Welcome to Sideways / SIMIAN MOBILE DISCO +α
SIMIAN MOBILE DISCO(以降SMDと表記)の5thアルバム『Welcome to Sideways』およびアルバム未収録曲のレビュー・感想です。大体2年置きにアルバムをリリースしているSMDですが、今回も前作『Whorl』(2014)から約2年で届けられました。ちなみに僕のSMD愛についてはこの記事にまとめてあるのでよろしければあわせてどうぞ。
Welcome To Sideways/Delicacies

¥価格不明
Amazon.co.jp
どうやらフィジカルリリースはLP盤だけのようなのでiTunesの配信で購入。本作はオリジナルアルバムとしてカウントするみたいですが、コンピレーションアルバム『DELICACIES』(2010)の流れを汲んだ作品(レーベルもDelicacies)です。従って収録曲はテクノベースの長尺トラックばかりとなっています。
DELICACIESシリーズ(以降Dシリーズと表記)は曲名を世界各地の珍味から拝借するのが恒例で、2014年まで数々の珍味名トラックが生み出され続けていました。しかし珍味はもうネタ切れのようで、2016年からは別の方法でネーミングが行われています。
『deejay.de』には「semi-random automated process」という記載があったので、自動生成された文章を手直ししたといった感じでしょうか。本作はこの方法に基づいた言わば新Dシリーズを収録したアルバムというわけですね。というわけでここから『Welcome to Sideways』のレビューに入ります。
01. Happning Distractions
1曲目から気が滅入りそうなダークな曲です。これが"sideways"の入口いうことか。"distraction"は"気を散らされること/散らすもの"を意味し、転じて"気晴らし/娯楽"というポジティブな訳もありますが、"放心状態"や"精神錯乱"等どちらかといえばネガティブなワードだと思います。
サウンドもまさにそんな感じで、単純なリピートを軸に歪んだ金属音が響き渡るという構成は頭痛や耳鳴りに思考の邪魔をされているかのようです。それらが徐々に増大していくので不安を煽ります。
この耳を劈く金属音はDシリーズらしいなと思うし、バックで鳴っている切なげなシンセからは『Whorl』らしさを感じる。作品毎にイメージは変えつつも経験はきっちり反映してくるところが流石ですね。
02. Far Away from a Distance
先行でリリースされていた曲の中ではいちばん好みでした。これもどちらかといえば暗い曲ですが、疾走感があってダンスミュージックらしさがあります。
ザラザラとしたシンセが空間を埋めていくのが心地好く、微妙に揺らいでいるのもビートの盛り上げに一役買っていると思えるところが巧いですね。キックが消える3:00~はより一層主張が激しくなり、スキーで雪原を滑走していくようなイメージが浮かびます。再びキックが戻ってきてからが非常に格好良いです。
03. Bubble Has No Answers
確かに"bubble"を感じる音で構成されていると思います(コポコポという擬音語が似合うような)。ただ綺麗な水の…というよりは沼気といった具合のダーティなサウンド。
変化をつけているのはわかりますがこのアルバムの中では比較的控え目だと思うので、よりテクノ寄りな印象です。従来のDシリーズにあってもおかしくないような気がします。珍味シリーズにキビヤックをテーマにした曲がなかったのでこういうサウンドで作ってほしかったな。笑
04. Staring At All This Handle
SMDのMVの中で「Your Love Ain't Fair」に次いで二番目に好きな映像です。狂気と可笑しさが同時に漂っているところがPSゲームの『LSD』(1998)のようで堪らない。ジャケットもこのMVのワンシーンで、先行リリースもされている曲なのでリードトラックでしょうかね。
鼾あるいは動物の唸り声のようなコミカルな音の応酬と共にビートがじわじわと積み重ねられていきます。メインフレーズが微かに聴こえ始めたと思ったら割とすぐにその存在が大きくなり、曲の方向性が一気に定まったなという気になります。
MVにも捩れたものがたくさん登場しカメラワークもグルグル回っていますが、確かにこのメインフレーズからは回転を感じます(螺旋を描いて墜落していくような印象)。フィルターの使い方が見事なのだと思いますが、毎回微妙に変化するので単純なのに飽きないというSMDらしさ全開で素敵です。
05. Face to Face with Spoon
少し3rd『UNPATTERNS』(2012)らしさがあると思ったからかもしれませんが、結構お気に入りです。また、1:59~登場する綺麗で幻想的な音がこの曲を特徴付けていますが、それがどこか日本の祭囃子を思わせるからというのもあるかも。
