも思っていますが、とにかく"幾億秒が過ぎた"後の世界の話なのは間違いなく、ここまでの01.~07.を経て更に現在の歌であると思います。それでも"一秒で"過去の青春とリンクできるところが循環的。


 本作で唯一歌詞カードにタイポグラフィ的な遊び心が見え、V字型に記載されているのも気になるところですが、いちばんセンスがいいなと思ったのは"潦"という古語を登場させているところです。

 恥ずかしながら読みも意味も知らなかったのですが、"にわたずみ"と読み、雨降りの後に溜まって流れる水のことだそうです。"川"や"ながる"にかかる枕詞でもあるそうですが、"行方しらぬ"にもかかるということを知って意味深だなと思いました。

 "風を截った"という漢字のあて方もそうですが、文学的な表現が顔を覗かせるところもこの曲の魅力ですね。今まで小出オリジナルの造語も文学的だなと思っていましたが、古語との相性も悪くないのが素晴らしい。




 以上、全8曲でした。確かにこのアルバムは『光源』ですね。06.「SHINE」のところで「全曲表題曲というコンセプチュアルな表現をしたくなる」と書きましたが、まさにその通りだと思いました。

 アルバム全体に見られる流れ(ストーリー)、ひいてはこのアルバムの"2周目"としての位置付けに関しては、各曲のレビューにおいて断片的にですがふれているので改めてここでまとめることはしませんが、過去曲の歌詞と比較をしていけば更に深く読み解けるのではないかと思います。


 メンバーを一人欠いたことがサウンドにどう影響するかという点も聴きどころでしたが、3人になってもベボベには変わりないなという感想です。当たり前かもしれませんが、曲を書いている人が欠けない限りエッセンスは残りますね。

 大人っぽいサウンドが目立つようになってきたことに関してはキャリア積み重ねによるものだと思うので、仮に4人揃っていたとしてもこういう方向性の作品は出ていたのではないかなと思います。アルバムを出すたびに順調に大人になっている気がしますし。


 特に気に入った上位3曲は、06.「SHINE」、01.「すべては君のせいで」、04.「(LIKE A」TRANSFER GIRL」。次点で02.「逆バタフライ・エフェクト」です。特に04.はいちばん"2周目"っぽいというかパラレルワールドっぽく感じてゾクゾクしました。