実際はベル系の音だと思うんですが、音が重なってくると笛の音っぽく聴こえるところがあって、その瞬間に日本を感じました。急に逸れますが、蝶が舞っている映像も同時に浮かびます。
この印象的な音を除いても十分に格好良いトラックで、実際2分近くまでこの音は出てこないので、序盤で繰り返されるフレーズをいじっていくんだろうなと思っていただけに意表を突かれました。
06. Space Is Filled with Ringing
いちばん好きな曲かもしれません。タイトルを受け、確かにベルっぽい音は鳴っているし盛り上がりをみせる箇所もあったけど、言うほどか?と思っていました。しかし4分を過ぎたあたりでおっ?と思い始め、キックが消えた4:15~はまさに「Space Is Filled with Ringing」で、言うほどだわと思いました。笑
少し前にテレビ朝日の『はくがぁる』(2016)を観て知ったのですが、シンギングボウルという仏具(楽器)の音を思い出しました。一度鳴らしてから桴?で縁をこすると音がどんどん増幅され、テレビ越しでも頭の中をシェイクされたような感覚になったのですが、それに近いものがありました。
というわけで瞑想用として非常に重宝しそうな曲です。決して静かな曲ではないけれど、没入感は味わえるのでは。あとは、全体的に同じDシリーズの「Balut」に似ている気がしたのでミックスしたら面白そう。
07. Remember In Reverse
先行リリースのうちの一曲で、アルバム中最もダンサブルなのでフロア向けだと思います。タイトルからの連想もあるでしょうが、何かが高速で巻き戻っていく映像が浮かぶ。
始まりこそ静かですが、徐々に音が厚くなって音数も増えて賑やかに。3:26~聴こえ始めるドラム?が入ってからはトライバルな趣が強くなり恍惚へと誘われます。6:41~のブザーみたいな音が鳴り始める瞬間がいちばん好き。
08. Flying or Falling
wikipediaをみる限り『Far Away from a Distance』(2016)に収録されているみたいですが、自分がiTunesで買ったやつには入っていませんでした。日本のストアにはないか、他サイトにはあったのでしょうか。
この曲はそのまま『Whorl』に入っていても違和感ないなと思いました。物悲しいパッドが空間を支配している感じは4thにも見られたなと。印象としては地味な曲ですが、中盤のクラップが暴れ出すところが格好良いです。
09. Drone Follows Me Everywhere
この曲が事実上のラストです。今やドローンといえばマルチコプタータイプの無人機が浮かぶ時代ですが、元々"drone"は"雄蜂"を指す言葉らしく、"ブンブンいう音(蜂の羽音)"や"単調な低音"という意味もあるそう(音楽用語としても扱われ"持続低音"というらしい)。
いずれにせよ鬱陶しいことこの上なくノイローゼになりそうなタイトルですが、これがサウンドにも反映されています。
イントロから鳴っている不穏な持続音が段々と大きくなり、何かがこちらに近づいてきているという緊張感が漂う序盤。曲が進むにつれ微かに羽音のような不快な音が混ざり始めていることに気付く。羽音は段々と大きくなってメロディのようなものを成し始め、愈々姿を現したかといった感じに。
中盤からは曲全体に金属的な質感が加わり、ここまでくるとドローン(無人機)が編隊飛行を見せている映像が浮かぶ。終盤には静かなパートが登場するので危機は去ったかと思いきや、金属的な音だけが再び接近してくるという意味深な展開となって終了。
10曲目は言わばDISC 2なので後ほど書くとして、本編は以上の9曲です。やはりDシリーズだけあって全曲ともテクノ要素が強いなと思いました。わかりやすい変化を示すのではなく徐々に微妙に変化させるという手法がとられているので、ふと気付くと大きく変わっているという発見の喜びを存分に味わうことができます。
冒頭でリンクした記事の中で『DELIACIES』はシンプル過ぎると思うと書きましたが、今作はもう少し複雑になっているという印象を持ったので、同じテクノベースのアルバムでもSMDの確かな進化を感じました。
音遣いに関しては『Whorl』の影響もあると思います。01.「Happning Distractions」や08.「Flying or Falling」なんかはわかりやすいですが、憂いを帯びた音作りが印象的です。
元々3rd以降は明るい曲が多くないのですが、今作は特に暗いですね。強いていえばMVを埋め込んだ04.「Staring At All This Handle」と07.「Remember In Reverse」には陽性を感じなくもないですが、その他の曲は病的あるいは幻覚的といいますかダウナーな雰囲気です。
特に01.「Happning Distractions」で始まり09.「Drone Follows Me Everywhere」で終わるという構成からは、幻覚や幻聴が現実のものとなって襲いかかってくるといったストーリーが浮かびました。その「現実のもの」というのも妄想に過ぎないといった具合。
長くなるので曲名の頭文字だけをとって書きますが、先行リリースの02.「FAfaD」, 04.「SAATH」, 08.「RIR」はどれも好きですね。アルバム初出曲だと、06.「SIFwR」, 09.「DFME」, 05.「FtFwS」が個人的ヒットトップ3です。
10. Welcome to Sideways (A Delicacies Mix)
『DELICACIES』のDISC 2(mixed)に相当するもので、新Dシリーズの楽曲がノンストップでミックスされた52:23もあるトラックです。音源が公式にアップされているので埋め込みました。
曲の順番は入れ替えられているうえにアルバム未収録曲もミックスされているので、このアルバムしか聴いていない場合、知らない曲も出てくると思います。
というわけで、先行リリースされた曲のうちアルバムに入らなかった3曲を紹介して記事を終えます。未収録曲についてはバージョン違いやリミックスを含めるともう少しあるんですが、ここでは割愛。加えて、コンピレーションアルバム収録の「Ballon Takes A Holiday」という曲もあるようですが、それはまだ聴けていないのでここで名前だけ出しておきます。
Sky On the Floor
主にパッドのせいだと思いますが、Underworldの「Peach Tree」を彷彿とさせます。夜に巨大な飛行体が雲の中を突き進んでいるようなイメージが浮かぶ。そのイメージでいうのも何ですが、全体的には明るめのサウンドという印象です(特に終盤)。アルバムが暗かっただけに余計にそう思うのかもしれません。
Soft Attack
シンプルですがノリが良くて好きな曲です。トライバルなビートに乗せて少しチープな音でメインフレーズが繰り返されるというのが軸ですが、中盤に綺麗な音が前面に出てくるパートがあるのでそこが"Soft"なんだと思っています。メインフレーズは終盤でキラキラした音に変わりメロディらしさが消えますがそこも地味に好きです。
Laughing in the Face of Block
Dシリーズにしてはシンプルさを売りにしていない珍しい曲だと思います。5:13というのもシリーズ最短。シンセもビートを担っているというか、低い音でこまごまと暴れ回るので耳が忙しいです。その点でいえばDシリーズでは「Hachinoko」に近いかも。聴けば聴くほど味が出るタイプですね。
Welcome To Sideways/Delicacies

¥価格不明
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どうやらフィジカルリリースはLP盤だけのようなのでiTunesの配信で購入。本作はオリジナルアルバムとしてカウントするみたいですが、コンピレーションアルバム『DELICACIES』(2010)の流れを汲んだ作品(レーベルもDelicacies)です。従って収録曲はテクノベースの長尺トラックばかりとなっています。
DELICACIESシリーズ(以降Dシリーズと表記)は曲名を世界各地の珍味から拝借するのが恒例で、2014年まで数々の珍味名トラックが生み出され続けていました。しかし珍味はもうネタ切れのようで、2016年からは別の方法でネーミングが行われています。
『deejay.de』には「semi-random automated process」という記載があったので、自動生成された文章を手直ししたといった感じでしょうか。本作はこの方法に基づいた言わば新Dシリーズを収録したアルバムというわけですね。というわけでここから『Welcome to Sideways』のレビューに入ります。
01. Happning Distractions
1曲目から気が滅入りそうなダークな曲です。これが"sideways"の入口いうことか。"distraction"は"気を散らされること/散らすもの"を意味し、転じて"気晴らし/娯楽"というポジティブな訳もありますが、"放心状態"や"精神錯乱"等どちらかといえばネガティブなワードだと思います。
サウンドもまさにそんな感じで、単純なリピートを軸に歪んだ金属音が響き渡るという構成は頭痛や耳鳴りに思考の邪魔をされているかのようです。それらが徐々に増大していくので不安を煽ります。
この耳を劈く金属音はDシリーズらしいなと思うし、バックで鳴っている切なげなシンセからは『Whorl』らしさを感じる。作品毎にイメージは変えつつも経験はきっちり反映してくるところが流石ですね。
02. Far Away from a Distance
先行でリリースされていた曲の中ではいちばん好みでした。これもどちらかといえば暗い曲ですが、疾走感があってダンスミュージックらしさがあります。
ザラザラとしたシンセが空間を埋めていくのが心地好く、微妙に揺らいでいるのもビートの盛り上げに一役買っていると思えるところが巧いですね。キックが消える3:00~はより一層主張が激しくなり、スキーで雪原を滑走していくようなイメージが浮かびます。再びキックが戻ってきてからが非常に格好良いです。
03. Bubble Has No Answers
確かに"bubble"を感じる音で構成されていると思います(コポコポという擬音語が似合うような)。ただ綺麗な水の…というよりは沼気といった具合のダーティなサウンド。
変化をつけているのはわかりますがこのアルバムの中では比較的控え目だと思うので、よりテクノ寄りな印象です。従来のDシリーズにあってもおかしくないような気がします。珍味シリーズにキビヤックをテーマにした曲がなかったのでこういうサウンドで作ってほしかったな。笑
04. Staring At All This Handle
SMDのMVの中で「Your Love Ain't Fair」に次いで二番目に好きな映像です。狂気と可笑しさが同時に漂っているところがPSゲームの『LSD』(1998)のようで堪らない。ジャケットもこのMVのワンシーンで、先行リリースもされている曲なのでリードトラックでしょうかね。
鼾あるいは動物の唸り声のようなコミカルな音の応酬と共にビートがじわじわと積み重ねられていきます。メインフレーズが微かに聴こえ始めたと思ったら割とすぐにその存在が大きくなり、曲の方向性が一気に定まったなという気になります。
MVにも捩れたものがたくさん登場しカメラワークもグルグル回っていますが、確かにこのメインフレーズからは回転を感じます(螺旋を描いて墜落していくような印象)。フィルターの使い方が見事なのだと思いますが、毎回微妙に変化するので単純なのに飽きないというSMDらしさ全開で素敵です。
05. Face to Face with Spoon
少し3rd『UNPATTERNS』(2012)らしさがあると思ったからかもしれませんが、結構お気に入りです。また、1:59~登場する綺麗で幻想的な音がこの曲を特徴付けていますが、それがどこか日本の祭囃子を思わせるからというのもあるかも。
実際はベル系の音だと思うんですが、音が重なってくると笛の音っぽく聴こえるところがあって、その瞬間に日本を感じました。急に逸れますが、蝶が舞っている映像も同時に浮かびます。
この印象的な音を除いても十分に格好良いトラックで、実際2分近くまでこの音は出てこないので、序盤で繰り返されるフレーズをいじっていくんだろうなと思っていただけに意表を突かれました。
06. Space Is Filled with Ringing
いちばん好きな曲かもしれません。タイトルを受け、確かにベルっぽい音は鳴っているし盛り上がりをみせる箇所もあったけど、言うほどか?と思っていました。しかし4分を過ぎたあたりでおっ?と思い始め、キックが消えた4:15~はまさに「Space Is Filled with Ringing」で、言うほどだわと思いました。笑
少し前にテレビ朝日の『はくがぁる』(2016)を観て知ったのですが、シンギングボウルという仏具(楽器)の音を思い出しました。一度鳴らしてから桴?で縁をこすると音がどんどん増幅され、テレビ越しでも頭の中をシェイクされたような感覚になったのですが、それに近いものがありました。
というわけで瞑想用として非常に重宝しそうな曲です。決して静かな曲ではないけれど、没入感は味わえるのでは。あとは、全体的に同じDシリーズの「Balut」に似ている気がしたのでミックスしたら面白そう。
07. Remember In Reverse
先行リリースのうちの一曲で、アルバム中最もダンサブルなのでフロア向けだと思います。タイトルからの連想もあるでしょうが、何かが高速で巻き戻っていく映像が浮かぶ。
始まりこそ静かですが、徐々に音が厚くなって音数も増えて賑やかに。3:26~聴こえ始めるドラム?が入ってからはトライバルな趣が強くなり恍惚へと誘われます。6:41~のブザーみたいな音が鳴り始める瞬間がいちばん好き。
08. Flying or Falling
wikipediaをみる限り『Far Away from a Distance』(2016)に収録されているみたいですが、自分がiTunesで買ったやつには入っていませんでした。日本のストアにはないか、他サイトにはあったのでしょうか。
この曲はそのまま『Whorl』に入っていても違和感ないなと思いました。物悲しいパッドが空間を支配している感じは4thにも見られたなと。印象としては地味な曲ですが、中盤のクラップが暴れ出すところが格好良いです。
09. Drone Follows Me Everywhere
この曲が事実上のラストです。今やドローンといえばマルチコプタータイプの無人機が浮かぶ時代ですが、元々"drone"は"雄蜂"を指す言葉らしく、"ブンブンいう音(蜂の羽音)"や"単調な低音"という意味もあるそう(音楽用語としても扱われ"持続低音"というらしい)。
いずれにせよ鬱陶しいことこの上なくノイローゼになりそうなタイトルですが、これがサウンドにも反映されています。
イントロから鳴っている不穏な持続音が段々と大きくなり、何かがこちらに近づいてきているという緊張感が漂う序盤。曲が進むにつれ微かに羽音のような不快な音が混ざり始めていることに気付く。羽音は段々と大きくなってメロディのようなものを成し始め、愈々姿を現したかといった感じに。
中盤からは曲全体に金属的な質感が加わり、ここまでくるとドローン(無人機)が編隊飛行を見せている映像が浮かぶ。終盤には静かなパートが登場するので危機は去ったかと思いきや、金属的な音だけが再び接近してくるという意味深な展開となって終了。
10曲目は言わばDISC 2なので後ほど書くとして、本編は以上の9曲です。やはりDシリーズだけあって全曲ともテクノ要素が強いなと思いました。わかりやすい変化を示すのではなく徐々に微妙に変化させるという手法がとられているので、ふと気付くと大きく変わっているという発見の喜びを存分に味わうことができます。
冒頭でリンクした記事の中で『DELIACIES』はシンプル過ぎると思うと書きましたが、今作はもう少し複雑になっているという印象を持ったので、同じテクノベースのアルバムでもSMDの確かな進化を感じました。
音遣いに関しては『Whorl』の影響もあると思います。01.「Happning Distractions」や08.「Flying or Falling」なんかはわかりやすいですが、憂いを帯びた音作りが印象的です。
元々3rd以降は明るい曲が多くないのですが、今作は特に暗いですね。強いていえばMVを埋め込んだ04.「Staring At All This Handle」と07.「Remember In Reverse」には陽性を感じなくもないですが、その他の曲は病的あるいは幻覚的といいますかダウナーな雰囲気です。
特に01.「Happning Distractions」で始まり09.「Drone Follows Me Everywhere」で終わるという構成からは、幻覚や幻聴が現実のものとなって襲いかかってくるといったストーリーが浮かびました。その「現実のもの」というのも妄想に過ぎないといった具合。
長くなるので曲名の頭文字だけをとって書きますが、先行リリースの02.「FAfaD」, 04.「SAATH」, 08.「RIR」はどれも好きですね。アルバム初出曲だと、06.「SIFwR」, 09.「DFME」, 05.「FtFwS」が個人的ヒットトップ3です。
10. Welcome to Sideways (A Delicacies Mix)
『DELICACIES』のDISC 2(mixed)に相当するもので、新Dシリーズの楽曲がノンストップでミックスされた52:23もあるトラックです。音源が公式にアップされているので埋め込みました。
曲の順番は入れ替えられているうえにアルバム未収録曲もミックスされているので、このアルバムしか聴いていない場合、知らない曲も出てくると思います。
というわけで、先行リリースされた曲のうちアルバムに入らなかった3曲を紹介して記事を終えます。未収録曲についてはバージョン違いやリミックスを含めるともう少しあるんですが、ここでは割愛。加えて、コンピレーションアルバム収録の「Ballon Takes A Holiday」という曲もあるようですが、それはまだ聴けていないのでここで名前だけ出しておきます。
Sky On the Floor
主にパッドのせいだと思いますが、Underworldの「Peach Tree」を彷彿とさせます。夜に巨大な飛行体が雲の中を突き進んでいるようなイメージが浮かぶ。そのイメージでいうのも何ですが、全体的には明るめのサウンドという印象です(特に終盤)。アルバムが暗かっただけに余計にそう思うのかもしれません。
Soft Attack
シンプルですがノリが良くて好きな曲です。トライバルなビートに乗せて少しチープな音でメインフレーズが繰り返されるというのが軸ですが、中盤に綺麗な音が前面に出てくるパートがあるのでそこが"Soft"なんだと思っています。メインフレーズは終盤でキラキラした音に変わりメロディらしさが消えますがそこも地味に好きです。
Laughing in the Face of Block
Dシリーズにしてはシンプルさを売りにしていない珍しい曲だと思います。5:13というのもシリーズ最短。シンセもビートを担っているというか、低い音でこまごまと暴れ回るので耳が忙しいです。その点でいえばDシリーズでは「Hachinoko」に近いかも。聴けば聴くほど味が出るタイプですね。